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時の砂に眠る声―考古学少女の記憶譚―  作者: tomsugar


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7/20

踏切の刻印、残された声

―越境の記憶が呼び起こすもの―


夢は、時として過去の記憶をより鮮やかに、心を揺さぶる映像として現れる。

遥が見たのは、ただの幻想ではなかった。

それは、忘れられた土地に刻まれた痛みと、そこに生きた人々の、叫びにも似た祈り――。

音もなく始まったその夢は、やがて彼女を、ひとつの決意へと導いていく。


***


夢は、音もなく始まった。


ゆるやかな丘の斜面にある荒れた空き地。その一角だけ草が刈りこまれ、手入れされた区画があった。中央には、古びた石碑がぽつんと立っている。

その前で、一人の青年が軍服姿の男に殴られていた。青年は何も言わず、ただ耐えている。


倒れ込んだ彼の前に、小さな小坊主が飛び出した。


「やめてください!」


子坊主の叫びに、軍人が一瞬動きを止める。だが次の瞬間、子どもを荒々しく押しのけた。

離れた場所から町の人々が様子を見守っていたが、誰も動こうとはしない。

そこへ、一人の老僧が現れる。高位の袈裟をまとい、年季の入った杖を手にしている。


「……このくらいでどうか、ご勘弁を…」


その一言に、張り詰めていた空気が緩んだ。軍人は老僧をにらむと、舌打ちをしてその場を離れる。倒れた青年の肩に、老僧がそっと手を添えた。



場面が変わる。

視点は同じ。だが石碑はなくなっていた。草地の先には、赤錆びた鉄路が走っている。

警笛が遠くで鳴ったかと思うと、貨物列車がカーブを曲がりきれずに脱線。

車両が次々と横転し、粉塵が舞う。積荷が飛び散り、線路沿いにいた人々が巻き込まれていく。

数え切れない命が押し潰された。



また場面が変わる。

幼い子どもが、線路を渡ろうとしている。汽笛が鳴り響く。

子どもは走り出したが、足を取られたように転倒――視界が暗転する。



老婆がゆっくりと踏切を渡っている。途中でふと立ち止まり、空を見上げたかと思うと――悲鳴と衝突音が重なった。



場面は静寂に包まれる。音が消えた。

早朝の光の中、青年がひとり、茶色の法衣をまとい祠跡の前に正座していた。


両手を合わせ、深く頭を下げる。風の音だけが周囲に響いていた。

やがて空が白み始めるころ、青年はその場に倒れていた。

しばらくして、子坊主の声が遠くから聞こえる。


「おにいさーん!……おにいさんっ!」


夢の光景は、そこでふっと途切れた。


その日、由里は、遥の様子がずっとおかしいことを気にかけていた。錫華寺しゃっかじから戻って以来、遥はずっとぼんやりしていた。今日の学校でも、終始どこか上の空だった。


その日は1学期最後の日だった。


帰り道、遥は遊歩道の踏切跡へと向かった。うつろな表情のまま歩く彼女を心配して、由里が少し距離を取って後をつけてきている。


ちょうど踏切跡に差し掛かったところで、遥は足を止めた。


遥だけに見えているその光景は、夢で何度も見たものだった。生前の「最後の行動」を、今もなお反復し続けている数えきれない人々の姿――彼らは一様に、線路の向こう側へと渡ろうとしていた。その先には、かつて川を挟んで集落があったという。


(私も夢で……踏切の前で、「向こうに行かせてください」って祈ってた。

もしあのとき、お兄ちゃんが助けに来てくれなかったら……どうなってたんやろ)


遥の足に、湿気を含んだ生暖かい風がまとわりついてきた。


遥はくるりと振り返り、目を見開いたままつぶやいた。


「錫華寺の住職さんに、会いに行こう!」


「えっ……私、いるの気づいてたん?」


驚く由里の声が追いかけてくる。


「遥待って!自転車で行こうや!!」


だが、遥にはもう聞こえていないようだった。


彼女はそのまま、線路跡を背にして駆け出していた。

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