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時の砂に眠る声―考古学少女の記憶譚―  作者: tomsugar


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郷土資料館、夢との照合

ー過去をひもとく鍵ー


日曜日の朝、まだ空気にゆとりがある時間帯。

開館時刻ちょうどに合わせるようにして、遥と由里は郷土資料館の前に現れた。

遊びや買い物ではなく、今日の目的は“調査”。

夢の中で出会った風景と女戦士の謎――それを確かめるための、小さな冒険のはじまりだった。


朝いちばん、資料館の自動ドアが開くと同時に、遥と由里は中へ入った。

受付の職員が顔を上げて微笑む。


「おはようございます。今日は何か、調べもの?」


「はい、あの……昔の川の跡と集落の位置関係とか、それと真志袮ましねの祠の場所について――」


遥がもたもたと説明を始めると、横から由里がひょいと紙を取り上げた。


「これに書いてること、ぜんぶ調べたいんです!」


さすがの直球に、受付の人も少しあっけにとられつつ笑顔で頷いた。


―――


《郷土資料館で調べたいことリスト》


真志袮の祠

 場所の記録が残っているか。伝承や地図の類いはないか。


ヤマトタケルの服装

 スケッチの人物の装いがいつの時代のものか調べる。


みずらについて

 女性も結っていた可能性はあるか?


錫杖について

 最古の実物は何時代か?鳴らした音が聞けるか?(レプリカ・本物などで)


古代の集落跡の場所

 スケッチの場所に古代の集落が実際あったのか?


―――


「なかなか専門的ね。ちょっと待ってて、詳しい人を呼んで来るから」


しばらくして現れたのは、名札に「大浦 美和おおうらみわ」と書かれた女性だった。柔らかく笑みを浮かべ、遥に声をかける。


「やっぱり、あなただったのね。で、今日は何を調べに?」


「えっ、やっぱりって……?」


由里が即座に食いつく。


「遥って、有名人なんですか?」


「もちろん。現地説明会には皆勤賞だし、片桐フェスの郷土資料館ブースにも毎年来てくれる。私たち考古学界の、密かなアイドルよ」


「へぇ〜……」


ただの“ちょっと変わった友達”と思っていた遥が、まさかそんな評価を受けていたとは。


由里は思わず尊敬の目で遥を見た。遥は「やめてくださいよ〜」と、照れくさそうに頭をかいている。


―――


その後、美和の案内で資料を調べた二人は、昼休みに資料館の小さな食堂へ移動した。


トレイを並べて席についたところで、美和がふと首をかしげる。


「でもさ、どうしてこんなこと調べてるの?」


遥が答える前に、由里が口を開いた。


夢の話、スケッチ、集めたメモ――これまでの流れを簡潔に語っていく。


(言っちゃった……)


遥は内心ひやひやしていた。おばけの夢の話など、普通なら信じてもらえない。


だが、美和は目を丸くしたまま、遥の描いた女戦士のスケッチをじっと見つめていた。


「ちょっと、待ってて」


美和が連れてきたのは、無口そうな男性だった。名札には「久賀 くがわたる」とある。


「私と同じ大学院生で、考古学専攻の仲間よ」


美和が久賀に説明する。「これは、彼女が小学二年生の時に見た夢なんですって。考古学的に見て、どう思う?」


久賀は静かに遥のスケッチを見つめたあと、口を開く。


「……この髪型、“みずら”は本来、男性のものとされている。この女性の服装も、“きぬ”と“はかま”という、当時の男性のスタイルだ。古墳時代の終わりから飛鳥時代にかけて見られる特徴だね。ただ、彼女は武装している。そうなると、戦うために女性が男装していた可能性もあるかもしれない。

それと、手に持っている錫杖しゃくじょうについてだけど、これは仏教伝来以降に日本に伝わったとされている道具なんだ。


そう考えると――この女性は、仏教伝来後の飛鳥時代に実在した、男装した“女戦士”だったという仮説も、まったく荒唐無稽とは言えない。小川さんが描いたこの絵、見た目は幻想的だけど、考古学的に見ても筋が通っている。不思議な話だよ、本当に」


美和は遥のスケッチを見つめながら言った。


「そして、この集落のイラストだけど――後で精密に検証してみないと正確なことはわからないんだけど…」


「描かれている地形、このあたりは、真志袮環濠集落跡ましねかんごうしゅうらくあとの場所と、符合してるのよ」


遥と由里は、顔を見合わせた。

夢と現実、その境目が、ふいにゆらいだ気がした。


「じゃ、午後は場所を移動しましょう」


美和が椅子から、さっと立ち上がる。


「えっ、どこか行くんですか?」


遥と由里が、同時に問いかけた。


「うん。もしかしたらそこで、何かヒントになることを教えてもらえるかもしれないから」


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