かつて踏切があった場所
―夢と現実の境界―
前夜に見た夢の残像が、遥の朝に影を落とす。
踏切の音、女戦士の気配、そして丘の風景。
それらが現実の風景とつながりはじめたとき、ふたりの少女は確かに一歩を踏み出した。
過去の地層に埋もれた記憶が、今、静かに語りかけてくる。
*
遥は、朝の通学路をひとり歩いていた。昨日の夢の余韻が、頭から離れない。
あの女戦士の姿、耳に残る錫杖の音、そして――踏切の警報音の響き。
「ちょっと、遥!はるかって!」
後ろから、息を切らした声が響いた。振り返ると、由里が手を振りながら駆け寄ってきた。
「昨日、遥が変な音がするとか言ってた場所、放課後一緒に見に行こ!
あそこ、幽霊の目撃情報がめっちゃ多いらしくて、オカルトスポットらしいで!」
怖がりのくせに、妙にこういう話になるとテンションが上がる由里は、どこか楽しげだった。
昼休み、遥はノートとスケッチ帳を取り出した。
今朝の夢を忘れないように描きとめた女戦士の姿、丘から見た風景を、由里にそっと見せる。
「え、なにこれ、絵うま!遥ってこんな絵うまいん!?」
「そこは本題ちゃうやん……」
「この女戦士が持ってるの、錫杖ちゃうん?
……もしかして、この夢の影響で、あのキーホルダー買ったん?」
「わからん。それは……たぶん無意識」
由里はスケッチをじっと見つめたまま、小さくうなずいた。
遥は小学校2年生のときに見た夢のこと、そして今朝の踏切の夢と、女戦士の話を順に伝えた。
由里はふむふむとうなずきながら、すっかり話に引き込まれていた。
「実はな、昨日の遊歩道って、昔は線路が通ってたらしくてな。
しかも、遥が音を聞いたって言ってたあたり、どうも昔『真志袮踏切』って呼ばれてた場所らしいで」
「私が聞いた音、水の音やってんけど……」
「そこそこ!それがな、その線路のさらに昔、あの場所は川やったらしいねん!」
由里の目がきらきらしていた。
「それだけやなくて、あの辺に昔のことが書かれた看板があるらしいねん。
今日の放課後、それ見に行こ!」
放課後、ふたりは昨日と同じ遊歩道を歩き、遥が音を聞いたあたりへ向かった。
まもなく、由里が指を差す。
「ほら、あれちゃう?」
そこには、小さな案内板が立っていた。ふたりは足を止め、並んで文字を追った。
*
真志袮踏切跡
かつてこの付近には、「真志袮の祠」と呼ばれる祠が存在しており、それにちなみ、この踏切は「真志袮踏切」と名づけられました。
この踏切を通っていた線路は、戦前、軍需資材を運搬する目的で敷設されたものです。しかし戦後はその役目を終え、長らく廃線となっていました。
やがて高度経済成長期を迎えると、この一帯は再開発の波にのまれ、線路跡は遊歩道として整備され、周辺の古墳跡も発掘調査を経て住宅地へと姿を変えていきました。
静かに佇むこの道の下には、今もなお、かつての記憶と人々の営みの痕跡が眠っています。
*
川、踏切、そして丘。夢と、現実が少しずつ重なっていくような、不思議な感覚がした。
「……日曜日、郷土資料館行ってみる。もっと、この土地のこと、ちゃんと調べてみたい」
由里はうなずき、嬉しそうに言った。
「ええやん!私も一緒に行く!ついでに、昔の地図とかも見てみよ!」
ふたりの小さな探検が、静かに始まりつつあった。




