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時の砂に眠る声―考古学少女の記憶譚―  作者: tomsugar


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夢に続く踏切

ー悪夢の再訪ー


遥はベッドの上で、郷土資料館でもらった資料をめくっていた。

古墳の出土品や古地図に心が躍る。

だが、ふと手が止まる。

——あの遊歩道、昔は何があったんやろう?

通り慣れたはずの道が、急に違って見えた。

もっと話を聞いておけばよかったな、と思ったそのとき——

まぶたが重くなり、音が近づいてくる。

カン、カン、カン……

夢がまた、静かに開き始めた。


           *


遥は、自室のベッドに寝転びながら、今日もらった発掘調査の資料やパンフレットをパラパラとめくっていた。

片桐市立郷土資料館で開催されていた企画展示――


「片桐の古墳とその時代」


配られた資料には、出土品の写真や古地図が印刷されており、目を通すだけでも胸が躍る。

だが、ふと集中が途切れ、視線が止まる。


——あの遊歩道って、昔は何があったんやろう。


今日通ったばかりの道。今はただの緑道だが、何かの跡地かもしれない。

資料館で応対してくれたあの職員さんに、もっと話を聞けたら……。


そんなことを考えているうちに、まぶたが重くなり、夢の世界へと引き込まれていった。


           *


カン、カン、カン——。

踏切の警報機の音が、遠くから耳に届く。

遥は、一人、夜の坂道を下っていた。

左手、数メートル下には線路。坂の下には、踏切がぽつんとある。

どこか奇妙な感覚のまま、彼女は踏切へと近づいていった。

その向こうには住宅街が広がっている。自宅も、その一角にある。

遮断機の下りた踏切に、たどり着いたそのとき。


——シャリン、シャリン。


警報機の音が遠のき、代わりに聞き覚えのあるあの音が、耳に鋭く響いた。


——シャリン……。


真後ろに、それが来て止まった。


——子供の頃、夢で見た、あの無表情の女戦士と、その部隊の兵士たちがすぐ背後にいる。


そして、また手招きしているのだ。

そう確信しながらも、振り返る勇気はなかった。

後ろを見られず、ただ踏切の向こうを見つめて、立ち尽くす。


早く、電車来て……!

踏切、開いて……!

向こうに行きたい!!


必死に願っても、それが叶わないことを遥は知っていた。

電車は来ない。けれど、無理に渡ろうとすれば——突然、電車が現れて自分を跳ねる。

なぜか、それだけは確かにわかっていた。

進むことも逃げることもできず、恐怖が体のすべてを縛っていた、そのとき——


「おーい、遥! そこで、なにしてるんだ!」


踏切の向こうに、人影が現れた。

懐かしい声が耳に届いた。

そこに立っていたのは――幼なじみのお兄ちゃん。

東京から越してきた彼は、いつも私に優しかった。

彼が声をかけたその瞬間、背後に渦巻いていた亡霊の気配がすっと消え、

あれほどけたたましく鳴っていた警報音も止んだ。

遮断機が音も立てずにゆっくりと持ち上がっていく。


「……助かった……」


安堵とともに、遥は駆け出し、お兄ちゃんのもとへ向かう。

「お兄ちゃん聞いてや!めっちゃ怖かってん!」

お兄ちゃんは、自転車を押しながら、遥の話に静かに耳を傾けていた。


           *


早朝、遥は、まだ外が暗い時間に目を覚ました。午前二時ではないかと確認したが、そうではなかった。

かなりの恐怖体験ではあったものの、最後にお兄ちゃんに助けられた安ど感があったため、

心は穏やかだった。


この夢のひとつだけ奇妙なこと——夢に出てきた町は、遥の知っている町ではなく、「お兄ちゃん」という幼馴染も、遥の記憶にはない存在だった。


あの夢、小二のとき見た、あの亡者行列がまた登場してた。


子供の頃にはただの「怖い夢」として片づけていた記憶が、今になって意味を帯びてきている。


彼女は枕元のノートを手に取り、昔見た川と亡者の夢を思い出しながら、メモを書き始めた。


 


 


『小二の頃に見た夢』


大柄な女の人が馬に乗っていた。

右手には錫杖(しゃくじょう)。鈍く光る金色で、たぶん青銅製。


髪はみずら。

服はヤマトタケルみたいな白い古代の装束。その上に鎧を着ていた。


両脇に、小柄な男の戦士っぽい人たち。馬に乗った人も何人かいて、その後ろには歩いている兵士たちが続いていた。


女の人はすごく大きく見えたけど、たぶん体格は今の私たちと同じくらい。まわりの男の人たちが痩せて小柄だったから、そう見えただけかもしれない。


一行が川辺に着いた。川はあふれていて、渡れなかった。

水位がどんどん上がって、女の人の腰のあたりまできた。

そのあと、女の人と周りの兵士たちの姿が砂みたいに崩れて、静かに消えた。


 


 


夢の映像を描き終えたあと、遥は筆を止めて、静かに息をついた。

これは、ただの夢じゃない。


あの場所の「記憶」が、確かに自分の中へと流れ込んできている——

そんな気がしてならなかった。

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