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時の砂に眠る声―考古学少女の記憶譚―  作者: tomsugar


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2/20

目覚めかけた少女の記憶

―錫杖の音が示すもの―


―その音が、すべての始まりだった。

「シャリン」という、かすかな金属音。

それをまた耳にしたのは、春の風がまだ少し冷たい午後のことだった。

小川遥(おがわはるか)は、その日もいつもと変わらず、友だちと並んで歩いていた。

片桐フェスティバル―一年に一度のにぎやかな催しは、

誰にとってもただの日常の延長だった。

けれどその日、遥の耳に届いたのは、土地に眠る記憶のひとひらだった。


           *


小川遥は、この春、中学生になった。

地元・片桐市立西中学校に通う、ぱっと見はどこにでもいるような女子生徒だ。けれど実は、週末になると発掘現場の現地説明会に足を運び、考古学イベントがあると聞けば、一人で自転車をこいでどこまでも出かけていく――

そんな、ちょっと変わった趣味を持っている。


小学校からの友人、斎藤由里とは中学でも同じクラスになった。

由里は、近所でも評判の美少女で、勉強もよくできる。好奇心が強くて行動力もあり、どんなときも遥のそばにいてくれる心強い存在だ。そんなふたりは、今年も変わらず、並んで学校生活を送っていた。


春になると、市のグラウンドでは毎年「片桐フェスティバル」が開催される。

子どもの頃は親に連れられて来ていたけれど、今では由里とふたりで遊びに来るのが恒例だ。

会場にはさまざまなブースが立ち並び、展示団体や露店、手芸や工芸を販売するアーティストの姿もある。

仮設ステージでは、市の大会で優勝したブラスバンド部が演奏を披露していた。


由里はというと、たこ焼きとイカ焼きを両手に持ち、イカ焼きの串でたこ焼きをつつきつつ、イカ焼きもかじっている。

すでに祭りを満喫中。次はガラス細工のアクセサリーを見に行くと、走り去っていった。

遥はというと、あまり浮かれて買い物をするタイプではない。

そんな中、ふと目を引くブースがあった。


白いクロスの上に、瓦や土器、石器が整然と並べられている。

その一角に、遥は吸い寄せられるように足を向けた。


パネルブースには、引き伸ばされた発掘現場の写真が掲げられ、

その横には簡潔な解説プレートが添えられている。

テーブルの上には、これまでの発掘現地説明会で配布された資料が、平らに重ねて置かれていた。


現地説明会はたいてい平日に行われる。

学生の遥にとってはなかなか参加が難しい――だからこそ、彼女は机の上に並ぶ資料を一つ残らず手に取った。


やがてブースの端にひっそりと置かれたグッズ販売コーナーに気づいた。

出土した土器のプリントされたトートバッグや、古墳から出土した宝剣を模したキーホルダー――どれも魅力的で、選びきれずに端まで歩いていく。

そこで見つけたのが、それだった。


丸い金属の枠に、小さな輪がいくつもぶら下がったキーホルダー。

音がしそうだ、と思いながら指でそっと触れると、控えめに「シャリン」と鳴った。


それに心を奪われた遥は、値段も見ずに口にした。

「これください」


           *


「やっぱ、ここにいたー」

後ろから由里が軽く体当たりしてきた。

「何買ったん?見せてー」

遥がキーホルダーを見せると、

「渋っ!やっぱ遥のチョイスは独特やなぁ〜」

由里はケタケタと笑った。

遥は、ブースでもらった、片桐市立郷土資料館のトートバッグに、そのキーホルダーをつけた。

中には、もらった発掘資料やパンフレットがぎっしり入っている。

遥は、ご満悦といった表情で上機嫌だ。


「これな、『錫杖頭(しゃくじょうとう)』っていうらしい。ここに棒がついてて、鳴らしながら歩くらしい。仏教のやつらしいで」

錫杖(しゃくじょう)の頭についてる飾りやから、錫杖頭(しゃくじょうとう)?」

「たぶんそれ……知らんけど」

「なんやそれ」


たまらず吹き出し、ふたりでおなかを抱えて笑いあった。

くだらないことでも、なぜだかおかしくて止まらなくなる。

その場で、息ができなくなるほど笑い転げた。


           *


帰り道、遥と由里は遊歩道を並んで歩いていた。


かつて暴れ川と呼ばれた片桐川は、いまでは根本から堰き止められ、その流れも消えている。

残されたのは、川だったことを物語る緩やかな地形と、ところどころに残る護岸の名残だけだ。


その川跡は、今では細長い公園のようになり、ベンチで読書をする人や、追いかけっこをする子どもたちの姿がある。

静かな夕暮れ、そこはすっかり、市民の憩いの場となっていた。

遊歩道を歩いていると、水音にまじって、かすかな音が聞こえた。


――シャリン、シャリン。


遥は立ち止まり、隣の由里を見る。


「今の、聞こえた?」

「え?どんな音?」

「川の水音みたいなんと、シャリンって音。」

「え? 何も聞こえてへんけど……なになに? 怖いって!」


由里は遥の腕にしがみつき、ぴったりと身体を寄せてきた。

けれど、遊歩道には何ひとつ変わった様子はなかった。


人々が行き交い、ベンチでは家族連れが笑い声を交わしている。

ごく普通の、穏やかな夕方の風景だった。

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