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時の砂に眠る声―考古学少女の記憶譚―  作者: tomsugar


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15/20

祈りが沁みた大地で

―誰かを想い、誰かに想われた場所―


真夏の陽ざしが照りつける中、少女は一人、寺の門をくぐった。

静かに、しかし確かな意志をもって――「(ほこら)へ行きたい」と口にしたその言葉が、

錫華寺(しゃっかじ)に積もっていた時の層を、そっと剥がしてゆく。

語られることのなかった記憶、誰にも言えなかった想い。

すべてが、千年を越えて交わろうとしていた。


これは、過去と今とを結ぶ、祈りの章。


           *


外は午前中でも強い日差しが照りつけ、蝉も騒がしく鳴いていた。

遥は、珍しくひとりで錫華寺(しゃっかじ)を訪れていた。

玄関先にいた若い僧が「おや?」と顔を上げる。

彼は、遥が一人で来たことに少し驚いたようだった。


「住職さん……私、(ほこら)があった場所に行ってみたいです!」


遥の唐突な申し出に、若い僧は一瞬きょとんとした。

そして、すぐに隣にいた住職の顔をちらりと見る。

住職は、遥をじっと見つめたのち、ふっと頷いた。


「……そうですな。遥さんは、あの場所を何度も夢で訪れておられる。

行くべき時が、来たのかもしれませんな」


その言葉に、若い僧が慌てて口を挟んだ。

「し、しかし住職……禁足地は、あまりにも……。

その、万一のことがあれば……!」


彼の声には、本気の心配がにじんでいた。

寺に伝わるあの場所の曰くを、誰よりも気にしているのがよく分かった。

だが、住職は静かに首を振り、僧の肩に軽く手を置いた。


「遥さんはね、隼人さんに守ってもらってはるそうですから」


その目には、どこか懐かしさをたたえた優しい光が宿っていた。

一拍おいて、にこりと微笑む。


「……大丈夫でしょ」


それは、揺るがぬ信頼と、あたたかい祈りのような言葉だった。

そこにいた、若い僧の運転で、遥と住職は禁足地へと向かった。

田園の中にぽつんとある森は、鉄柵で囲われていた。

そこが禁足地であるということは公表されていないが、地元ではよく知られていた。

柵の脇にある、ちょうど車1台分くらいの空き地に車を停め、車を降りると若い僧は無言で鍵を取り出し、ゆっくりと柵の錠を外す。


金属のきしむ音が、静寂の中でやけに大きく響いた。

3人は、柵の奥へと足を踏み入れる。

中に入ると、意外と広々とした場所で、10平方メートルほどの広さのある森の中という感じだった。


木々が陽を遮り、地面には厚く落ち葉が積もっていた。

ただ、定期的に手入れはされているという雰囲気があった。

どこか、時間の流れから切り離されたような、そんな場所だった。

普段は快活な若い僧も、このときばかりは無口で、わずかに顔を強張らせていた。


禁足地に伝わる言い伝えの重みが、彼の態度ににじんでいる。

住職は、森の中央に立ち止まり、ゆっくりとしゃがみこんだ。

そして、足元の土にそっと手を伸ばし、大切そうに地面をなでた。


「……隼人さんが倒れておられたのは、この辺りです。

(ほこら)も、ここに建っていたのですよ」


遥に語りかけながらも、その目はどこか遠い過去を見ていた。

遥はその横顔を見つめながら、あの日の夢を思い出していた。

石碑の前に座って話をしたお兄ちゃん。


一緒に座った大きな石は、そこにはなかったけれど――たしかに、ここだったのだ。


――シャリン。


静寂を破って、錫杖(しゃくじょう)の音が鳴った。風が一陣、森を吹き抜ける。

木の葉が擦れあい、ざわざわと音を立てた。

だが、その風の奥に、気配は感じられない。


そこにいるはずの真志袮(ましね)は、今はまだ、姿を見せようとはしなかった。


ただ、何かが息を潜めている――

そんな緊張感だけが、あたりに漂っていた。


遥が見た夢と、語られた記憶と、静かに流れた時間。


それらが、ひとつの場所へと収束していくように――


錫華寺(しゃっかじ)では、まもなく

慧常上人開山忌えじょうしょうにんかいさんき・開山千四百年記念法要」が始まろうとしていた。


千四百年を越える歳月を経て、いま再び、その錫杖(しゃくじょう)の音が響こうとしている。

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