不安になるよね?でも大丈夫!何も怖いことは無いからね
「3人とも、大丈夫か?」
場所はダンジョンの第三階層。二階層から落ちてきた優斗は、一緒に落ちてきたフィーナとルチアとユリウスの無事を確認しながら、自分の足に回復魔法を施す。
「私は大丈夫です!ですが………」
フィーナは無事だと言うが、ルチアは着地に失敗したのか足が少し腫れていた。
「ごめんなさい。迷惑をかけて………」
「そんなことは気にしなくてもいい。〈キュアヒール〉」
ルチアの足を回復しながらユリウスの方に視線わ向ける。
「僕は無事さっ!心配してくれてありがとうねっ!」
「戦力が減ったら絶望的だからな。一先ず、回復はできた。今からあくあに連絡を繋げるから周囲の警戒を頼む」
優斗はそう言って立ち上がると、ギルドカードを取り出し、連絡アプリを開いた。
(パーティメンバーとメッセージのやり取りが出来る機能。見れば見るほどスマホのメッセージアプリそのものだな)
通話は不可能で、スマホゲームだなんて娯楽は無いものの、メッセージは可能で生死の確認も出来る。普通に万能な魔導具ではあるだろう。
『あくあ、無事か?』
メッセージを送ると、直ぐに既読がついた。
『こちらは無事です!怪我人もいません。ユウト様こそ大丈夫ですか!?』
心配させてしまったのだろう。直ぐに返信が来た。
『ルチアが足を挫いたが、回復魔法を施したから実質怪我人はいない』
実質怪我人0。これは思っていた以上に大事にはなっていない可能性がある。もっとも、〈初級神聖魔法〉を使えるあくあと優斗が分断されている時点で怪我人についての心配は無用とも言えるが。
『そっちには全員いるのか?アルなんかは気配が薄いから居なくなってても気が付かなそうだけど』
『それについては安心してください!アル様は周囲の罠や敵の警戒を続けてくれています』
罠。ダンジョンにおいて忘れてはいけない存在だ。
「そういえば、こっちに〈罠感知〉と〈罠解除〉のスキル持ちはいないのか?」
念の為に優斗は3人に聞くが、3人とも首を横に振る。
「ごめんね。私たち、感知系スキルはあんまり持ってなくて………」
「ルチアが〈魔力感知〉で、私が〈敵感知〉を持ってるくらいなの………」
となると、最低限の対策は出来そうだ。
「俺が持ってるのは〈危険感知〉だから、2人の感知系スキルと組み合わせたら〈罠感知〉程とは言わないが、ある程度の罠は防げるかもな」
だが、それもタラレバの話し。完全な対策にはならない。
「おいおい、ちょっと待ってくれないかいユウトくん?何故僕に感知系スキルの有無を聞かないのだい?」
「いや、持ってないかなって思ってな。アルが優秀そうだから」
「酷いね君は!?確かにアルのお陰で感知系は殆どいらないけど、〈索敵〉くらいは習得しているさっ!」
正直、戦闘はユリウスが担当して、ユリウスはそれ以外はからっきしだと思っていたので〈索敵〉を持っていることは意外だった。だが、
「一先ず、最低限の能力はある。これで、俺たちは進むことが出来る!」
「進むって、どこに?」
優斗の言葉に一番最初に反応したのはフィーナだった。
「どうしたのだい?フィーナ嬢。進むと言えば下じゃないか!その為に僕たちは」
「でも、ここには主戦力はいないよ?」
そう。フィーナの言う通りだ。
「フィーナの言う通りだよ?強力な攻撃を出せるミクロさんも、冷静な指揮官のジャックさんも、斥候としても優秀なアルさんも。私たちよりもずっと強かったあくあちゃんも!誰もいないんだよ!?」
そう。全員が、ここにいない。主力を除いたメンバーだけだ。
「安全なんて保証されてないのに!勝手なこと言わないでよユリウスさん!」
「安全なんて、最初から保証されてないよ」
ルチアの叫びに最初に反応したのは優斗だった。
「最初から保証されてないって、どういうこと?」
「そのままの意味だ。強い人が居ても、負ける時は負けるし、死ぬ時は死ぬ。冒険者になった以上、俺たちに安全なんか保証されてないんだよ」
もし安全を保証するとしたら、それは自分自身が己を守るためにするものだろう。決して、他者に委ねるものでは無い。
「ダンジョンに来てから活躍出来てないからって、もう既に諦めたのか?」
優斗は一度心を折られ、そしてあくあとの出会いによって立ち直ったから。だから絶望を知ってる。敗北を知ってる。ここで死なないために、一度フィーナとルチアに現実を叩き込む。
「諦める、だなんて………」
2人とも。いや、ユリウスもだが、ダンジョンに入ってから然程活躍出来ていない。実際には三次元的な戦闘が出来るフィーナや後衛からの援護が的確なルチアは役に立ってはいるが、ミクロとあくあが強すぎた。
「ユリウス。まだ戦えるよな?」
「勿論だよ。二人は?どうするんだい?」
ユリウスに問いかけられても、フィーナとルチアの反応は乏しい。
「俺は、あくあとの約束がある。必ず、救ってみせるって、そう約束したから」
優斗の言葉にフィーナとルチアは顔を上げ、優斗を見る。
「あくあちゃんと?」
「あいつは強いよ。レベルこそまだ20に到達していないが、筋力のステータスは200を越えてる。敏捷に至ってはもうすぐ300になりそうだ」
秘められていたあくあのステータス。その片鱗を知ってフィーナとルチアとユリウスは絶句する。
「あくあは強い。俺なんかよりも。だけど、俺はあいつと約束したから。だから、こんな所でくたばるつもりは無い」
優斗はそう言いながら刀を抜く。
「進むぞ。合流して、生きて帰るためにも」
「どうやって、合流するの?」
希望が見えてきたのだろうか。フィーナが顔を上げながら問いかけてくる。
「決まってる。五階層を目指す」
五階層。それは、ジャックが推測したこのダンジョンの最下層だ。
「なんで!?なんで五階層なの!?そんな無謀な挑戦よりも、上を目指した方が………」
「俺の予想でしかないが、さっきのアルの違和感は視線だ」
ルチアの言葉に被せるように優斗は言葉を紡ぐ。
「視線?その根拠はなんだい?」
「アルの感知能力に引っかからなかった。なら、罠の可能性は低い。そして、穴が空く直前の衝撃波と声………」
「罠はアルさんの〈罠感知〉からも隠れれただけじゃ………?それに衝撃波と声も罠の可能性は?」
「そのレベルの罠だったなら、発動した時点で全員お陀仏だ。それに、あの衝撃波はダンジョン全体を震わせていた。思ったよりも強くなかったのは下からの攻撃だったからってことだろ」
「待って!?じゃあユウトさんの予想じゃ、下からの攻撃ってこと?でもここにはそんなモンスターは………」
「三階層からじゃ無い。もっと下。五階層からの攻撃だ」
ダンジョンボスが攻略途中に攻撃を仕掛けてくる。ゲームの中だとそこまで無い話しじゃない。寧ろ有り得る可能性だ。強力なボスモンスターがプレイヤーの攻撃を妨げるなんて物は、やり込み要素として導入されることもある。
「じゃあ、何?つまり、ボスモンスターが五階層から、私たちを狙って攻撃してるってこと………?」
「ユウトくん。それはいくらなんでも無理は無いかい?実際、そんな話は聞いた事がないよ?」
確かに、優斗の言った事は暴論かもしれない。だが
「可能性はある。そして、それを無視して楽観視は出来ない」
「じゃあ!尚更五階層には行かない方がいいんじゃない!?だって、そんなことが出来るボスモンスターなんだよ?行っても私たちじゃ………」
「いや、寧ろさっきのは警告だろうな」
「警告?何の………」
「逃がさないって言う警告だろ」
ここのボスモンスターは、想定以上に強い可能性はある。そして、先程の衝撃波はあくまでもダンジョンの床だけを狙った攻撃。
「違和感を感じて、撤退を視野に入れ始めていた。だから衝撃波を放ったのかもしれない」
「それは妄想じゃ無いかい?もしかしたら帰ろうとしても何もしないかもしれないよ?」
「ユリウスの言う通り、妄想かもしれないな。だけど、例え妄想だとしても五階層には目指すべきだ」
「敵も、強くなるのに?罠も、難しくなるのに?」
フィーナの不安は最もだ。主力が欠けた以上、この先の探索は不安が残る。だが、
「さっきの衝撃波が本当に罠じゃなくてボスモンスターからの攻撃だとしたら、四階層と三階層にも同じような穴は出来てる筈だ。ピンポイントに狙った場所だけに穴を空けるだなんて芸当は不可能に近いからな」
衝撃を自在に操れるわけではない。ならば、下へ降りる道中にも同じような穴はある筈だ。
「現状、ここがどこかわからない。だから、確実なのは穴を見つけて下へ降り、あくあ達と合流する事だ」
優斗はここまで3人に言うと、あくあに下へ降りる旨を連絡する。
『わかりました。ジャック様も下に降りるべきだと話しております』
『ジャックはなんて言ってた?』
『衝撃波の方向性からして、下からの衝撃。それも強さからしてボスモンスターからの攻撃の可能性が高いと仰っています。アル様は、先程よりも弱いものの、同じような違和感を感じ続けると。ジャック様は、ボスモンスターからの視線の可能性を示しています』
「どうやら、ジャックも同じ考えらしいぞ?」
優斗と根拠は違うものの、下へ降りる事を3人にも伝える。
「目指すは下だ。そうだろ?」
優斗は3人の目を見る。
「俺とジャックの考えは一致してる。その上で、下に降りた方が安全だと判断した。安心しろ。主力じゃなくても、戦力は集まってる。それに、無駄な戦闘はしない方針で行くぞ」
優斗はフィーナとルチアを立たせる。
「ユリウスはどうだ?」
「僕は大丈夫さ!それに、主力はいないと言っていたけど、僕が主力じゃないのかい?」
「悪いけど、お前の戦闘見てないからなぁ………」
現状戦力が未知数なのはユリウスのみ。フィーナとルチアの事はある程度わかっている。
「2人は?行かないのか?」
優斗がそう声をかけると、2人は漸く顔を上げた。
「下の方が安全………まだそれは信じれないけど」
「ですが、下に行った方がいいのはわかりました」
優斗は鼓舞するのが下手なのかもしれない。だけど、今はこれでいい。
「じゃあ行くか。五階層に」




