ピンチはチャンスですって?ピンチは普通にピンチですけど!?
「………敵」
「了解!ミクロくん!前方にモンスター5体!」
「任せろぉ!」
アルの短い言葉からジャックが裏の意図まで察し、的確な指示をする。
「粉微塵に潰れちまえ!」
荒々しいミクロの大剣がモンスター軍団を一掃する。
無論、スキルを使っていないとは言え筋力のステータスが秀でているミクロが振るった大剣は、その余波だけでも迷宮に少なくないダメージを及ぼす。ミクロもそれをわかっているが故に大雑把な攻撃は控えているが、それでも敵数が多く厄介な時は一掃するようにしている。
「それにしても随分進んだよねっ!」
相変わらずキランッ!という擬音がつきそうな仕草をしながらユリウスは周囲を見ながら呟いた。
「モンスターも多くなってきたし、ここより下は順調に進めなさそう?」
「ううん。直感でしかないけど、ここのダンジョンは難易度はそこまで高くないよ。それに、二階層でこの難易度ということは、恐らくだけど最下層は五階層じゃ無いかなって思うんだ」
「そうなのですね。ちなみに根拠等はあるのですか?」
「勿論。ダンジョンは難易度が高い程その強度も高いんだ。強力な攻撃にも耐えられるようにね。でも、推定筋力値200未満の攻撃でダンジョンにダメージが入るってことはそれ以上のダメージを想定していないってこと。後は、強いミクロくんやあくあさんは実感しにくいだろうけど、一階層と二階層に出てくるモンスターの強さが離れすぎてることかな」
「なるほどな。確かに脆いとは思ったがそういうこったよ………」
「私も、モンスターの強さまでは気になりませんでした………」
流石このパーティのトップ2。この2人にとってはそんなものは些細な変化らしい。
「そこまでわかるなんて流石だな」
「そんなことないよ。実際、アルの力が無かったらここまではわからなかったしね」
正直強さの変化に関しては優斗もそこまでわかっていなかったので関心していると、ジャックは苦笑いをしながら否定する。
アルは、斥候としても奇襲役としても優秀だが、情報収集能力や処理能力も非常に高いのだろう。
「実際、僕が一番役に立ってないんじゃないかって不安になる時もあるしね」
「それはねぇだろ。少なくとも、俺様の感覚じゃ、そこのナルシスト野郎よりも余っ程役立ってる」
「ナルシスト野郎とは随分な言い草だねっ!普段のクエストだと、優秀な前衛として大活躍なのだがね」
ユリウスは髪をファサッとかき揚げながら自信満々に言う。
「だけど、実際に今日はまだあんまり活躍出来てないよね?私はそれなりに戦ってるけど………」
「確かにフィーナ嬢が言う通り、僕はまだダンジョンでは戦っていない。だが、この僕の精密なる戦闘風景は、誰もが見惚れ、誰をも魅了する………」
「ユリウス、静かに………」
「あ、はい」
ユリウスの熱弁をアルは静かに遮った。どうやら上下関係はしっかりとしているらしい。
そしてそのアルは、床を凝視した後、何度かペタペタと叩いている。
「おい、どうした?」
突然のアルの奇行にフィーナとルチアは不安そうにその様子を見ておるが、一階層と二階層の実績からアルの能力をある程度信頼しているミクロがアルに素直な疑問をぶつける。
「ここに、なにかある?気がする………」
「気がする、ね………」
アルの疑問。それに対して最大限の警戒を始めたのはミクロとジャックとユリウスの3人だ。
ミクロは経験則から。ジャックとユリウスはパーティメンバーとしての信頼から。気がする。気の所為。そんな些細な問題も見逃さずにアルがペタペタと叩いている床に対して最大限の警戒をする。
「〈罠感知〉に反応は?」
「無い。あったら、こんな事しない………」
優斗の疑問にも端的に返したアルだが、〈罠感知〉に反応しないとなれば一大事だ。何故なら、それが示すのは二つ。スキルに反応しないレベルで罠とも認識出来ない程度の罠なのか。それともアルのスキルレベルでは反応出来ないレベルの罠なのか、だ。
前者なら咄嗟の反応も難しく無いだろう。だが、後者なら最悪だ。アルの〈罠感知〉のスキルレベルは決して低くは無い筈だ。それなのに反応しない程高度な罠ということは、それはつまり優斗達では対処はほぼ不可能だということ。
(今の状況、フィーナとルチアに何かしてもらうのは無理だな。確証は無いものの、何かあるかもしれないって言う不安に苛まれてる)
優斗の見立てでは、不安に加えて緊張で体が硬直している。これでは緊急時に直ぐに動くことは無理だろう。
(ミクロやジャック、ユリウスはどうだ?ミクロは力こそ強いものの感知系能力は低そうだ。ユリウスも同様。戦闘こそ役に立つかもしれないが、今この場ではあまり役に立たない)
そして今この状況を一番冷静に見れるのは優斗だからこそ、思考を止めることはしない。
(ジャックはどうだ?指揮官としては優秀だ。だけど、感知に関してはアルに依存してる節がある。ここで変にジャックに指示を仰いでも逆効果か?)
そして、アルが感知出来ないのであれば、この場でアルが疑っている罠を見つけられる物は一部例外を除いて存在しない。
そう。一部例外を除いて、だ。
(あくあなら、全部解決出来るか?)
この中で恐らく最もレベルが低く、そして最も強い存在。それがあくあだ。
(〈未来感知〉に加えて〈上級魔法〉。細かい補助は俺かジャックがすれば乗り越えられる………)
考えが纏まれば、後は行動に移すだけだ。
「あくあ。感知系スキルを万全に使った状態でアルに近付いてくれないか?」
「ユウト様?わかりました」
突然の優斗の言葉に疑問符を浮かべたあくあだが、何か狙いがあると察し、素直に行動に移す。
「あくあさん!?ここは一旦止まって………」
ジャックが慌ててあくあを制止しようとするが、あくあは止まらない。
一歩づつアルに近付いて………
「ッ!?ユウト様!」
突然止まったかと思えば、あくあは振り返って視線を後方に向ける。
そう。後方だ。優斗に視線を向ける訳でもなく、その遥か後ろに視線を向ける。理由は難しくない。何か危険が迫っており、アルも含めた全員がアルが違和感を覚えた床に集中しており、あくあがそれに気がついたから。
そして、優斗もそれに直ぐに反応したから、刀を抜いた。
「しゃがめ!ルチア!」
後方から迫ってきたホブゴブリンは手に持った棍棒をルチアの頭に向かって振り下ろそうとしている。
だから優斗は首を狙いながら刀を振るい、それに気がついたジャックは未だ硬直しているルチアを地面に押し倒した。
「キャッ!?」
突然の事態に困惑しながらも、抵抗することなく地面に押し倒されるルチア。優斗はルチアの事を気にすることもなくホブゴブリンの首を飛ばし
「皆さま!足元を気をつけてください!」
あくあが剣を抜きながら足元を警戒するように言う。
突然の事態だが、アルが床を警戒していたこともあり、全員がアルが調べていた場所を警戒する。
だが、それは間違いである。
あくあが警告したのは床では無い。足元だ。
つまり、それはアルが警戒していた床でもあり、全員の足が接触している地面でもあり、床である。
「ちっ!?そういうことかよ!」
いち早く違和感を完結させたミクロは大剣を振り上げながらスキルを発動する。
「〈豪力〉!!」
強化された力で床に向かって大剣を振り下ろそうとするミクロ。
「待って!ミクロくん!」
ジャックは止めようとする。無論、それはダンジョンの崩壊を恐れてのことだろう。
だが、判断が遅すぎた。その段階は、とうの昔に超えている。
「オラァ!!」
ミクロが振り下ろした大剣は。しかし、それは呆気なく抵抗される。
「オボルォォォォ」
下から発生した強力な衝撃波がミクロの大剣の攻撃を防ぎ、二階層の床を破壊した。
「あくあ!」
「〈エンチャント・風〉〈フィンドブレード〉!〈エアスラッシュ〉!!」
あくあが風の付与魔法で瓦礫を薙ぎ払い、風属性の〈中級魔法〉も加えて瓦礫を薙ぎ払うも、全てとはいかない。
寧ろ、あくあの強力な風により、他のみんなが軽く吹き飛ばされているまである。
(咄嗟の事で制御がきいてない!)
あくあの今の状態を見て一種の暴走状態のようなものを連想した優斗は行動に移す。
「フィーナ!ルチアを保護しろ!」
衝撃波によって階層に穴が空いた。そして優斗の視界では僅かにしか見えなかったが、三階層を少しだけ見て思った。
(分断される!)
ならばどうする?全員生き残るためには。
この場で一番危ないのはルチアだ。ジャックに押し倒されて、この中で最も無防備な状態で衝撃波をくらった。ルチアは錯乱状態になっている。
落ち着かせることが出来るのは、双子で、姉妹のフィーナだけだ。
「!?ルチア!?」
優斗の言葉に驚いたフィーナだったが、ルチアの状態を見て、直ぐに駆けつける。
フィーナのスキル。〈着地〉。このスキルは言わば上手に着地する事が出来るようになるスキルだ。
例え高い場所から落ちても、猫みたいに柔軟に着地出来る。そして、このスキルの最大の利点は床や天井にも着地出来る点だ。
流石に重力を無視して着地する事は出来ず、床や天井等と言った足場が悪い場所に着地出来るのは1秒未満だが、それでも上手く使えば立体的な動きが可能となる。
だから、フィーナはそのスキルで余った瓦礫に着地し、上手く足場としてルチアの元に駆けつける。
ジャックは咄嗟の判断で縄付きの矢を飛ばしており、あくあとミクロと繋がっている。だが、それにより、ジャックはルチアとも離れてしまっている。このままでは、フィーナとルチアは完全に分断されることになるだろう。
だから、優斗のすることは決まった。
「あくあ!俺を飛ばせ!」
「えっ!?」
それは衝撃だろう。何せ、つい先日置いて行かないと、一人で危ないことはしないと約束したのに、また優斗は危険を犯そうとしている。
だからあくあはそれに逆らおうとしたが、それが出来なかった。
何故なら、あくあもわかってしまったから。このままではフィーナとルチアは分断されてしまうと。二人とも仲が良く、優秀な冒険者ではある。だが、感知系能力はそこまで高くない。二人ではダンジョンを生き残れない。
だから、あくあは優斗の判断を信じる。
「信じてます!ユウト様」
「勿論。任せとけ」
ジャックは優斗の意図を察した。今の自分の状態からでは三人の援護は難しいと。だから
「ユリウス!」
今この中で、ミクロとあくあ以上に動ける人物に声をかける。
「了解!」
そして、ユリウスはそれに応え、槍を辛うじて生き残っている壁に突き刺し、壁に着地すると、壁を蹴ってフィーナとルチアの元へとユリウスも向かった。
「行くか。三階層」
かくして、ダンジョン攻略一行は、分断されることとなった。




