修行パートって絵面が地味だから省かれがち
私のお盆は終わったので今日から通常通りの更新です
「舐めてると痛い目見るぞ?ガキが!」
男はレッサーデーモンの後ろでイキっているだけだった。
それはそうだろう。男は召喚術師。自らが召喚したモンスターの後ろで隠れてるのが仕事。
だから今もレッサーデーモンと優斗の戦いを離れて見ている。
(火力が無い!隙がない………)
現在、優斗は劣勢だった。それも無理はない。以前戦った強いモンスターと言えばゴブリンナイトだ。それも、キースが抑えてくれた後に戦ったもの。
そして今回はレッサーデーモン。あの時とは何もかもが違う。
まず、小手先の技が通用しない。光の目潰しも、水で濡らしての電撃も、火の脅しも、レッサーデーモンは全てを無視した。
そもそも悪魔種はその体を魔力で構築している。故に魔法攻撃は通用しづらいのだ。唯一効果があった攻撃も、浄化魔法の〈キュア・カタルシス〉くらいだし、この魔法はそもそも退魔魔法ではなく汚れた精神の浄化に使う魔法だ。不快感は与えられても有効打にはなり得ない。
それでも、優斗が戦えているのには理由がある。
まず初めに、このレッサーデーモンが魔法を使えないことだ。
悪魔種はその体を魔力で構築している関係上、自分の肉体を無意識的に維持できるまでは余計なところに魔力を回せない。
一番下のデーモンが産まれたての赤ん坊のように、まず魔力のコントロールから覚える。
魔力のコントロールを覚えたのがレッサーデーモン。そのコントロールできた魔力で身体能力は向上するものの、コントロールに意識を割かないといけない。
無意識的に魔力をコントロール出来るのがグレーターデーモンだ。グレーターデーモン以上の悪魔種は、魔法も使える。ちなみに俗に言うサキュバスやインキュバスと言った悪魔たちも、定義的にはグレーターデーモンの1種である。
そこから更に技を磨いたのがアークデーモンである。研鑽によって魔力量も上がり、そもそもの技術も向上した形であるため、非常に厄介な存在だ。
そして、自分の得意を伸ばし、独自の力を身につけたものをデーモンロードと呼ぶ。
これらが悪魔種。そして優斗が戦っているのはレッサーデーモンであるため、身体能力こそ高いものの、技術は未熟。魔法も使えない。だからギリギリ勝負になっているのだ。
そして二つ目の理由だが、優斗が戦い方を知っている事だ。
優斗は才能が無い。それはわかりきっていることだ。だが、この才能とはスキルをどれだけ習得出来るのかを指す。鍛冶スキルを習得出来るのか。料理スキルを習得出来るのか。調合スキルを習得出来るのか。これが、この世界で言う才能である。
優斗は別に運動神経が悪いわけではないし、運動音痴でもない。普通に動けるし、やり方さえわかれば戦える。最近の学校では柔道の授業が義務教育化しているくらいなので、ある程度はそういう駆け引きもわかっている。
ステータスも別に悪くは無い。正直このままレベル50になってもエレンよりもステータスは下になっていそうだが、そこも問題は無い。
戦術とは、弱者が強者に打ち勝つためのものである。
優斗はライナーたちが生きている間、空いた時間でライナーやキースに戦い方を教わっていた。たった五日の間で、回数は2回程度だったが、優斗は忘れないと自堕落に過ごしていた2日間の間も、しっかりと頭の中で反芻し、動きを忘れないように宿の中で動いてはいた。
頭を動かすことを忘れない。相手の一挙手一投足を見逃さない。全て、ライナーから教えてもらったことだ。
『グッグッグッ』
悪魔は上手く声を発しないが、優斗を小馬鹿にしていることはわかる。
(挑発しているつもりか?)
だが、優斗は悪魔の攻撃を剣で上手く捌き、危ういのは神聖魔法で対処する。
「〈キュア・プュリティケーション〉!!」
汚れを浄化する魔法で不快感を与える。
『ギュグッグッ?』
だが、不快感だけだ。決定打にはならない。傷も、高い魔力によって再生していく。
「だけど、お前の魔力は無限じゃない。有限だ」
なら、必ず隙はある。
悪魔もその爪を使って、攻撃してくる。
(ライナーよりも単調な攻撃だ)
だから、どう動くのかわかりやすい。
(エレンよりも、動きが遅い)
だから、簡単に見切れる。
(キースよりも、力が弱い!)
だから、簡単に捌ける。
だが、優斗も無傷ではない。攻撃を受ける度に痛みに耐えながら攻撃を与える。
(与ダメージは俺の方が上だ。だけど、このままじゃジリ貧だ)
だが、優斗には火力が無かった。
『ギュッグッグガッグッ!』
悪魔が痺れをきらしたのか、攻撃を仕掛けてきた。
まず、右手で優斗の剣を弾いた。
『グッガッガッ!』
好機。そう捉えたのだろう。だから悪魔は優斗の武器が無くなった瞬間に優斗の顔目掛けて左手を振り下ろす。
(掛かった!)
今、確かに優斗は追い込まれている。だが、悪魔の攻撃は今までで一番わかりやすい。
(ライナーが言ってた。どんな相手でも、トドメの一撃は、油断に最も近いって)
それはそうだろう。狩るだけの獲物を前にして、警戒するものは少ない。だから
(追い込まれたその先が!)
「一番の好機になる!」
優斗は回転しながらその左手を回避し、短剣を手に懐に潜り込んだ。
『グッガッギャッ!?』
喉笛を刺されたことでレッサーデーモンは動きが止まる。だが、そんなもの一瞬だ。でも、その一瞬があればいい。
「〈キュア・カタルシス〉!!」
優斗が〈弱点看破〉で見た弱点は心臓部と、喉。特に喉の方が弱点だと見えたので、喉に短剣を突き刺し、神聖魔法で浄化する。だが、それでも
『ギャッルッガッ!!』
レッサーデーモンは倒れない。
「ま、予想はしてたよ」
だが、レッサーデーモンもダメージを負った。もう、油断しないだろう。
優斗は短剣を抜き、剣を取りに行く。
「さて、第2ラウンドでも………」
「〈コール・スケルトン〉!」
そこで、優斗も半ば忘れていた召喚術師の男が2体目のモンスターを召喚した。
「新手、か………」
スケルトン。その名の通り、全身が骨でできたアンデッドだ。
(あっちは瞬殺できるが、弓を持ってるな。厄介な………)
これがモンスターの連携というやつだろうか。
実に面倒だ。
「さあ、潰えろ!この俺の邪魔をした天罰だと思え!」
「どこから間違いを訂正したものか………」
レッサーデーモンとスケルトンは止まっている。恐らく術者の命令で動いているのだろう。だから、今は待機状態なのか。
「いいか、俺がお前の邪魔をしたんじゃない。お前が、俺たちの邪魔をしたんだよ」
アンデッド騒動。最初は本当に1匹のゾンビから始まったのかもしれないこれは、この男の存在によってややこしい事になっている。
「いいか。俺は、お前を許さない」
「許さないのはこちらが小僧!行け!レッサーデーモン!スケルトン!」
レッサーデーモンが動き出した瞬間
「〈ターンアンデッド〉!」
スケルトンを消し飛ばした。
「ス、スケルトン!?」
「当たり前だろ。頭使えよ頭を」
優斗はそういいながらバックでレッサーデーモンの攻撃を回避する。
(余波でゾンビも何体か倒してるし、恐らくレベルも上がってるな)
魔法の威力が強くなっている。それを認識しながら優斗はレッサーデーモンの攻撃を交わして、剣を上空に投げた。
『グッガッ?』
疑問に思ったのだろう。レッサーデーモンはその剣を目で追ってしまった。
「隙あり!」
その隙を見逃さず、優斗はレッサーデーモンの口に手を当てると
「〈ウォーターホース〉!!」
口に向かって大量の水を流し込む。
『!!??』
水によって発声できないのか、もがきながら優斗に攻撃を与えようとする。だが
「〈フリーズ〉!!」
もがいているレッサーデーモンの口の水を凍らせた。
『!!??!』
レッサーデーモンは最早声を出すことは叶わない。そして苦しさ故に下を向くことも難しい。だが、それでも優斗を殺すためにその爪を振るい、
「ご苦労さま」
優斗はしゃがんで爪を躱した。
(ギリギリセーフ………)
正直かなり危なかったので内心安堵しつつ、優斗は次は短剣を心臓部に刺して
「今度はこっちだ!〈キュア・プュリティケーション〉!」
心臓部に向かって浄化の光を放つ。まだ倒れなかったが、レッサーデーモンには大ダメージだろう。
「ひっ!〈コ、コール………」
レッサーデーモンが押されてる。その事実を認識した瞬間、男は再度モンスターを召喚しようとして
「このっ」
優斗はレッサーデーモンの横を通り過ぎると、男に向かって走り出した。
「な、なぜこちらに!?」
突然の優斗の行動に驚き、詠唱も中断してしまう。だから優斗はそれを見逃さずに
「墓場荒らしてるんじゃねえよ!」
優斗は全力で金的をした。
「はぅっ!」
男の耐久の数値こそわからないが、かなり本気で蹴ったのでダメージはあるはずだろう。
優斗は股間を抑えて倒れ込む男の腰に刺していた剣を引き抜く。
「お、お前………俺の剣になにを………」
「ちょっと黙っとけ」
優斗はそう言うと、未だもがいているレッサーデーモンの首を跳ね飛ばした。
因みに当初の予定では優斗がひとりで墓場に行ったことに気が付いたあくあが途中で参戦する予定だった




