お父様、娘さんは頂きました。以後よろしくお願いします
目が覚めると天使がいた。
思わずそう思ってしまうくらい、あくあの寝顔は可愛かったのだ。
(やっぱり、改めて見ると整った顔立ちしてるよな………)
だからと言ってなにか思うつもりは無い。優斗から手を出すことはないだろう。
「先に準備するか」
優斗は歯を磨き、装備品を確認する。
「う、ううん………」
一通り確認を終えると、あくあは目を覚ました。
「あ、おはようございます」
「おはよう。ほら、顔洗ってこいよ」
「はい。そうします」
あくあはそう言って、眠い目を擦りながら覚束無い足取りながらも洗面所に向かった。
(無いとは思っていたが、毎日記憶が無くなる、みたいなことは無かったな)
もしそうであれば色々とややこしかったからかなり助かった。
「申し訳ございません。お待たせしました」
着替えも持って行っていたのか、あくあは服を寝間着から着替えて出てきた。
「いいよ。そんなに時間帯も遅くないし」
優斗はしっかりと準備を終えている。剣を腰に携え、短剣を2本装備している。そして胸当てまで装備して準備は完了だ。
「ユウト様は準備を終えてるじゃないですか。確か、冒険者ギルドに行くのでしたよね?」
「そうだ。そこで情報収集と、あくあの冒険者登録をしようと思う」
「え!?」
あくあは驚いているが、これは優斗が最初から考えていたことだ。今のあくあは身元不明の迷子。そしてそんなあくあを連れ回している優斗。もし手掛かりを見つけて他の街に向かったとしても、あくあの素性不十分で街に入れなくなる可能性はある。正直、この街のセキュリティが緩いだけみたいなので、他の街では全然可能性があるのだ。
後は、冒険者として登録しておけば、万が一優斗が色々と連れ回してもお咎めが無くなる可能性はある。そして冒険者登録は完全任意性であり、中立の立場。たとえ貴族だろうが王族だろうが、登録するのであればそれは任意であり、仮に娘や息子が勝手に登録して親が激怒しても、冒険者ギルドは権力に対して屈することは無い。保護した連れも、受付嬢も権力によって裁かれることは無くなるのだ。
結論として、あくあを冒険者登録する事は優斗にとってもあくあにとっても都合が良いのだ。
「という訳で、あくあには冒険者登録をしてもらおうと思う」
「そういう事でしたらわかりました!」
登録に対して少し嫌がる素振りを見せるかと思ったが、あくあは予想に反して少し楽しそうだ。
「じゃあ、早速ギルドに向かうか」
「はい!冒険者ギルド。楽しみです!」
あくあは本当に楽しそうにそう言うので、優斗も変な寄り道をすること無くあくあをギルドに連れて行った。
「いらっしゃいませ………ってユウトさん!?」
優斗が入ったことにより、入口付近で掃除をしていたルリナは驚愕の声を上げる。
当然だ。優斗が逃げ帰ってきたあの日から、優斗はギルドに顔を出していなかったのだから。
「お久しぶりです!」
「お久しぶりですルリナさん。そんなに驚いてどうしましたか?」
「どうしたも何も、最近顔出してくれなかったじゃないですか!もうユウトさんは」
「冒険者、辞めると思いました?」
優斗の言葉にルリナは言葉は発しなかったが、静かに頷いた。
「目の前で仲間を失った冒険者に多いんです。復讐に駆られるか、引退するか。ユウトさんは引退の方だと思いましたが………」
「まあ、そこについては悩みましたが、理由もできたので」
「理由、ですか?」
「はい。一先ず、少し話しがしたいんですよ。出来れば個室で」
優斗がそういいながら後ろに立っていたあくあに目線を向けると、ルリナもなんとなく察したのかギルドの応接室に案内してくれた。
「わざわざありがとうございます」
「大丈夫ですよ。それで、その子は………」
ルリナがあくあに視線を向けると、あくあはその視線に気づき、立ち上がって自己紹介をする。
「あくあと申します!よろしくお願いします!」
あくあは丁寧に頭を下げながら言う。
「よろしくお願いします。それで、この子が冒険者ギルドに来た理由ですか?」
「はい。実は………」
優斗はルリナに全て話した。この子が川で倒れて保護したこと。記憶喪失であること。倒れていた時、比較的いい服を着ていたので、貴族関係の可能性があるということ。
「なるほど。大体わかってきました。では、あくあという名前も」
「俺が名付けた仮の名前です」
そこまで聞くと、ルリナは顎に手を当てて考え始める。そして少し考えると優斗の目をしっかりと見つめてきた。
「では、私の所感から言わせてもらいますと、あくあさんとはここで離れるべきです」
いきなりとんでもないことを言い出した。
「えっと、私が邪魔ということでしょうか?」
不安そうなあくあの姿をルリナは困ったような顔をしながら見る。
「そうとも言えますし、そうでないとも言えます。私もそこそこ長い間ギルド職員として働いていますが、今回のような件は初めてです。まず、前例がありません」
前例は作るもの。それは何かを成し遂げたい時に言うとかっこよく聞こえるが、今聞いても不安にしかならない。
「やっぱり、あくあは貴族の可能性が高いか?」
「ユウトさんのお話を聞く限りでは、私はほぼ貴族関係だと睨んでいます。それも庶民のユウトさんが汚れた状態から見てもいい服だと判断できるレベルの服を着ていたとなると、少なくとも男爵や子爵の子供とは思えません。ほぼ間違いなく伯爵以上。公爵の可能性も十分にあります」
「公爵の娘………じゃあ、あくあの顔を見たことは」
「残念ながら、ございません。そもそも、伯爵家以上の貴族たちは、十分に育った子どもを披露宴に出したがる傾向があるので、この子も例に漏れず成人となる16歳まで箱入り娘だった可能性もありますので」
ならば、一先ずあくあは伯爵令嬢以上だという推測はたてられた。
「でも、それも絶対じゃないよな?有名な商人が、貴族じゃなくてもそこそこの資産を持つ人が、奮発して準備した可能性もあるし」
「その可能性は捨てきれません。ですが、そんな商人も資産家も限られています。可能性を探るのであれば、まず貴族関係からでしょう」
ルリナは不安そうなあくあの頭を撫でながら言う。
「何もこの子を見捨てろとは言いません。迷子として、ギルドで引き取り、各所で調べることくらいはわけありません。ですが、このままユウトさんが連れて行くのであれば、貴族のいざこざに巻き込まれる覚悟は決めるべきでしょうが………」
ルリナはそこで1度口を閉じると、優斗の目をしっかりと見ながら言う。
「半端な覚悟でこの件に首を突っ込むべきではありません」
半端な覚悟。そうなのだろう。きっと優斗はまだ本当の覚悟は出来ていない。
「あなたはつい先日先輩冒険者を目の前で失ったばかりです。今この子を引き取って真摯に向き合う気持ちの覚悟ができるとは思えませんし」
「たしかに、そうかもしれませんね………」
優斗はルリナの言葉を受け入れながら、あくあを見る。
「ユウト様………」
この子は、迷子だ。何をしなくちゃいけないのか。誰に着いていけばいいのかわからない迷子だ。
「この子は、あくあは俺が面倒を見る」
そんな迷子の目を見てしまえば、その結論が出るまでの時間はかからなかった。
「………わかっていますか?今のユウトさんは」
「半端な覚悟。そう言われてしまっては、そうとしか言えないかもしれません。でも、俺は」
あくあから目を離してルリナの目をしっかりと見ながら言う。
「今は、この子を助けたい。つまらない正義感かもしれないけど、きっと、俺があくあを見つけたことに意味があると、そう思うから」
だから優斗はあくあを手放さない。すぐ隣で、不安を隠さずに、恐れを隠さずに小さく手が震えている少女の手を優しく握りながら言う。
「俺は、この子を救ってみせる」
真っ直ぐとした目で宣言する。
「はぁ………やっぱりそうなっちゃいますよね。ここに来た時点で薄々わかっていましたが………」
ルリナは頭痛を抑えるようにしながら、資料を取り出す。
「あくあちゃんの、冒険者登録をしに来たんですよね?こちらに必要事項の記入をお願いします」
あくあは資料を受け取り、優斗と一緒に埋める。
「それと、あくあちゃんの手がかりはさすがにギルドでも探します。いくらユウトさんが助けたいって思っても、初級冒険者に貴族問題は荷が重いと判断しますので」
「ありがとうございます。あと一応、俺のレベルは20になりましたが………」
レベル20となれば十分中級冒険者と言われても問題ないと思ったのだが
「そうだったんですね。でも、レベルが上がっても経験は少ないし、まだまだ初級冒険者です。油断だけはしないように」
それを言われてしまうと優斗は何も言えない。レベルだけで優斗は勝手にそこそこできる気になっていたのだから。
「あの、書けました」
「はい。ではこちらでお預かり致しますね」
ルリナはそう言うと、あくあにギルドカードを手渡した。
「これが、ギルドカードですか………」
「あら?存在は知っているの?」
「はい。薄らとですが。後、ユウト様が触っていましたので」
それでギルドカードについては思い出せていたのか。
「確か血を流すのでしたよね?」
「短剣使うか?怪我しても治癒魔法あるから安心してくれ」
「わかりました!」
あくあは血を流して自分の情報を確認する。
「それにしてもユウトさん。〈初級神聖魔法〉使えたんですね」
傷ついた指を治癒している優斗にルリナはそう言った。
「まあ、そうですね。運がよかったですよ」
そう。これこそ運だろう。偶然女神の目に止まったから転生でき、気に入られたから〈初級神聖魔法〉を習得出来た。
「ユウト様!これがギルドカードなのですね。すごいです!」
初めて見るギルドカードは、レベルとステータスが低くても、習得可能スキルが無くても嬉しいのだろう。
嬉々として見せてくるあくあに断りを入れて、優斗はそのステータスを見てみる。
Lv.1
筋力:51
耐久:38
敏捷:55
器用:39
知性:30
魔力:65
幸運:10
スキル
〈カード召喚〉
〈■■〉
「………は?」
そのステータスに一瞬惚けてしまい、目を擦ってから再度確認するがステータスは何も変わっていなかった。
(いや、ステータス高いな!)
一部優斗のステータスを上回っているそれを見て絶句するしか無かった。
「ごめん、あくあ。ちょっと借りてもいいか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「ではあくあちゃんは今の間にこの飴ちゃん食べますか?」
「はい!ありがとうございます」
あくあがルリナに〈秘伝の飴玉〉を貰っている間に、優斗は習得可能スキルも確認する。
(えっと?〈片手剣〉に〈二刀流〉、〈初級神聖魔法〉と〈初級魔法〉に〈中級魔法〉?〈神速〉もあるし〈魔力感知〉と〈敵感知〉もある。後は〈物理攻撃耐性〉と〈魔法攻撃耐性〉。まだあるな)
しかも現在進行形で飴玉を食べているあくあはどんどん習得可能スキルが増えていく。これが才能の差なのだろう。
(っていうか色々おかしすぎだろ。あ、〈上級魔法〉が出てきた)
よく見れば〈未来感知〉もある。確か、これはエレン曰く殆ど幻のスキルみたいに聞いていたのだが、こうもあっさりと習得できる可能性が出てくるとは。
「飴玉ありがとうございます!」
「いいのよ。でもこれで最後なの」
「無理強いはできません。ありがとうございます!」
ルリナはあくあにレベル5まで上がるように飴玉をあげたつもりだろうが、才能がありすぎるあくあの今のレベルはこんな感じになってしまった。
Lv.8
筋力:97
耐久:74
敏捷:107
器用:86
知性:80
魔力:131
幸運:24
スキル
〈カード召喚〉
〈■■〉
(この文字化けしてるスキルも気になるけど、上昇率が異常すぎる)
最早優斗では勝ち目のないステータスになってしまった。ちなみに以下が優斗がチラッと見せてもらったエレンのステータスである。
Lv.49
筋力:219
耐久:167
敏捷:324
器用:267
知性:194
魔力:248
幸運:203
スキル
〈カード召喚〉
〈弓術〉Lv.3
〈狙撃〉Lv.3
〈チャージ〉Lv.2
〈敵感知〉Lv.3
〈索敵〉Lv.2
〈危険感知〉Lv.2
〈魔力感知〉Lv.2
〈潜伏〉Lv.1
〈暗殺〉Lv.1
〈逃走〉Lv.1
〈短剣術〉Lv.2
〈弓魔法〉Lv.1
レベル差があるので流石にエレンの方がステータスは高いが、将来的にはあくあの方がステータスは上になっていそうだ。だってレベル8の時点でステータスが100超えてるのがあるし。
「ユウト様!それで、この後は冒険に出かけますか?」
あくあを見ると、キラキラした目で優斗の事を見てくる。
「………そうだな。気晴らしにクエストにでも行くか」
「あ、待ってくださいユウトさん!」
そうして立ち上がった所でルリナに呼び止められた。
「はい?なんでしょうか」
何か忘れ物かと振り返ると、ルリナは手を出しながらこう言った。
「1万ブカのお支払い、お願いします!」
優斗は泣く泣く1万ブカ支払うしかないのであった。




