「親方!助けた女の子が誘惑してきます!魔性の女です!」「だから言っただろ!女なんてのはな、大体は金を奪う為の詐欺師なんだよ!」「でもこの子は純粋な善意で…」「死に晒せ小僧!!」「親方!?」
前回のあらすじ
助けた少女と同じ部屋のホテルに入ろうとする優斗
閉鎖された空間でなにも起きないはずがなく…………
「すみません。泊まる人数ですが、1人追加でお願いします」
「はいよ!じゃあ人数の追加だから5千ブカでいいよ」
「了解」
優斗は銀貨を5枚渡しながら、財布の中身を確認する。
(残り、20万ブカくらいか………)
ライナーたちが死んでからクエストにも行っていなかった優斗の懐はかなり寂しくなっている。
(元々、冒険者としては贅沢に宿に泊まっているからな)
それが大きな原因だろう。
「あの、ユウト様!」
と、後ろから着いてきているあくあが優斗を必死に止める。
「えっと、本当に一緒のお部屋に?」
「まあ、そうだな。あくあが心配なのもあるが、やっぱり記憶喪失のあくあを放っておけないからさ。目が覚めた時急に知らない場所でパニックになるかもしれないし」
「いえ、心配してくださっているのはわかるのですが、少し、緊張してしまって………」
それはそうだろう。年頃の女の子が、今日初めて会った男と一緒の部屋で寝るのだから。
「やっぱり、気になっちゃうか?」
「………はい。でも大丈夫です!贅沢言えない状態なことくらい、自分でわかっていますので!」
あくあはどうやら金銭的な方向から心配してくれているようだ。
別に金は大丈夫なのだが、ややこしいので黙っておくことにする。
一先ず二人で部屋に入り、荷物を整理する。と言っても、優斗の荷物も今は元々置いていた着替えと、持ち歩いていた武器、そして今日はしていなかったが鉄製の胸当てくらいだ。
そしてあくあの荷物も先程買った着替えと、その前から着ていたびしょ濡れの服くらいだ。
「じゃあ、あくあは先に風呂にでも入るか?」
「私が先でよろしいのでしょうか?」
「服を着替えたとは言え、そこそこ長い時間濡れた服を着ていたんだ。まだ身体も冷えてるだろうし、先に暖まっとけ」
「では、お言葉に甘えて………」
あくあはそう言って風呂場に向かった。
「今更だけど、風呂の入り方は覚えてるんだな」
手続き記憶に関しては完全に大丈夫だと判断してもいいだろう。
優斗はあくあが風呂に入っている間、習慣になった武器の手入れをする。
(もう、冒険者は辞めるつもりだったのにな………)
だが、今冒険者を辞めると、収入が足りなくなる。それに、あの子の生い立ちも少し気になったのだ。
(やっぱり、完全には諦められないってことか)
この出会いが幸か不幸かはわからないが、あくあとであった。そして偶然とは言えモンスターを倒せたのだ。
(もう、あんな思いはしたくはないけど………)
今の優斗がいるのは、命懸けで守ってくれたライナーたちのお陰だから。優斗も同じようにあくあを助けたいと、思ってしまったのだ。
(毒されたかな?大した力も無いのに)
まだ心は完全に晴れない。だが、前を向くためにもギルドカードを確認すると
「あれ?レベルが上がってるな」
どうやら昼間のウルフでレベルが上がったらしい。つまり、ゴブリンナイト討伐時でもうすぐレベル20という所まで経験値が貯まっていたのだろう。
試しに習得可能スキルも確認する。
「えっと、覚えられるスキルは、〈潜伏〉と?なんだこの3つ。嫌がらせか」
一先ず〈潜伏〉は習得したのだが、残りの新しく発現したスキルに対して思わず悪態づいてしまう。完全に嫌がらせとしか思えなかったからだ。
折角心機一転、とまでは言わないが、頑張ろうと思っていた矢先にこのスキルは完全に嫌がらせにしか見えなかったので、優斗は〈潜伏〉だけ習得し、残りの3つのスキルを無視することにした。
「あの〜。お風呂、上がりました」
ギルドカードを放り投げようか悩んでいると、あくあが風呂場から出てきた。
「了解。お風呂は大丈夫そうだったか?」
「はい。特に問題なく………」
「わかった。じゃあ、俺も入ろうかな………」
優斗が立ち上がると、あくあはジト目を向けながら優斗の事を見てくる。
「どうした?」
「お湯、飲まないでくださいね」
「飲むか!!」
思わず大声でツッコんでしまう。意味記憶はもう完全に大丈夫だと思ってもいいだろうが、
「どこでそんな言葉覚えたんだよ………」
「冗談ですよ。からかってみただけです」
「心臓に悪い………」
優斗は呆れながら風呂場に向かい、風呂に入る。
「あくあ、実は案外余裕あるのか?」
風呂に入りながらあくあの状態を思い返し、実は行けるんじゃね?と思い返す。
セクハラだと言ったり、自分の入った風呂の残り湯を飲まないように言ったり。
「いや、全部下ネタ寄りかよ。勘弁してくれ」
現代日本じゃ即訴訟ものだ。それが14歳と17歳ならそれなりに厳しいだろう。まだ優斗が成人してないだけ少しマシか。いや、それでも普通にアウトだろうか。
「後は、俺の金銭の心配ばかりしてくるよな。服屋といい、飯屋といい、さっきといい。金銭問題に巻き込まれたか?」
いい服を着ていたのでお嬢様かとも思ったが、そういうしがらみもあったのかもしれない。
優斗は風呂を上がってる身体を拭いて部屋に戻ると、あくあはベッドの上で座って待っていた。
「なんだ、まだ起きてたのか?」
「えっと、はい………先に眠るのは失礼かと思い………」
「別にそれくらい気にしないが………でもさっきまで寝てたから眠くは無いか」
「いえ、あれは気絶ですので眠るのとは少し違うのでは?」
そんなことは百も承知だ。だが、あくあの表情が緊張している様子だったから少し和ませようとしただけなのだが、恐らく優斗に芸の才能の類は無いのだろう。
「それはそうと、寝るか」
「寝るのはいいのですが、どこで寝るのですか?」
そう、あくあの疑問は最もだ。この部屋は本来一人部屋。だから、ベットも一つしかない。
「もしかして、同衾、ですか?」
「お前、そういう言葉は覚えてるよな」
優斗は呆れながらもソファに腰掛ける。
「俺はこっちで寝る。だからあくあはベッドで寝ろ」
「いえ、それは悪いですよ!私だけベッドだなんて。せめて私がソファで」
「いや、怪我人をソファで寝かせるわけ無いだろ。あくあは大人しくベッドで寝ろ」
「それだとユウト様が湯冷めしてしまいます!」
あくあはそう言うと、優斗をソファから引きずり下ろしてベッドまで引っ張る。
(いや、力強いな?)
優斗も怪我しない程度に抵抗しようと思ったのだが、思った以上にあくあの力が強い。
先程見た優斗と今の筋力値が52だから、もしかしたら殆ど同じ数値………
(いや、それは無いか)
さすがにあくあに負けていると思いたくない優斗であった。
「私は気にしませんので、このベッドで一緒に寝ましょう!」
「いや、ダメだろ。誰かに見つかったら………」
「この部屋に無断で入ってくる人なんていませんよ!」
本当にその通りなので優斗は諦めてベッドの上で横になる。あくあもそれに習って優斗の隣で横になった。
それから暫くは2人は会話もせずに寝転がるだけだった。暫くして
「………ありがとうございます。ユウト様」
「何がだ?」
「倒れていた私を助けてくれたり、服も買ってくださいましたし。先程も、私のことを気遣ってくださって」
優斗はあくあの感謝の気持ちを素直に受け止められなかった。全部、自己満足だからだ。この子を助ければ、自分が生き残った意味があるのだと、そう思えるような気がしたから。
「気にするな」
「でも………」
「明日は、冒険者ギルドに行くからな」
優斗は静かにそう告げる。
「冒険者ギルド、ですか?」
「あくあの事を確認しないとだからな。捜索依頼が出てるなら万々歳。出てないとしても、手掛かりを掴むきっかけにはなる」
あの日から行けなかった冒険者ギルド。人を理由にしてはいるが、優斗にも、漸く行く決心がついた。
「はい。明日も、よろしくお願いします」
あくあはそう言って眠り、優斗もゆっくりと夢の世界へと旅立って行った。
実に平和的に終わって一安心




