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「親方!川から女の子が!!」「駄目だ!捨て置け!」「女の子を見捨てるんですか!!この人でなし!」

新章開幕!!

目の前で先輩が死んだ傷は癒えていないものの、困難はやって来る。それが異世界ファンタジー

「じゃあ、本当にわからないのか?」


「はい。自分の名前も、何故ここにいるのかも………」


 申し訳ありませんと頭を下げる少女に顔を上げるように言うと、優斗は少し考える。


(記憶喪失………でも、原因は絶対に単純なものじゃない)


 記憶喪失とは、何らかの原因による脳の損傷か、強いストレスやトラウマによる自己防衛機能によって、特定の期間や出来事を一時的に失うものだ。他にも原因となるものはあるが、代表的なのはこの2つだろう。


(この子の場合は、記憶を大きく失っている。ならば脳の損傷による記憶喪失か?………いや、この子の人生そのものが起点となるトラウマか………)


 どちらにせよ、悩ましい限りだ。


「あの………大丈夫ですか?」


 と、少女が心配そうに俯きながら考え事をしていた優斗の顔を覗き込んできた。


「あ、ああ。悪かった。ちなみに、名前は思い出せなさそうか?1文字だけでもわかれば進展しそうだが………」


「それが、すみません。先程から思い出そうとはしているのですが………」


 元々、記憶喪失の記憶は思い出そうとして思い出せるものじゃない。


「じゃあ、本当の名前がわかるまで仮の名前をつけるか」


「いいのでしょうか?」


「だって、このままじゃ会話もしずらいだろ?」


「そうですね。ではお願いします」


 と言ったものの、正直難しい。名前なんて簡単に思い浮かぶものではないからだ。


(日本のアニメのキャラクターから持ってくるのは………ダメだよな)


 この世界に著作権は適用されないとはいえ、なんか変な意識をしそうなので却下だ。

 では、他の名前………と考えて、少女の姿を見る。


(少し汚れてはいるけど、いい服着てるよな。どっかの貴族か?銀色の髪も綺麗だし、先端はちょっと桜色になってるのか………)


 身長は恐らく150cm程度だろうか。全体的に見ても綺麗な子だと思う。


(将来は美人になりそうだよな………この歳の子になにか思うのもアレだが)


 余裕でロリコン認定されそうなので思考はそこで止める。

 そして川を眺めながら


「じゃあ、あくあだ」


「あくあ、ですか?」


「そうだ。パって思いついたものだが、綺麗な名前だと思うけど………」


 少女は「あくあ、あくあ………」と何度も呟いている。少なくとも、嫌ではないらしい。


「素敵な名前、ありがとうございます!」


「気に入ってくれたなら、良かったよ」


「はい!では、記憶が戻るまでの間、私は『あくあ』と名乗ります!」


 嬉しそうに笑う少女、あくあを見ながら、優斗は立ち上がる。


「さて、ここで治癒した俺が言うのもなんだが、街に行くか」


「街に、ですか?」


「もうすぐ日が暮れるし、あくあの記憶の手掛かりも探さないといけないしな」


 優斗はそう言ってあくあに向かって手を差し伸べる。


「ありがとうございます」


 あくあは差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。


(それなりに、懐いてはくれてるのかな?)


 それか、少なくとも治癒してくれた相手として最低限の信頼はしてくれているのか。

 と、そんなことを考えていると、優斗の〈危険感知〉に反応が出る。


「危ない!」


「………えっ?」


 あくあを抱き寄せ、持っていた剣を即座に抜刀して襲いかかって来たウルフの首を斬り飛ばす。


「あの………」


「ごめん。でも緊急事態だったから………」


「いえ、ここは街の外ですものね。モンスターがいるのもわかりますので………」


 あくあは、モンスターの死体を見ても嫌悪感を顕にしない。


(モンスターを倒したことがある?それか、死体を見たことあるか、死んでるのを見たことあるか………そもそも、その死体がモンスターである保証は………)


 優斗はそこまで考えると思考することを一旦辞める。

 今ここでその可能性を考えても無駄だと判断したからだ。


「じゃあ、街に戻ろうか。あくあの服も探さないといけないしな」


「えっ?………あっ………」


 そこで、汚れている服と濡れて少し気持ち悪い服の現状に気が付いたのか、あくあは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「じゃあ、行くか」


「はい!」


 街までの間、優斗とあくあは逸れないように手を繋いだまま移動する。


(見た感じ、足に支障は無さそうか?治癒魔法で治った可能性はあるが………それに)


 手を繋いでいない左手を見ながら思う。モンスターを、斬れたな、と。


(まだ、戦うつもりがあるのか?)


 あれは、自分のミスだと思っているから、優斗自身はモンスターをそこまで恨んでいない。だけど、あの時に咄嗟に剣を抜けたから。ウルフの首を斬れたから。


(ま、検証するしかないか)


 今はあくあのことだ。あくあの事だけ考える。


「戻りました。この子は迷子です」


「こ、こんにちは!」


「了解です。はいこんにちは」


 衛兵の人は、優斗のギルドカードを確認して、その後にあくあの事を〈犯罪看破〉で犯罪歴が無いか確認してから通行許可を出す。


「あの衛兵さんは、私をじっと見てましたが大丈夫だったのでしょうか………」


 門を潜った後、どうやらあくあは心配になったのか優斗にそんなことを聞いてくる。


「あの衛兵の人は、〈犯罪看破〉っていうスキルであくあに犯罪歴がないか確認してたんだよ。止められなかったから、あくあは犯罪者じゃないってことだな」


「そうなのですね!では一安心ですね!」


 純粋な笑顔で笑うあくあを見ていると、胸が締め付けられる。


「どうかしましたか?」


「いや、大丈夫だよ」


 優斗の少し苦しそうな顔を見て、気遣ってくれたのだろう。あくあは、人の感情の動きに敏感なようだ。


「っと、ここが服屋だな」


 優斗が連れて行ったのは、エレンが教えてくれた服屋だった。バリエーションも多く、冒険者用の動きやすい服が多いと聞いている。


「わぁっ………」


 あくあは店内を見て目を輝かせている。


「気になる服があったら買っていいから」


「えっと、大丈夫なのでしょうか?」


 あくあは服は気になるらしいが、優斗の財布事情がわからず、買っていいのか悩んでる様子だったが、服の二着や三着程度なら構わない。


「ここの店の服はあまり高くないからな。しばらくの間帰れないって考えても、二、三着は買っておいて損は無いだろ」


「そんな、悪いですよ………」


 あくあは遠慮するが


「遠慮される方が困るな。じゃないと、俺はびしょ濡れのあくあを連れ回すことになるんだからな」


 あくあは可愛らしい女の子だ。しかも年齢は推定14歳。このまま連れ回しては、何を言われるのかわかったものじゃない。


「それは、そうですね………ではわかりました」


 優斗の気持ちも少しわかったのか、あくあは服を選び始める。


「あの、すみません」


「はい、なんでしょうか」


「連れが川で服を濡らしてしまったので、ここで着替えることって可能ですかね?」


「大丈夫ですよ。では、お会計の際にお申し付けください」


 あくあが服を選んでいる間に、優斗は店員に着替えの許可を貰う。

 そして服を選んでいるあくあの方に視線を向ける。


 年頃の女の子だから、服を選ぶのに時間がかかるのも仕方がない。この店は、冒険者が冒険中でもオシャレをしたいという思いから生まれた店らしく、動きやすさを重視しながらも見た目にも拘り、組み合わせによってオシャレになるように考えられているらしい。


「ユウト様!決めました!」


 あくあはそう言って数着の服を数点持ってくる。


「了解。下は大丈夫なのか?」


「下?………ユウト様、セクハラですよ、それ………」


「わ、悪い………って言うか、セクハラは覚えてるんだな」


「そうですね。単語は覚えているみたいです。言語も大丈夫そうですし、文字も読めますので」


 服を運ぶのはあくあに任せつつ、そのまま着替えさせる。ちなみに脱いだ服と買った服は別の袋に入れてもらってる。


「じゃあ、こっちの袋は持つから」


「ありがとうございます」


 2人は並んで歩く。


「そう言えば、お腹空いてないか?」


「………正直、空きました」


 どうやら腹ぺこのようだし、優斗は久しぶりにスマホを取り出して店を調べる。


「ユウト様、それは?」


「これか?これは俺の魔導具だな。この街の地図が入ってる」


「そうなのですね!この街以外のは?」


「残念ながら入ってないんだよな。っと、近くにレストランがあるみたいだな。今夜はここにするか」


 あくあは恐らく成人していない。優斗が酒を飲む気が無いのもあるが、あくあを積極的に酒場に連れて行こうとは思えなかったのだ。


 レストランに到着すると、二人でメニューを見て注文する。


「あくあは、決まったか?」


「えっと、私は………これにします!」


「スープスパゲティね………すみません!」


 二人分注文すると、優斗はあくあに幾つか尋ねる。


「どうだ?この街に来てなにか思い出せそうか?」


「いえ、なにも思い出せそうにありません。見覚えのある景色もありませんし………」


 既視感がないということは、この近くには住んでいなかったということになる。


「そうなると、もう少し遠くの街かもしれないな………」


 そこまで考えると、手がかりを得るためにもう少し質問する。


「じゃあさ、あくあって今の自分の年齢が何歳か覚えてるか?」


「すみません。それも………」


 単語の意味や言語に問題は無し。文章を書くのも読むのも問題ないだろう。だが、自分と名前と年齢が思い出せない。


「医者じゃないから断言はできないが、恐らく長期記憶障害だろうな」


「長期記憶障害、ですか?」


「そうだ。記憶喪失にも種類があって、あくあは恐らく過去の出来事を忘れている、一番オーソドックスな形の記憶喪失だと思う」


「な、なるほど………」


「原因は脳への衝撃か、精神的ストレスか。栄養障害による記憶喪失の線はないかな。そこまで肌ツヤがいい人は栄養障害だとは思えない」


「あ、ありがとうございます」


「あとはてんかんにアルコール中毒、薬物の使用の可能性もあるが、あれらはここまでのものじゃない。これらの可能性は無しだ」


「切り捨てても、よろしいのですか?」


「俺も詳しくは覚えてないし知らないけど、今例としてあげた3つは、使用時や症状が出た時の記憶障害こそあれど、過去の出来事全てを忘れるレベルじゃない。だから脳への損傷かストレスか。脳への損傷ならば、俺が治癒魔法を使ったから、自然と戻るか、もう一度同じレベルの衝撃を与えれば直ぐに治る筈だ」


「では、ストレスの方は、どうなのでしょうか?」


「ストレスは、なにか自分の心に大きなダメージを負ってしまい、それから自分の心を守るための脳の防衛機能だ。そんな簡単に思い出せるものじゃない。ゆっくりと療養する事が大事だ」


 ゆっくりと療養とか言うのであれば、あくあの目の前でウルフの首を斬ったのは大問題だったが。


「そうですか………では、私はストレスでしょうか?」


「その心は?」


「頭は痛くありませんので。違和感も感じませんし」


 それなら道理が通る、か?


「まあ単純かもしれないが、その線で話しを進めるか」


 方向性が決まったことで、優斗とあくあは夕ご飯を食べる。


 2人分なのでいつもより食費がかかるが、今はそんなの気にしている場合じゃない。


「そうだ、あくあの寝る場所が………」


 寝る場所問題だが、最初の身なりからして恐らくいい所のお嬢様だ。そんな子を馬小屋に放り投げていいのか?いや、お嬢様じゃなくても普通に記憶喪失の子を1人にするのはダメだ。じゃあ宿屋?それも難しい。そもそも、宿屋だとしても1人にするのは不安しかない。


「仕方ない。一緒の部屋にするか」


「えっ!?」


 なんかあくあは驚いているが、無視することにした。

ぶっちゃけ記憶喪失に関しては割とうろ覚え知識から来てるので間違ってたら教えてください


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