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誰だって、怪我するときは怪我するし、死ぬときは死ぬんだ

前回主要人物の一人の腕が千切れましたが、安心してください

今回はもっと酷いです

「ライナー!!!」


 エレンの叫びが響く。


「な、なんで………」


 そして優斗の目の前には、ライナーが瀕死の状態で立っている。いや、この表現は正しくない。ライナーは、アイスフェンリルに肩を噛まれた状態で立っているのだ。

 そして左腕は損失。欠損した部位は〈上級神聖魔法〉でしか治せない。しかもそれも、ある程度時間が経ってからでは無理になる。そしてそんな直ぐに部位欠損を治せる神官はいない。つまり、この時点でライナーの左腕は治らないものとなったのである。


「なんで、俺なんか庇って………」


 優斗は、動けずにここに座り込んでいるだけだった。

 アイスフェンリルの攻撃だって、ライナーは上手く捌いていたのだ。勝てる可能性が低くても、逃げ切ることなら可能だった筈。それを、優斗を守ったせいで。


「バカ、言うんじゃねぇよ」


 ライナーは、アイスフェンリルを引き剥がすために身体に炎を纏いアイスフェンリルを引き離した。


「ガルグルルゥ」


 アイスフェンリルは再度隙を伺う。これがフェンリル系モンスターの厄介なところだ。相手が弱者であっても、油断はしない。確実に仕留めに行く狩人となるのだ。


「ユウトっち。お前だけは、絶対に死なせないからな………」


 ライナーはそれだけ言うと、服の一部を引きちぎり、ちぎれた腕からの出血を止めるべく圧迫止血をする。


「ライナー!無茶だよ」


「エレンは、やるつもりだろ?」


「!?」


「キースは、どうだ?俺っちと、同じ気持ちか?」


「………そうだな。奇遇なことに、俺も同じ気持ちだ」


 盾と鎧を失ったキースは短刀を片手にアイスフェンリルと睨み合う。

 片腕を失ったライナーもまた、アイスフェンリルと睨み合う。


「無茶だって言ってるのに………」


 そして、エレンもまた弓を手に持ってアイスフェンリルに狙いをつける。


「なんで、逃げないんだよ………」


 答えを求めるように優斗がそう呟くと


「だって、ユウトくんを死なせたく無いから………」


「!?」


 なんで、そんなことを言うのだろう。みんなで、生き残る選択肢もある筈なのに。優斗なんて、見捨てれば生きられる筈なのに。


「みんな同じ気持ち。君に、死んで欲しくない。それだけだよ」


「そんな………俺は!」


「ごめんね、ユウトくん。お茶する約束も、パーティ組む約束も、守れそうになくて………」


 エレンはそれだけ言うと、覚悟を決めた顔でアイスフェンリルに向かっていく。


「エレン!!」


 優斗の呼び止める声にもエレンは立ち止まらない。


「ガァァ!!」


 アイスフェンリルの牙が、爪がキースを襲う。


「まだもてよ、俺の体!〈シールドウォーリア〉!!〈不屈の闘志〉!!」


 防御スキルを重ねがけしたキースだったが、アイスフェンリルの前には無力だった。


「ガルァァ!」


 そんな声と一緒に、キースの身体はいとも容易く引き裂かれた。


「あっ………」


 言葉が出ない。ついさっきまで一緒に話して、笑っていた人が、今目の前で殺された。


「まだ、死んでねえよな!キース!!」


 ライナーは片腕だけになりながらも、剣に炎を纏わせて斬りかかる。


「ガルァァ………ガァ?」


 それを防ごうとしたアイスフェンリルだったが、後ろ足に違和感を覚え、後ろを振り返る。そこには、死んだキースが横たわっているだけ。そこにおかしな点は無かった。あるとすれば、キースの血が凍り、地面とアイスフェンリルの身体を繋げていたことくらいだろうか。


「ガァ!?」


 アイスフェンリルは気が付かなかった。死んだ者にまで気を回していなかった。キースは死ぬ直前、アイスフェンリルの足に吐血し、溢れた臓物を投げ飛ばし、無理やり血を地面に垂らしてアイスフェンリルに凍らせたのだ。


「剣のサビに、なりやがれ!」


 ライナーは何度も何度もアイスフェンリルの身体を斬りつける。だが


(硬ぇ!刃が、通らねぇ!)


 さっきは通ったのに。そう悪態づくのも無理は無い。先程は両手で、今は片手。威力も落ちるし、重心が変わるのだから両手がある頃と同じ感覚で攻撃しては意味が無い。


 だが、アイスフェンリルの意識は今、ライナーに向いている。


「今!〈チャージ〉満タン!〈狙撃〉!!」


 その隙を狙ってエレンは矢を放つ。


「ガァ………」


 これは択だ。矢から身を守るために氷の壁を作れば、ライナーから意識が逸れ、その隙をついてライナーはアイスフェンリルに致命傷を与えるだろう。

 対して、このままライナーに対応するだけだと、矢が命中して致命傷を負うだろう。


 究極の2択に対しての選択をアイスフェンリルは迫られ


「ガァッ!!」


 選択した。

 まず、ライナーの燃える剣を火傷覚悟で牙で掴み、動きを逸らす。


「うおっ!このっ!」


 ライナーは切り返そうとするが、左腕を失った今、それは困難なものになった。そしてライナーの体が、頭が移動した先はエレンの矢の軌道上だ。


「ッッ!!」


 エレンは理解した。自分の矢がライナーを貫くと。だが、それでもやり遂げることがある。


「ごめんね、ライナー!!」


 謝りながら、エレンは魔力を溜める。狙いは1つ。アイスフェンリルを、討つのだ。


「が、はぁ………」


 やがて、矢に脳を貫かれてライナーは絶命した。


「ガァッ!」


 もう油断しない。そう言うかのようにライナーの体を凍てつかせる。

 そしてエレンの姿を見据えると


「出てよ、希望の光!〈シャイニング・ディザペアー〉!!!」


 絶望を断ち切る希望の光。エレンが唯一使える光属性の魔法は、弓から大量の光の矢を放つ魔法だ。その魔法は光を放ちながら敵を穿つ魔法。準備に時間が必要なので普段は使わないのだが、今回は使うしかない。もうみんな、やられてしまったのだ。


「あなたは絶対、ここで倒す!!」


 エレンの覚悟は


「ガァッウ!!」


 アイスフェンリルは易々と乗り越えていく。


「嘘………」


 何発か光の矢が被弾しながらも、高速でエレンに接近したアイスフェンリルは、その爪を持って、エレンの頭を地面へと叩きつけた。エレンは耐久力に秀でてはいない。これで、死んだことだろう。


「キース………ライナー………エレン………みんな!」


 残るは、優斗だけである。優斗は、この期に及んでまだ逃げる選択肢をとっていなかった。いや、もう逃げられない。生き残っている味方は誰もいないのだから。

 だからアイスフェンリルは優斗を殺すと決めて


「なに勝った気で嫌がる………獣野郎が………」


 その声を聞いて、絶句した。優斗も、自分の耳を疑った。だってそれは、先程脳を矢で貫かれて死んだはずの、ライナーの声だったから。


 アイスフェンリルと優斗はライナーがいた場所を見る。

 身体を凍てつかされて倒れていたライナーの身体は燃えており、氷を無理やり突破したのだと理解する。

 だが、それ以外は全てがおかしかった。

 まず、無理やり突破した代償だろうか。顔が右半分を失っていた。

 左手も存在しないし、何故生きているのかもわからない状態だから。それに、脳も半分飛び出しており、こちらも無理やり突破した代償なのか、腹からは臓物が落ちている。とても見れた状態じゃなかった。だけど、ライナーはそこに立っていた。


「スキル、〈最後の遺言〉の効果だ。死んでも一定時間動けるって言うな………」


 つまり、そのスキルの効果が切れると、もうライナーは本当に死んでしまうのだろう。


「勝負だアイスフェンリル!ユウトっちは、絶対に死なせない!」


 ライナーは剣をアイスフェンリルに向けると、小さく〈神速〉と呟いて、アイスフェンリルの目の前に現れる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ライナーの連続切りがアイスフェンリルを襲う。斬撃の雨が、アイスフェンリルの身体を蝕んでいく。だが、それも数秒程度で終わるだろう。

 元々、〈最後の遺言〉というスキルは、死んだ人間が天界に行く前に遺言を残すためだけのスキルだ。決して、死んだ体で戦うためのスキルではない。だが、ライナーはそれをする。死なせないと、己に誓ったから。


 優斗のことを、死なせたくないと、そう思ったから。

 だから


「絶対に死なせねぇよ!」


 だが、それでもアイスフェンリルには届かない。それも当たり前だ。そもそも、アイスフェンリルの推奨討伐レベルは80。それに対してライナーの今のレベルは51。ライナーのレベルは上級冒険者と呼ぶに相応しいレベルを持っているが、上級者殺しとも呼ばれるアイスフェンリルを倒すには圧倒的に数値が足りない。


 だから、この抵抗も無駄。悪足掻きでしかない。

 そう、ライナー1人ならば


「ガハッ!」


 途端、ライナーの腹に剣が差し込まれ、その刃はアイスフェンリルの腹にも少しくい込んだ。


「ガ、ガァッ!?」


 アイスフェンリルは困惑する。何故腹から剣が飛び出すのかと。そもそも、この剣はどこから………

 アイスフェンリルはそこまで考えて気がついた。ライナーの後ろに、女が隠れていることに。


「私のことも、忘れないで欲しいな」


 ライナーの後ろに回り込んでいたのはエレンだ。エレンはギリギリ死んでいなかったのだ。そのまま〈潜伏〉のスキルで姿を隠しながらライナーの後ろに移動。そして、アイスフェンリルを討つために、ライナーを刺したのだ。確実に、この一撃を当てるために。


「じゃあね、ユウトくん。天国で会ったら、またお茶しようね」


「待って、エレン!ライナー!!」


「〈チャージ〉解放!!」


「〈エンチャント・炎〉!〈ファイアーブレード〉!!全力解放だ!!!」


 そのまま炎がアイスフェンリルを貫き


「ガァァァァ!グガギャァ!!」


 アイスフェンリルが最後の力で周囲を凍てつかせるのと殆ど同時タイミングで


 優斗の足元に転がっていた〈転移の宝玉〉は効果を発動して、優斗を転移させた。

次回、第一章最終話


スキル解説・〈最後の遺言〉

死んだ後に勝手に発動するパッシブスキル

スキルレベル1では動ける時間は1分程度で、10でも2分程度

そもそもこの世界のスキルは何度も使うことによってスキルレベルが上がるが、〈最後の遺言〉だけは使った時点で死んでるのでスキルレベルが2以上になった人が存在しないタイプのスキル


・推奨討伐レベル

これは安全にクリアする為の目安であり、別にこれより低くてもクリアできる可能性はあるし、高くても失敗する可能性はある

今回は死力を尽くして倒した感じです。レベル差離れすぎ

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