悪い予感てね、よく当たるんですよ。いい予感て、外れるものなんですよ。つまり、そういうことですよ
ここから本格的に物語が進みます
「覚悟、か………」
昨日エレンに言われたことを思い出す。
結局あの後は優斗の服をみたり、追加の装備を見に行ったり、ポーションの店を教えて貰ったりで1日が終わった。
エレンと別れてからもずっと考えているが、やっぱりその答えはまだ優斗の中には無い。
「エレンもライナーも、きっとキースにだって答えは出てるんだろうな」
そうでなくては上級冒険者になんてなれないだろう。
「まあ、考えるのは一旦辞めだ。答えなんてすぐには出ない」
気持ちを切り替えてクエストに行こう。そう判断すると今日もギルドへと向かった。
ギルドは何時でも賑わっている。やはり命の危険があるとはいえ、冒険者になる人数自体は多いのだろう。
それに、この街の周辺には弱いモンスターが比較的多い。そうなるとレベル上げのために安全なこの街の近くに人が集まるのは自然なことなのだろう。
そんなことを考えながらライナーたちと合流する。
「おはようユウトっち。今日のクエストなんだがな………」
ライナーは一拍置くと
「今日は、ユウトっちに決めてもらいたいと思う」
「………俺に?」
正直意外だ。クエストを自分で決めるのはまだ先の話しだと思っていたから。それくらい、新人冒険者がクエストを見繕うのは危険だと思っている。大して知識もないのにクエストを選んでは、容易に死んでしまう可能性もあるからだ。
「もちろん、ユウトが選んだクエストを俺達も見て判断する。だが、基本的にクエストを選ぶのはユウトだ」
「キースまで………でも、選び方なんてわからないぞ?」
「そこは、私が隣で教えてあげるよ。だから心配しないで?」
エレンが隣で教えてくれるのならまだ安心か。優斗はクエストを見ることを一先ず了承してクエストボードの前まで移動する。
「それにしても、クエストの数ってやっぱり沢山あるよな」
「それだけ、冒険者にして欲しいことがあるって事だよ。危険な場所に進んで行きたがる人なんていないもんね」
優斗みたいな異世界人は最初は嬉々として危険地帯に向かうと思うが、やはりこの世界の人は違うのだろう。まあ、異世界人はそもそもこの世界を最初はゲームの延長線として見ると思うが。
「グリフォンの討伐やマンティコアの討伐とかもあるんだな」
「ちなみに依頼用紙の右下に推奨レベルがあって、そこを見て参考にするといいよ」
「なるほど………ってこのクエストの推奨レベル35かよ」
推奨レベルということはあくまでも参考程度ということなのだろうが、今の優斗では絶対に無理なラインだろう35は。
「でも、これを見ながらだったらわかりやすいな」
「あとはモンスターとの相性かな。どんなモンスターが自分と相性がいいか考えて受注するといいかも」
今の優斗と相性がいいクエストは小さなモンスターの討伐クエストやアンデッドモンスターの討伐だろうか。
小柄なモンスターならば剣で簡単に倒せるし、アンデッドモンスター相手なら〈初級神聖魔法〉があるので戦いとして成立はしそうだ。
ちなみに推奨レベルは何も討伐クエストに限った話じゃない。採取クエストや護衛クエストだって、危険地帯を通る時は高レベル冒険者が欲しいだろう。
「まあここは無難に討伐クエストかな………」
だが、今は森の手前、又は入口付近でのゴブリンの討伐クエストもコボルトの討伐クエストも無い。
「だったら、これはどう?トレントの討伐クエスト!」
トレント。それは簡単に言えば木に擬態したモンスターの名前だ。
基本的に臆病な性格で、森の中心の方に潜んでいる。だがいざ戦闘になればその大きな身体で全力で抵抗してくるらしい。ちなみにほとんど移動はできないそうだ。
「これ、推奨レベル15って書いてるけど………」
「さっきも言ったでしょ?あくまでも参考にって。それに、トレントは生息地と大きな身体が原因で推奨レベルは上がってるけど、実際の戦闘力はゴブリンとコボルトよりも少し強くなった程度だよ」
じゃあ、トレントは問題ないとして。他のクエストだ。
トレントは選択肢の1つでいい。ある程度クエストを探してから吟味するべきだ。
(受けるのは基本俺だから、推奨レベルは高くてもさっきのトレントくらい………15前後か?それも場所や相性も考慮しないといけない………)
想像以上に難しい。優斗がもう少し強ければ悩まなくても良かったかもしれないが、今はレベル11のヒヨっ子冒険者だ。警戒して損は無い。
「よし、これなんてどうだ?」
優斗が見つけたのはゴブリンの群れの討伐クエストだ。
「えっと?推奨レベルは15。群れってことはゴブリンロードがいる可能性も………ううん。推奨レベル15ってことはそれは無いかな。じゃあ、ちょっと強いゴブリンがいるくらい?」
エレンは依頼書を見ながら少し考えると
「うん。いいんじゃないかな。多分だけど他よりも少し強いゴブリンがいるかもだけど、私たちの援護付きならユウトくんでも全然戦えると思うよ」
「じゃあ、これをライナーとキースに見せに行くか」
エレンにアドバイスをもらって決めたクエストをライナーとキースに見せに行くと
「俺っちはいいと思うぜ。万が一ゴブリンロードがいても、対処は難しくないしな。キースは?」
「………俺も問題無い。少し、場所が気になるが」
そう。今回のゴブリンの生息地は森の中心地よりも少し奥だ。
先程あったトレントの生息地からは少し離れているが、それでも道中に近くを通ることには変わりない。
「キースの懸念点もわかるけどよ、もし失敗しても経験だ。俺っちたちがいる内に、失敗は学ばせた方がいいって」
「そうだな。ユウトは確かに甘えてばかりじゃないし、そこら辺はしっかりと警戒している。だが………」
キースはそこまで言うとクエストの用紙を見ながら呟く。
「少し、嫌な予感がするな………」
上級冒険者の嫌な予感なんてやめて欲しい。死亡フラグが立ったみたいで嫌だからだ。
「もしもの時は緊急脱出すればいい。それに、この森に住んでるモンスターで俺っちたちの敵になるモンスターは少ないだろ?それも森のもっと奥に行かねぇといないって」
「ライナー。お前が油断していないことはわかっているが、俺は………いや、これ以上は空気を悪くするだけか」
ライナーの説得に、キースが先に折れた。
キースが折れたことにより、正式にこのクエストを受注。受付はいつも通りルリナだ。フレデリカの受付はいつも通り列が並んでいる。
(そう言えば、もう1人のこと気にしたこと無いな………)
名前も知らない。しかも優斗が来た日は全員受付に座っている気がする。
(いつ休んでるんだろうな………っていうか休みの日とか休憩時間とかあるのか?)
もし無かったら相当やばいが。
「こんにちは!今日もクエストですか?」
「はい。このクエストをお願いします」
優斗はルリナにクエスト用紙とギルドカードを手渡す。
「承知しました。では少々お待ちください」
そして魔導具を操作して、直ぐにギルドカードを返してくれた。
「それではこれでクエストの受注登録は完了です。行ってらっしゃいませ!」
ルリナの言葉に見送られながら、優斗はライナーたちと一緒に森へと向かう。
「ユウトっち、服変えたのか?似合ってるぜ!」
「ありがとう。似たような服ばっかりだったからちょっと増やしてみたんだ」
「いいじゃないか。冒険者には清潔感も大事だしな。だがユウト。ちゃんと動きやすい服を選んだか?」
「そこは大丈夫だ。安心してくれ」
服を選ぶ時はエレンも一緒だったが、そんな動きにくい服は選ぶつもりは無い。優斗はオシャレな服には興味は無いのだ。
森の中に入ると同時に、エレンは先に進み、優斗も〈危険感知〉で周囲の警戒をする。
「森に入って直ぐに〈危険感知〉を使うなんてな。ユウトっちも冒険者としての自覚が出てきたか?」
「さすがにな」
軽口を言いながらも警戒は続ける。
「みんな、少し歩いたところにアースモモンガが潜んでるよ」
「わかった。ちなみに迂回は可能か?」
「大丈夫そうだよ」
「………迂回するのか?」
「もちろんだ。なるべく戦闘の回数は少ない方がいいからな」
そういうものなのだろうか。優斗としては戦った方がいいと思ったのだが
(ゲームでもHPが無くなったら戦えないもんな。それと似たようなものか)
自分なりに納得させる。
なるべく無理のないように。それが一番なのだから。
また少し歩き、エレンが帰ってくる。
「見つけたよ、ゴブリンたち」
「見つけたか。ちなみにあとどれ位でぶつかりそうだ?」
「このまま真っ直ぐ。5分くらい歩いたら見えるよ」
「強い個体はいなかったか?」
「ゴブリンナイトが1匹だけ。ゴブリンナイトが群れ長みたい」
ゴブリンナイト。それはゴブリンの上位互換であり、成長したゴブリンがなる種族である。
「ゴブリンナイトか………」
キースもライナーも少し考えている。恐らく、優斗が単独で勝てるのかどうかを考えているのだろう。
「どうだ?ライナー」
「ユウトっちが先に周りのゴブリンを倒してレベルが上がったらいけるか?エレン。ゴブリンはゴブリンナイトを除いて何匹いた?」
「今回は15匹だね。1人で全部倒すのは難しいと思う」
ここで出てくる火力問題。今の優斗には、圧倒的に火力が足りない。
「今回はユウトっちが戦うんだ。基本的に俺っちたちは援護。危ない場面だけ俺っちの魔法とエレンの弓で守ってやろう」
ライナーの言葉によって方針が決まった。戦いの主軸は優斗だ。つまり、
(俺が、全部処理するのか………)
数は15匹と上位種が1匹。
「安心しろユウト。ゴブリンナイトは俺が引き付けておく」
キースも慰めてくれるが、安心できない。
(ちょっと、緊張してきたな………)
いつも手伝ってくれていた3人の援護が今回は殆ど期待できない。
初めての討伐クエストの時は拘束してもらい、採取クエストの時の戦闘は1匹づつ別で襲いかかってきたから簡単に対処出来た。護衛クエストの時は一緒に戦ったから1匹に集中できた。だけど今回は周囲の警戒も怠ってはいけないのだ。
「よし、接敵するぞ」
ライナーの言葉と共に覚悟を決め、優斗は戦場へと赴くのだった。