Chapter.05 ーKARASUー
新しい登場人物、鴉さん。
設定を少々盛り過ぎた、、、ミスユニバースて。
ゆりかもめの乗り場に向かいながら、時代葵は頭を抱えていた。2度も嵐と遭遇していながら手を下すことが出来なかったことに。
(あーもう…マジでワケわかんない…どうしてアイツの顔を見ると殺意が鈍るのよ…はあ…)
ダイバーシティの駐車場で、時代葵から襲撃を受けた前後の時間帯の監視カメラの映像を確認し終えた京極は外に出て海辺で煙草を吸っていた。
(無駄足だったか…カメラ対策までバッチリしてあるなんてな…時代葵は俺たちと同業なのか?おっと、17時すぎか。だいぶ時間を食っちまった。そろそろアイツに会いに行く準備を……って、ん?あれは…)
京極が目にしたのは、時代葵が暗い表情で駅に向かって歩いていく姿だった。急いで携帯灰皿に吸い殻を片付け、距離をとりながら彼女の後を尾行し始めた。
(なぜ時代葵がここに…また待ち伏せして嵐を襲う気か…?)
しかし駅の入口あたりまで来たところで、彼女はある男に声を掛けられた。話をしている様子から、ナンパではないらしく見知った相手のようだった。男は全身、黒ずくめの服装にハットを被っている。肌の色からして、日本人ではなさそうな雰囲気だ。そのまま駅には入らず、進路を変えて2人は歩き始めた。
(あの男、何者だ?協力者か?ただならぬ雰囲気だが…もうしばらく尾行してみるか)
尾行を続けて3分ほどで時代葵と男はカフェに入っていった。店内に入るのはさすがにリスクが高い。京極は店の外で缶コーヒー片手に2人が出てくるのを待つことにした。
「葵ちゃーん。ちゃんと仕事してくれなきゃ困るなあ〜。無理そうなら俺がやっちゃうよ〜」
「わかってるわよ。敵を知るためにちょっと接近しただけ。次で決める」
男はおしぼりで手を拭き拭きしながらヘラヘラしていた。時代葵は不快そうに腕を組みながら視線を男と合わせないようにしていたが、次の瞬間、男がテーブルから乗り出して不遜な態度の彼女の両頬を鷲掴みにして睨みつけた。
「ならさっさと殺れ。次ミスったら俺がお前らまとめて殺るからな」
男の豹変ぶりに彼女もさすがに驚いたのか目を見開きながら頷いた。手を離して席についた男はすぐに"元に"戻った。
「ごめんねえ〜セッカチで〜。アッチのほうは我慢強いほうなんだけど、お仕事はさっさと片付けたい派なんだよ〜時は金なりって言うぢゃん?」
「そ、そうね。悪かったわ。ちゃんとやる」
彼女は怯えたように声を振り絞りながら返事すると、男は自分が注文したコーラの代金だけを伝票の上に置いて用事があるからと言い残し1人で店を出て行った。
京極は近くの物陰でずっと中の様子を伺っていたが2人が解散したのを見てこれ以上の尾行は諦めた。
(さっき男が時代葵を詰めているように見えたが…アイツが黒幕なのか?あークソ!もうこんな時間か。そろそろ俺も自分の予定に戻るとするか…)
後ろ髪引かれながらも京極は情報屋と会うためにその場を離れ、車を停めてある駐車場へ向かった。車を走らせ目的地に向かう道中で花屋に立ち寄った京極は店先で真っ白な百合の花束を受け取ると、それを助手席に置いて再び出発した。
表参道にある目的地付近の駐車場に車を停め、花束を抱えながら待ち合わせの店へ歩く京極の姿は通行人の視線をどんどん奪っていく。モデルのような長身にブラックスーツ。そしてその手には真っ白な百合。撮影でもしているかのような絵になるその歩く姿は、むしろ視線を奪われない方がおかしい。しかし、さらにその上をいく猛者が約束の店の軒先のテラス席にいた。
ショート丈のチャイナドレス姿の女がいる。ブラックサテンのドレスには大柄な白い牡丹の刺繍が入っている。裾から覗くスリットは腰の下付近まである。そこから伸びた人魚の尾ひれのように白く長い美しい脚を組む姿は魅惑的という表現以外当てはまりそうにない。黒髪をトップで纏めた夜会巻きに大きなレンズのサングラスをかけているその姿は完璧だったが、周囲の風景からすれば、その姿は完全に異質だった。
「なあ真希、どういうサプライズだそりゃ?」
呆れ顔でやって来た京極が待ち合わせていたのは、まさにこのチャイナドレスの女であった。女はサングラスを外し、上目遣いで京極の顔を見た。
「5分前…京にしてはやるじゃない。で、何がサプライズなのよ?」
「いやだって、その格好…いや、まあいい。これ、手土産だ」
手土産と言って差し出した百合の花束は、ぱっと見でも30輪以上ある。手土産と呼ぶには仰々しいボリュームだった。
「"手荷物"…の間違いじゃない?冗談よ。ありがとう。頂いておくわ」
女の名は鴉 真希。ミスユニバースの日本代表にも選ばれたことのある才色兼備な京極の知り合いである。鴉は受け取った花束を隣の椅子に立て掛け、手に持っていたクラッチバッグから三つ折りの書類とANNA SUIのシンボルでもあるバタフライをモチーフにしたグロス加工のブラックケースを1つ取り出した。京極も席に掛け、受け取った書類を開いて目を通した。
「……やはりか…」
「ええ、厄介そうな案件ね。まさか今になって拗れてくるなんて、嵐くんも運が悪いと言うか…」
書類は時代葵が撃たれた時の検死結果が記された死亡診断書。そしてもう1つのケースの中身にはメモリーカードが入っていた。
「こんな昔の資料、引っ張り出してもらって悪いな。こっちのメモリーは何だ?」
「たぶん、今回の騒動の"答え"よ…見てのお楽しみ。ちなみに話を戻すけど、この格好は私だと悟られない為にお忍びで来ているからであって、サプライズでもなければ貴方を喜ばせたくて着てきた訳でもないから」
「お忍び…いや、悪目立ちしかしてねぇだろ。周り見てみろよ。通行人の誰もが二度見三度見してんじゃねぇか…」
鴉が何故、お忍びなのかーー実は彼女、警視庁捜査一課の警部補、つまり現役の警察官なのである。
「馬鹿ね。"木を隠すなら森の中"よ」
「それ、使い方間違ってるだろ…。コスプレはハロウィーンの時だけにしとけよ。それじゃ、俺はそろそろ行くとする。本当に助かった。じゃあな」
「え、ちょっと!もう行くの?貴方、私を便利屋扱いしてるんじゃないでしょうね?」
「え、あ、いや、ハハ…そんな訳ないだろ。愛してるよ、真希」
そして、京極の恋人でもあった。京極はバタフライモチーフのケースをジャケットの内胸ポケットに仕舞うと立ち上がって店を出た。
「……京極!また…会えるわよね?」
鴉の言葉に京極は少し微笑み軽く手を振って去っていった。命を狩るということは、当然命を狩られるリスクも伴う。それが、いつ何時、我が身に何が起こるかわからない暗殺者を生業としている京極の最低限できる返事であった。
(胸元を撃たれたことによる失血死……時代葵は間違いなく死亡している…か…)




