Chapter.49 ーVICIOUSー
サブタイトルは"悪辣"という意味です。
最近シリアスな空気ばかりだったので、最後の方で少しふざけてみました。
お笑いでいう"天丼"ってやつです。←サブタイトルこっちにした方がよかったかな、、、
淡路島山岳地帯ーー右京を米軍艦から救い出した二条は脱ぎ捨てたアーマーを調整していた。
「JACKALを潰すのは僕も賛成だが、これからどうするんだ?」
「一応、手は打ってある。JACKALの巣に置いてきた俺の相棒が今頃、占拠してるはず。ま、今は嵐以外、全員病院でおねんねしてるだろうが…どちらにしても、あいつらは帰るお家をなくしたって訳だ」
「相棒?君の他にもスパイがいるのか?」
右京の疑問は最もだった。ラングラーの指示で動いていた右京ですらもスパイである二条の存在を知らなかった。さらに他にも仲間がいるとなれば、一体何人がJACKALに潜り込んでいたのかという話になる。
「人を友達いないみたいに言うなよ…そりゃお前だろ。お前もよく知ってる機械仕掛けの相棒だよ、ガレリアだ」
「僕にだって友達くらいいる。ガレリア…ああ、君の兄を改造したっていうサイボーグか」
「あー公式ではそうなってたか。あれな、俺のクローンだよ。クローン作って、それをサイボーグに作り変えたのさ」
クローンを生成していたということは、やはり二条はラングラーの手の者なのだと、右京は改めて実感した。クローン技術はラングラー副長官が極秘に研究を進めさせたもので、国際法に触れるためクローンが存在していれば、それはすなわちラングラーの関係者となる。
「なるほど。じゃあ、僕たちがこれから向かうのは滋賀県か?」
「だな。あいつらの本部であいつらを迎え討つ。嵐は入院しねぇみたいだから、あいつだけは今頃、戻ってる最中かもな。嵐にはサプライズを用意してあるから、俺たちが着く頃には死んでるか、使い物にならなくなってるはずだ。俺はお前を連れ出すのにちょっと疲れたからよ…のんびり向かおうぜ」
そんな二条の予想に反して、残ったエージェントで総力戦を仕掛けてきた嵐たちは三条、八条、四条、五条以外の4人がすでに技術開発局のある100階に到着していた。そして、七条と十条も99階の情報局で管理システム奪還に着手していた。
「三条たちはまだのようだな…やはりエレベーターは予め意図的に停止階を決められていたのか。無事だといいが…」
技術開発局の扉を開け、中に入るがやはり無人だった。避難したと聞いていた通りだが、何か罠が仕掛けてあるかもしれない。4人は警戒しつつ、奥の部屋にある武器庫へと足を運んだ。武器庫には厳重なセキュリティが敷いてあり、扉に認証システムがある。入口ゲートでの出来事が頭を過ぎるが、一条はパスキーと網膜認識を試みた。
"認証エラー。あなたの権限ではこの扉を開錠できません"
「やはりか…十条たちが下で頑張ってくれているだろうが、まだ時間がかかるだろう…四条たちのことも気になる。少しここで休憩しつつ待…」
しかし、一条の言葉を遮るように武器庫の鋼鉄製の扉を殴る鈍い音が響いた。
「一条、悪いが俺は先に進ませてもらう」
技術開発局から出て行こうとする嵐を見て、京極は頭を抱えながらため息を漏らした。
「一条、すまないな。あの馬鹿は彼女のこととなると歯止めが効かなくてな…。相棒である俺が放っておく訳にもいかんし、俺も行かせてもらう」
よくは聞こえなかったが、京極の意図は伝わったようだった。一条は配慮が足りなかったと俯き、己の不徳を嘲笑うかのように苦笑いを浮かべた。その肩に手を添える九条。
「気に病むことはない。私はあなたの判断は間違っていないと思う。元より2人1組での別行動だったのだ。待つのは私たちだけでも問題ないだろう」
エレベーターホールに戻る嵐を追いかけて京極もホールにやってきた。
「別に気を遣わなくても俺一人でいけるから、休んでろよ」
振り返ることもなく嵐は吐き捨てるように言い放った。京極は面倒そうに目を細めて嵐の肩を掴み、こちらに振り返させると、頬を引っ叩いた。
「ナメてんじゃねぇ!!人質を取られて焦ってるのはお前だけじゃねぇんだよ!!」
京極は腹の底から振り絞るように怒号を上げた。常にクールを気取っている京極が露わにした怒り。そして傷が開いたのか、少し咽せて手に血を滲ませていた。そう、嵐が大切に思う時代葵と同じく、京極の恋人である鴉真希もこの本部のどこかにいるはずなのだ。京極も同じくらいの不安を抱えている。それなのに自分の焦りばかりを優先して独断行動をとっていた自分を嵐は恥じた。ようやく頭が冷えたようで、俯き呟くように一言ーー"悪ぃ"と漏らす。
乗ってきたものとは別のエレベーターに乗り、187階のボタンを押した。どこで止められるか警戒していたが、結局何の妨害もなく嵐たちは187階に到着した。
さっきの怒号で相当な痛みがあったのか、京極は声を出さず指先でジェスチャーをして2人は訓練場の扉を左右から挟むように立ち位置についた。指を立てて3カウントし、一気に扉を開けた。
187階にある訓練場は、ショッピングモールや銀行など犯罪が起きそうな場所が精巧に再現されており、様々な場所での戦闘を想定して造られている。そして、190階までが吹き抜けになっており、4フロア全体が実戦形式で行なえる訓練施設となっている。
中に入ると、そこは駅のホームだった。建物の中であることを忘れそうになるほど、本物さながらの駅の造り。いくつも並ぶ柱にはデジタルサイネージが。壁には企業広告と路線図が貼られ、天井には先発と次発の時刻を表示した電光掲示板が吊られている。売り子こそ立ってはいないが売店まである再現っぷり。わずかな音でも反響する密閉空間で2人は柱の陰から柱の陰へと静かに移動していく。
(人の気配はするが殺気のようなものが感じられない…捕まっていない本部の人間でもいるのか…?)
京極は何かを感じ取ったのか、足を止め柱の陰で日本刀の柄に手を掛け周囲を見回す。嵐もそれに同調して足を止め銃を手にする。しばらくすると、2人分の足音が聞こえてきた。
(こちらに向かってくる…敵か?)
嵐と京極はアイコンタクトで一斉に柱から出て足音の主に武器を構えた。その相手に嵐と京極は愕然とした。
「あ…おい…?」
「真希…なのか?」
そこに立っていたのは、2人が気に掛けていた時代葵と鴉真希であった。
「あ…らし…くん…逃げ…て……」
葵は銃を嵐に向け苦しそうに言葉を漏らした。何が起きているのか理解が追いつかない嵐は、葵の指がゆっくりとトリガーを引いていくのに気付き、飛び退いた。その瞬間、彼女の銃が火を噴いた。
「葵!?どういうことなんだよ…」
同じく、鴉警部補も京極に向けて発砲してきた。京極は刀で弾道を逸らし交わしたが、この異様な状況に対して明らかに動揺している。
「京、ごめん…してやられた…身体の…自由……がきか…ない…」
2人の恋人が自分の意思とは関係なく、身体を乗っ取られて発砲してくる様にただただ戦慄した。反撃が出来ない。原因もわからない。嵐と京極は手も足も出ず一旦、退却することを余儀なくされた。
「どうなってるんだよ…やっと見つけたっていうのに!!」
「二条のやつ、悪趣味なことをしやがる…」
訓練場を出た2人は廊下で困惑していた。四条と五条が71階で遭遇したJACKALの職員に施されたのと同じ神経制御チップによるものではあるが、2人はその事実を知らない。
薬物なのか、催眠なのかーー考え得る原因をいくつも思い浮かべるが、そのトリックがわからなければ、これほどやりにくい戦いはない。
「葵と真希さんがあの様子では、他の職員たちも同じ状態かもしれない。二条兄を探し出してそっちを叩くしかねぇのか…そう簡単に見つかるとは思えねぇけど」
葵たちに遭遇した際は、振り切ってやり過ごし、二条兄を探すという方針で2人は再び訓練場に入った。
その頃、100階の技術開発局で待機していた一条たちの元に、ようやく汗だくの四条と五条が到着した。
「はぁはぁ…み、水…マヂ無理…」
九条から水を受け取り飲み干した2人は、71階で遭遇した内容を報告した。
「職員たちが…なるほど。本当にこちらの嫌がることをここぞとばかりに突いてくるな、あちらさんは」
「一条、マズイかもしれない。その神経制御チップがもしこの本部にいた全員に取り付けられているとしたら、先行した嵐たちには絶対に勝てない相手がいる」
「……っ!時代葵か!たしかに…神経制御の実験はJACKAL内でもごく一部の人間しか知らないまま闇に葬られた、いわば黒歴史。嵐たちは知らないはずだ…三条たちがまだ来ていないが致し方ない。急いで救援に向かうぞ!」
「え、ウソ…ちょ、ウチまだ無理…脚パンパンでしんどいし、あーしらがここで三平たち待つよ〜」
五条は平気そうであったが、四条だけを置いていくのは些か不用心だということで四条、五条が残り、一条と九条はすぐに187階へ向かうことにした。
同じ頃、非常階段で80階まで上ってきた三条と八条はかなりペースダウンしていた。
「はあ…はあ……もう無理…吐く…」
「ここで吐くのダメ。俺も吐く。吐くならトイレ」
「もらいゲロするってか?わーったよ、吐かねーよ。にしても、荒行かよ…27階も上ってきて、更にまだ20階も上らなきゃなんねーとか。こんなクソみてぇな嫌がらせで体力削られんのダルすぎんだろ!」
「それだけ喋れる元気、あるなら大丈夫。行こう」
どうやら八条はまだまだいけるらしい。三条は憂鬱な目をしながら口を閉ざし、再び階段を上り始めた。
訓練場に足を踏み入れた嵐と京極は擬似駅のホームを進み、さきほど葵たちに遭遇した場所まで戻ってきた。しかし、気配がない。
「葵たちはどこ行ったんだ…むしろ好都合か。このまま進んでガレリアを探すぞ」
ホーム内を駆け抜けて次の施設となる大型のスーパーマーケットを模造した部屋に到着した。そこで放送が流れた。
"さっきは逃げたみたいだが、よく戻ってきたな。褒美に彼女たちとの再戦を用意してやるよ"
放送が切れると、関係者口からぞろぞろと人が出てきた。よく見ると、どれも見知った顔である。JACKALの情報局や総務部、技術開発局の職員たちだった。しかし、京極はある人物がその中に紛れていることに気付き、唇を噛んだ。
(クソ…そういえば"彼女"も本部に残ってたな…)
京極が目にしたのは、秘書室、筆頭秘書の深草美雪の姿だった。筆頭秘書という戦闘とは程遠いポジションでありながら、これまで幾度も京極たちの危機を救ってきたJACKALでも五指に入る実力者。それに加えて、多勢に無勢。振り切るには人数が多すぎる。
京極は嵐の耳元で聞こえるように話した。
「俺が美雪嬢の相手をする。お前は他の職員たちを気絶させるなりして、無力化してくれ」
非戦闘員とはいえ、身体を操られて銃も所持している。ぱっと見でも15〜6人はいる職員を相手にするのは骨が折れる。しかし、それでも深草1人とやり合う方がリスクが高いことは嵐にも理解できた。
深草を先頭にゾンビのように歩み寄ってくる職員たち。京極は駆け出して深草に接近した。
「このような形だが、君とは一度手合わせしてみたかった。よそ見はせずに俺だけを見てくれるとありがたい」
京極の接近に深草はすぐさま反応し、素早く回し蹴りを放った。刀の鞘でそれを受け止めるも、威力が強くわずかに弾き飛ばされる。着地したのも束の間、深草は銃撃と蹴りを組み合わせて怒涛の勢いで連続攻撃を仕掛けてきた。なんとか交わし続けるものの、防戦一方で攻めることが出来ない。深草というJACKALの隠し玉は、やはり一筋縄ではいかなかった。
一方、嵐は職員たちを次々と殴り飛ばし気絶させていた。職員が銃を持っていようが関係がない。嵐の機敏な動きに職員は照準を定められなかった。いわゆる無双状態なのだが、ここのところ苦戦続きだった影響か、嵐は心を鬼にするどころか少し楽しんでいるようにも見えた。暴力のバーゲンセールに狂喜乱舞する嵐の様子を京極は一瞥し、再び深草へと視線を戻した。
「美雪嬢、俺に何か隠してることはないか?"あのこと"じゃなくて」
声が届くように痛みを堪えて最大ボリュームの声で問いかけた。しかし返事はなく、無言のまま深草は突進してきた。その動きに合わせて京極は後ろへ飛び退き、刀を鞘に戻して深草の攻撃に備えた。京極とぶつかる直前に深草は銃を捨て、格闘術のみで先ほどよりも更に手数の多い攻撃を仕掛けてきた。
嵐は最後の1人の職員の顔面に膝蹴りを打ち込むと、すぐに京極の加勢に加わろうと踵を返したがーー
"嵐、喜べ、本命の登場だ"
二条兄の神経を逆撫でするような放送と共に嵐の前に立ちはだかったのは、時代葵と鴉真希だった。
「くっ…葵、真希さん。必ず助けてやるからな…」
同時刻 滋賀県彦根市
名神高速道路で時速180km/hで走行し続けて交通機動隊の覆面パトカーに追い回されている車があった。
「疑問なんだけどさ…どうして飛ばずに車を選んだんだ?で、この状況どうするんだよ?」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ…ガレリアのアーマーの燃料が無尽蔵だとでも思ったか?節約だよ節約。そして車はスピードを楽しむものだろ?アクセルをベタ踏みして何が悪い?安心しろ。振り切れる」
10分後ーー第一走行車線の路肩に停車して警察に強めに叱られている二条の姿を、助手席から哀れそうの目で見守る右京。切符を切られ、苛立ちを顔全体から漏れ出させながら二条が運転席に戻ってきた。
「君みたいな性格なら、てっきり殴り倒して逃げると思ってたんだけど、意外に律儀なんだね?」
「…あ?俺らは大阪湾のニュースでちょっとした有名人だろうが。ここで騒ぎを起こしたら国家権力総出なんてことにもなりかねん。今のこの状況で面倒はごめんだからな」
「なるほど。君は粗暴そうに見えて案外、冷静だね。さすが頭脳派の二条を演じてただけはあるか」
「やかましい。チッ…それにしても、やはりプリウスでクラウンを撒くのは無理があったか…」
発進するのを覆面パトカーに見届けられながら、走り出してルームミラーに映るクラウンの姿が視界から消えたと同時に、二条はアクセルをベタ踏みした。
「お、おい…今度捕まったら免停どころじゃ済まないんじゃ…」
「構わねーよ。ガレリアから連絡があった。嵐だけだと思っていたが、NINE'zと京極、全員で攻めてきているらしい。俺のクローンとはいえ、あいつ1人では荷が重いだろ。だから急いでんだよ。次は絶対に撒く!」
5分後ーー4kmほど進んだ場所の第一走行車線の路肩にプリウスとクラウンが停車していた。
「君!!警察をナメているのか!!」
「やかましい!!」
私服警官を殴り倒しその場で発砲して息の根を止めると、覆面パトカーで待機していたほうの警官が慌てて銃を抜き取って応戦しようとするが、その警官もすぐに二条に頭を撃ち抜かれて絶命した。
(け、結局こうなるんだったら、1回目のやりとりは何だったのだろう…)
「だぁっ!!クソッ!!プリウス、ポンコツかよ!!」
(しかもプリウスのせいにしてる…)
右京は空いた口が塞がらなかった。二条は運転席に戻り、すぐにアクセル全開でその場を後にした。
8/26 登場人物の肩書を修正
深草美雪:筆頭秘書→秘書室長




