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MIRAGE SONG  作者: やさぐれた中年
Wandering Justice
32/58

Chapter.32 ーConfusionー

ようやく、ちょっぴり近未来感のあるワードが出てきました。クローン人間。

AI生成で肖像権やら何やらが危ぶまれる昨今ですが、ヒトのクローンが作製出来てしまうような時代になったら(違法ですが)、不老不死も夢じゃないですね!←ルパンVS複製人間

"おかけになった電話は電源が入っていないか、 電波の届かない場所にあるため、かかりません"


 今朝のニュースを見て、もしやと思い美波に電話をかけてみるが、繋がらなかった。鞍馬の殺人事件に巻き込まれたのか、もしくは最悪の場合、彼女が犯人である可能性もーー少しの間とはいえ共に行動した同僚をそんな風に疑いたくはないが、彼女はおそらく鞍馬から暴力を受けていたはず。動機としてはありえなくはない。行方もわからず連絡も取れない状況が言い表せない不安を煽る。換気扇の下で煙草に火をつけ、他の可能性を考えていると、嵐の携帯電話が鳴った。すぐに電話に出たものの、相手は美波ではなくNINE'zの一条だった。


"今話せるか?兵庫県警の刑事が殺害されたニュースを見たか?"


「ん?ああ…見たよ。総本部のエージェントで"美波"って娘がいるだろ?その元交際相手だ、殺されたのは」


"そうなのか?いや、しかしそんなことはどうでもいい。現場に落ちていた凶器と思われる拳銃がジラフの物だと判明した。推定犯行時刻は深夜0時〜2時の間だそうだ"


 先ほどまで思案していた"最悪"の更に斜め上をいく事実に嵐は驚愕した。兵庫県警の留置所でジラフが自害したのは午前1時前のこと。犯行時刻と重なる。


「ま、待てよ…じゃあ昨晩、俺たち対峙したジラフとは別のジラフがすでに鞍馬の自宅にいたってことかよ!?」


 いよいよジラフのクローン説が濃厚となってきたことに、嵐の額から嫌な汗が流れ落ちる。


"まだそうと決まった訳じゃない。刑事のマンション周辺にある監視カメラにジラフらしき姿は映っていなかった。考えにくいことだが、もしジラフに仲間のような誰かがいたとする。その者がジラフが使っていた拳銃を預かっていたりなどしていた場合、その誰かが使用して殺害した…という可能性もゼロではないだろう"


 さきほど考えた"最悪"の可能性ではなく、ジラフと関わりを持っている人物の犯行ーーたしかにそれなら可能性としてはありえなくもない。内部監査部のBEAST'sだった頃から、ワンマンアーミーと呼ばれる特別枠で単身行動していた男に仲間がいるだろうか。

 ひとまずジラフのDNA鑑定の結果が判明し次第、行動を開始するということで一条からの電話は切れた。


(美波…なぜ帰ってないんだよ。無事なのか…)


 一度、鞍馬殺害事件の概要を尋ねておこうと兵庫県警に向かうべく嵐は部屋を出た。廊下を歩いてエレベーターを待っていると扉が開いた。


「……えっ!?」


 エレベーターに乗っていたのは美波だった。


「美波!!どこ行ってたんだよ!心配したぞ!」


「え、ご、ごめん…久々の休暇だったから、ちょっと温泉旅行に行ってて。……心配してくれたんだ?」


「温泉かよ!まぁ、とにかく無事でよかった。お前の元カレの鞍馬が殺されたって聞いたのに、帰ってきてないんだから、巻き込まれてないか心配するだろ」


「そ、そうだよね…心配かけてごめん。私もニュースで見て…それでビックリして帰ってきたの…」


 美波はかなり憔悴した顔をしていたが、ひとまず無事に戻ってきたことと、アリバイはともかくとして凶器はジラフの銃である以上、美波はこの件には関わりがないだろうと判断し、嵐は安堵した。しかし、昨晩ジラフが自害したこともあり、凶器がジラフの銃であることを美波に伝えるのは余計な混乱を招くだろうと、あえて伝えることはしなかった。


「俺は今から兵庫県警でちょっと話を聞いてこようと思う。元カレとはいえ、見知った人間が殺害されたんだ…疲れただろ。美波は部屋で休んでろよ」


 そう言ってエレベーターに乗り込もうとすると、美波は嵐の手を掴んだ。


「あ、嵐ちゃん!私も行っていいかな…?」


 予想外の申し出に嵐は戸惑ったが、本人が望むなら断る理由もないと承諾し、2人でエレベーターに乗った。


「それにしても温泉とかいいよな〜俺なんて、作戦とはいえ、また留置所に入ってたんだぜ?」


 そんな他愛のない話で談笑しながらパーキングエリアに行き、車で神戸に向かった。阪神高速道路を走行している最中、嵐の携帯電話が鳴った。ハンズフリーで応答すると、相手は京極だった。


"嵐!!今、どこにいる!?総本部か?"


「なんだよ、藪から棒に。今はちょっと野暮用で兵庫県警に向かってる最中…大阪の豊中市あたりかな。どうしたんだよ?」


"総本部にはいないんだな?不幸中の幸いというべきか…よく聞け。総本部の地下深く、132本ある耐震用ピラーの内の9本にレインメーカーが爆弾を仕掛けている!その起爆のタイムリミットは今日の23時59分までだ。なんとかしたいが、SECOND本部の地下にも同様に爆弾が仕掛けられていて、そちらに構っている余裕がない。鳳長官に伝えて総員、退避させるんだ。いいか、絶対に総本部に戻るなよ"


「そ、そんな…爆破は食い止められないんですか?」


"ん?美波ちゃんも一緒なのか…無論、最善は尽くしているが、最悪の状況に備えておくに越したことはない、という話だ"







 3日前ーー首相官邸にてレインメーカーを捕らえたその翌日。東京都葛飾区、東京拘置所。


「おい!3日以内にJACKAL壊滅するってどういう意味なんだ!!」


「ちょっと京、落ち着きなさいって。この男がそう簡単に答える訳ないでしょう」


 強化ガラス越しに拘束されたレインメーカーにいきり立つ京極をなだめる鴉。レインメーカーはその様子をじっと見つめながら無言を貫いている。


「李さん。貴方がもし"壊滅"について何か話してくれるなら、こちらも貴方の処遇については善処します。どうかしら?」


「おい、真希!こんな奴にそんな処置必要ないだろ!俺がそっちに乗り込んで力づくで吐かせてやる」


「貴方ね…それ、違法だから。馬鹿なこと言わないで。そもそもこれは警察の仕事よ。貴方の出る幕じゃないわ」


「鴉警部補。私の釈放を約束してもらえるなら、話そう」


 京極と鴉が言い合いをしている中、レインメーカーが言葉の合間を縫うように提案を投げかけてきた。その提案に京極は更にヒートアップし、強化ガラスを両手で叩きつけた。


「調子に乗るなよ。お前を釈放して得られる情報など無意味だ。さぁ、今ここで話せ」


 京極はとうとう拳銃を抜いてガラス越しに構えた。鴉は慌てて、京極の腕を下ろそうと手をかける。


「いい加減にして頂戴!こんなところで銃を抜くなんて貴方どうかしてるわよ。李さん。さすがにその申し出は受けられません。刑期を短縮できるよう裁判で取り計らうのがギリギリのラインね」


「それでは話せない。話は終わりだ」


 すると鴉は怒り心頭の京極を引っ張って壁側でこそこそと話し始めた。


(いい?ここからは私が交渉する。貴方は黙ってて頂戴。私は今から"釈放して日本以外の海外への移住なら可能"だと提案する)


(アホか。そんなこと認められる訳ないだろ。却下だ、却下)


(話を最後まで聞きなさいよ。海外への移住、つまり海外の刑務所に住んでもらうという意味よ。それは勿論明かしはしないけれど。それなら文句ないでしょう?)


 言葉を巧みに利用した半ば詐欺のような交渉内容に、京極は煮え切らない表情であったが、鴉の無言の圧力に折れる形でようやく首を縦に振った。


「お待たせしたわね。この怒りっぽいオジサンを説得したから、今から最後の提案をするわ。これで駄目なら、私達も諦めます」


「いいだろう。何だ?」


「貴方を釈放する。ただ、日本からは出て行ってもらいます。つまり海外への移住。金輪際、日本への入国も許可しません。移住先はどこの国でも構わないわ。これでどうかしら?」


「……退去強制による海外への移住…か。まぁいいだろう。交渉成立だ」


 鴉は強化ガラスの下の見えないところでガッツポーズを決めた。京極は腕を組みながらまだ少し納得がいかない様子で黙って見ている。


「お気に召してもらえてよかったわ。それでは、JACKAL壊滅の概要、話してもらえるかしら?」


 レインメーカーはため息を1つ漏らしてから、話を始めた。滋賀県近江八幡市にあるJACKAL総本部と群馬県高崎市にあるSECOND本部。そのどちらにも爆弾を仕掛けてあるという。しかし、幕張旧本部での失態を活かして新本部のセキュリティは強化されている。特に爆発物への探知システムは『中性子後方散乱式爆発物探知器』という極めて高い探知精度を誇るものが設置されているため両本部に爆弾など仕掛けられる訳がない、というのが京極の言い分だった。だが、レインメーカーは両本部とも建設工事中に仕掛けた為、セキュリティなど関係ないという。


「建設中だと?そこが何故JACKALの本部になると知っていた?それに、まだ建ってもない場所に爆弾を仕掛けたっていうのなら、そんなものは現場の人間が気付くだろ、普通」


「JACKALの本部になるとは知らなかった。ただ建設予定地の規模と国の所有地であるなら、いずれ何かの役に立つと思っただけだ。お前は意外と頭が悪いな。現場の人間が気付くような場所に設置する訳がないだろう。群馬県の本部の場所は元は戦時中にフル稼働していた火薬製造所だ。だが終戦後、不要になった大量のダイナマイトや火薬をどうしたと思う?製造所の閉鎖と共に地中深くに埋めたんだよ。だいぶ深い場所に埋められたようなので、そこに届く威力の爆弾を作るのに苦労はしたがな」


 この男はなんて悍ましいことを考えつくのだろうと2人は戦慄した。レインメーカーは変装の達人でもある。建設工事中に作業員に成りすまして現場に入るのは容易。そこで建物の基盤作りのための地下掘削が行われていた際に、強力な小型爆弾を広い範囲に合計10数個仕掛けたという。

 しかし、それなら滋賀県の安土山にある総本部に関しては地中に何も埋められていない。同じ要領では壊滅的なダメージは与えられないはず。


「総本部のあの超高層要塞、何メートルあるか知っているか?813mだ…それを支えるために地下200mほどの深さにまで約100本以上の耐震用のピラーが打ち込まれている。その内の9本くらい….私が計算した場所をピンポイントで破壊すれば、震度7規模の地震が起きた時と同様の衝撃を与えることが出来る。9箇所のピラーに直接仕掛けなければならなかった為、少し手間取ったよ…フフッ」


 現存する建築物で震度7の衝撃に耐えうるものなど存在しない。ましてや振動による衝撃をフレキシブルに逃すための耐震用ピラー。それを破壊して起きた衝撃なら尚更だ。レインメーカーの予言通り、爆破を阻止しなければ確実に2つの本部は壊滅する。しかし、京極にはまだ1つ合点がいかない部分があった。


「お前、3日以内に壊滅するって言ったよな?そんな前に仕掛けた爆弾なら時限式じゃないはず。何故、3日以内なんだ」


「それは勿論、私がここから出るのが3日以内だからだ」


 京極の口角が上がった。裏を返せば、獄内では起爆が出来ないということだ。設置してからだいぶ月日が過ぎている。起爆方法はリモート式しか考えられない。しかし、それならば首相官邸にて追い詰められた時点ですぐに起爆しても問題なかったはず。わざわざ逮捕後に3日以内という予言を残して、すぐにそれをしなかったのは手元に起爆装置がなかったからに他ならない。脱獄できる算段があったのか、今このように交渉で出るつもりをしていたのかは分からないが、京極はレインメーカーの証言で確信した。


「お前はここから絶対に出さん。海外への移住は全ての爆弾の解除および撤去が済んでからだ」


「構わない。そう急ぐことでもないしな」


 ここを出なければ起爆出来ないはず、という読みに対して、微塵の焦りも感じさせない余裕ぶった態度。やはり脱獄できる何かしらの計画があるのだろうかと京極は思考を巡らせた。


「真希。ひとまず俺は一旦席を外してSECONDの梅津長官にこのことを話す。そして今日から爆弾の撤去が終わるまで、ここでこの男の監視に当たる」


「え、ええ、それは構わないけれど…総本部のほうには連絡は入れないの?」


 まだ本部壊滅の話の真偽が定かでない以上、余計な混乱は避けたいということで、ひとまずはSECOND本部の爆弾の探索を優先し、爆弾が発見されるか、もしくは3日後の最終日までは総本部への連絡は控えておくつもりのようだった。これは両本部とも同時に人員を避難させてしまうと、JACKALの運営が完全停止してしまうからである。この3日の間に大きなテロや犯罪が起きた際に対処できるよう、総本部にはギリギリまで通常運行してもらう意図が含まれていた。


 京極は面会室を出て梅津に電話をかけた。その後、SECOND本部では建設工事に関わった業者と共に爆弾探索班を編成し、掘削工事を行ないながら爆弾の探索を始めることとなった。また、本部に居住している非戦闘員をまずは避難させることが決定し、技術開発局や情報局などの職員は本部から退避。これにより、SECONDの運営はほぼ停止した。


 翌日も京極はレインメーカーの面会に現れ、爆弾の詳細な位置や解除方法を問い詰め続けたが、進展は得られなかった。掘削工事は、誘爆を避けるため爆発物処理班による探知器を使用した探知を行いながら掘り進める地道な作業となり、こちらも思いのほか時間が掛かった。

 そして更に翌日ーー京極は総本部に連絡をとり、神戸市の南京中華街にあるレインメーカーの店に爆弾の起爆装置のような物がないか捜索を依頼したーーどこに仕掛けられた爆弾かは伏せたままで。

 だが、結局レインメーカーの店でも何も見つけることはできなかった。掘削工事の方でも発見はなく、レインメーカーも依然として口を割らない。このまま予言の最終日を迎えるかと思われたその日の夜ーー異変は起きた。

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