Chapter.02 ーVISITORー
個人的に好きなキャラは京極です
(初期のキャラ設定ではもっとクールで女好きのお兄さんだったんです)←女好きは変わらんっていう
長官からの手紙に何か思うところがあったのか、嵐は煙草を吸い終えるとTシャツとジーンズに着替えブラックレザーのライダースジャケットを羽織って部屋を出て行った。駐車スペースに停めてあった自身の車ーー黒のシビッククーペに乗り込み本部を出て、そのまま東京都江東区のお台場の埠頭にやって来た。
車を降りてしばらく歩いていると、ここは嫌でも昔のことを思い返してしまう。未熟だった自身への後悔と自責の念。
4年前ーー2023年8月
この年、音楽業界を震撼させた事件がある。お台場で開催された野外フェスに出演するアーティストの暗殺予告事件である。ビルボードを賑わす海外の大物アーティストも出演するこのフェスで、計8組の誰が狙われるか分からないという予測不能な暗殺予告に、万全を期すため警視庁はJACKALに協力を依頼した。巨大な"箱"を警備するために50名以上の警官を動員し、対・暗殺者にはJACKALのエージェント3名を配置した。フェスの開場時からそれぞれ客席と舞台袖とバックステージに待機して襲撃に備えていたが、4組目のあるアーティストの歌唱中、突如として舞台袖から乱入してきた男が銃を発砲した。しかし、異変に勘付いたJACKALのエージェントもすぐに発砲し応戦したが、あろうことか暗殺者の弾ではなくエージェントの放った銃弾がアーティストの胸を撃ち抜いたのである。
ステージで起きた惨劇に会場は大混乱に包まれた。混乱の最中、逃亡した東南アジア系の男は間も無く警官に取り押さえられたが、エージェントの誤射によって倒れたアーティストはその後すぐに病院に搬送されたものの、間も無く死亡した。アーティストの名前は時代葵。"blUe."という名義で韓国でも活動していた当時、国内で人気絶頂のアーティストであった。
足を止め、燃えるように紅く染まった東京湾を眺めながら煙草に火をつける。潮風に舞い散る紫煙を見上げると、ふと言葉が口から漏れた。
「……また、会えるから…か…」
犯した過ちは消えない。目を背けたくなるような現実でも前を見て歩いていかなければならない。半年ほど精神を病んだ時期もあったが、彼は再びJACKALへと戻ってきた。二度と同じ過ちを繰り返さないために。
感傷に浸るのを止め、煙草を携帯灰皿に片付けて車へと戻ろうとしたその時だった。嵐は咄嗟に右側に飛び退いた。と同時に彼がいた道のタイルが弾痕によって抉れていた。
(狙撃…!?)
すぐに銃を構えて周囲を警戒するが目視できる範囲にスナイパーの姿は確認できなかった。遮蔽物のないこの場所では圧倒的に不利と判断した嵐は一気に駐車スペースまで駆け出した。駐車スペースまではおよそ800mほどある。走り出してからも狙撃が続いている。僅かなところで交わしてはいるが、いつ命中してもおかしくない。もしかするとわざと外して弄ばれているのかもしれない。そんなことを考えながら走っていると物陰で急に腕を掴まれ引き寄せられた。
(しまっ…ここにも敵が!?)
走ることに集中していたせいで回避が間に合わない。攻撃を受ける覚悟を決め、引き寄せた者の顔を睨みつけるとーー
「おまっ!京極!?焦らせんじゃねーよ!」
「お前が本部から出て行くのが見えてな。女に気をつけろってフレーズでお前が行くとしたらここだと思ってな。で、誰に狙われている?」
「知るかよ!遠距離射撃から絶賛逃亡中だったからな」
「なるほど。部が悪いと判断して逃走してた訳か。スナイパーを見つけ出して仕留めたいところだが今は無理…か。こっちだ」
京極が進んでいく先に追従していくと、歩道のど真ん中に駐車してある京極の車が見えた。
「アンタ、道交法は問答無用で無視するよな…」
車内に乗り込んだ2人だったが、京極があることに気がついた。
「オイ…お前……それ、撃たれてない…か?」
京極が指差した先は嵐の左胸だった。たしかに白いTシャツに紅いシミが広がっている。
「え…ほ、ほんと…だ……って、これTシャツのプリントだろ!デザイン!プリントと血痕の違いくらい暗殺者だったら見りゃわかんだろ!それに胸撃たれてケロッとしてる訳ねーし」
「んだよ、紛らわしい」
正体不明のスナイパーから逃げ切った2人はひとまず発車させお台場を後にした。なぜあの場所にスナイパーがいたのか、無差別なのか嵐を狙って撃ってきたのか、もし嵐を狙っていたとしたら何故あの場所に来ることがわかったのかーーなどと車内で議論しながら本部に戻ったが、結局思い当たる動機も人物も結論は出なかった。
「今夜0時、お前の車も回収しなきゃならんし、もう一度襲撃を受けた場所に行くぞ。おそらく弾は回収されているだろうが、弾痕から弾道を導き出して狙撃位置を割り出すぞ。そこに何か残っているかもしれん。あの狙撃の腕ならそんなヘマはしないだろうがな」
「了解。俺をあんなに走らせた野郎は必ず見つけ出してズタボロにしてやる」
2人は約束の時間まで休むことにし、部屋へと戻っていった。
その頃ーー都内某所のカフェで、プリムハットを目深にかぶり全身黒ずくめの怪しげな褐色肌の男と、ミルクティー色のボブに襟足をピンク色に染めた露出度の高い派手な装いの女が、場違いな空気を漂わせお茶をしていた。
「なあなあ、これ見てごらんよお。あいつ、必死で走ってやんの。可笑しすぎて全然弾が当たらなかったんだよねえ」
男は携帯電話で撮影した動画を女に見せて嬉々としているが、女は全く興味がなさそうにアイスオレにささったストローを口にした。
「へえ。で、こいつ何なの?」
「クフフ、相変わらずの塩対応だねえ〜。アレだよ、例のターゲット。偶然見つけちゃってさ。君が探してる男だよ〜」
女は改めて目を凝らして動画を見つめるが、ターゲットと言われた男は遠すぎてほとんど顔がわからなかった。呆れて大きなため息を漏らし、アイスオレを飲み干すと立ち上がった。
「遠すぎてぜんっぜんわっかんないし。アンタに期待した私がバカだったわ。1人で殺るからアンタもういいわ。じゃね」
勢いよく罵られた男は呆然としながら女が店から出て行くのを見送った。数刻考え込むような素振りをして男は理解したのか、突然大笑いしだした。
「ヒャハハハッ!オレ、フラれちゃったぁ!?いいぜいいぜ、やれるもんならやってみな。しばらく静観させてもらうからよぉ…」
視線を落とし男はあることに気がついた。
「…….ってオレの奢りかよ〜!ちゃっかりしてるんだからもお〜」
フルートくらいの大きさが入りそうな横長のケースを肩に掛け、伝票を手に取り男は支払いを済ませて店を出た。
(さてさて、次の手を打っておきますか……)
0時16分 お台場ーー
嵐と京極は昼間、狙撃を受けた現場で数カ所の道の抉れたタイルを見て回っていた。京極の予想通り弾は1つも残っていなかったが、抉れた角度から狙撃ポイントの方角と高度くらいは割り出せるからだ。
「どれも同じ角度だな…スナイパーは1人。北東の方か。建物の3階くらいの高さから放たれてるな」
「北東で3階くらいってことは、ここらへんから最初にぶち当たる建物……あれか…ダイバーシティの立体駐車場。行ってみようぜ」
2人はダイバーシティの立体駐車場に侵入し、3階を歩き回って狙撃出来そうな場所を探した。それらしき場所は見つけたが、やはり何の痕跡も残っていなかった。それは不自然なほどにチリ一つ落ちておらず、ここに居たであろうスナイパーのソツのなさを物語っていた。
「仕事キッチリってか。ご丁寧なことで」
「予想はしていたが、ここらで手詰まりだな。やはりプロの仕業か…この痕跡を残さない徹底ぶりからすると、無差別というよりは計画的にお前を狙ってここに来たってことだろうが…本当に心当たりはないのか?」
「ねーよ。暗殺者を暗殺しようなんていい度胸してるぜ。次狙われたら必ずとっ捕まえて動機を吐かせてやる」
結局、誰が何の目的で嵐を狙ったのかまでは掴めず、今日のところは引き上げとしたその時だった。ダイバーシティの営業時間は終了しており、駐車場も閉まっていて出庫できない。見回りの警備員なども含めもう誰もいないはずだが、駐車場内に響く微かなピンヒールの足音。しかも近づいてきている。2人はすぐに警戒して柱の陰に屈んで身を潜ませた。
(敵…?いや、思い過ごしだといいが…ひとまずここで様子見だ)
足音は止まることなく徐々に近づいてくる。しかし聞こえてきているのは足音だけではなかった。何か、唄のようなものを口ずさんでいる。立体駐車場という建築物の特性上、その唄は反響して、コンサート会場さながらに広く響き渡っていた。美しい歌声。そして聴き覚えのあるメロディー。しかし、嵐はその歌声に言い表しようのない不安に駆られていた。その不安を悟られまいと必死に平静を装っているが、手の震えが止まらない。京極もそれに気付き、嵐の肩に手を掛けた時だった。自分の居場所を知らせるように近づいてきていた女の歌声と足音が突然止まった。
2人は警戒を強め気配を消したが、身を潜めていた柱に向けて突如として銃弾が飛び込んできた。
「チッ、気付かれたか。嵐、二手に分かれて挟み込むぞ」
「……あ、ああ…」
2人は立ち上がり二手に分かれた。立ち止まっていたヒールの足音の主も走り出し、一気に深夜の駐車場が戦場へと化す。柱から柱へと走りながら飛び交う銃弾。コンクリートの柱が銃弾によって次々と抉られていく。互いに姿を見せないよう陰から腕を伸ばしては発砲していたが、何かを確かめようと柱から飛び出して銃を構えた嵐は、相手も同じタイミングで同じことを思ったのか、正面で向き合い銃を向け合う形となった。そこにタイミングを合わせた京極が回り込んで敵の背後から銃を構え、作戦通り挟撃できる陣形に持ち込んだ。
「悪いね。お嬢さん相手に男2人で無粋なマネをして。君、こんなところで何をしているんだい?」
緊迫する状況にも関わらず、好色であるが故に京極は軽い口調で襲撃者である女に声を掛けた。しかし、女は京極のほうを見ることもなく嵐と向き合っている。一方の嵐は先ほどよりも更に動揺しているのか、異常なまでに銃を持つ手が震えていた。まるで幽霊でも見たかのようにその目は恐怖に取り憑かれ、額から冷や汗を流し青ざめている。
「あ、あ…葵…なのか…?」
「久しぶりね。元恋人の顔を忘れたの?」
(何?嵐の元カノ…?おいおい、こんなところで痴情のもつれか何かか?…いや待てよ。"女に気をつけろ"って、まさか……)
状況が状況なだけに辛うじて銃を下さずに持ち堪えてはいるが、動悸が激しく呼吸も速い嵐の様子は明らかに苦しそうであった。それに対して女は背後からも銃を向けられている不利な状況にも関わらず、傲慢な態度で言葉を続けた。
「元気そうじゃない。あんなことがあったのに、今もまだそんな物を持って仕事してるとはね。メンタルが化け物ね。尊敬するわ」
口振りからして悪意のこもった言葉であるのは明らかであったが、嵐にはもはや何の言葉も届いてはいなかった。それほどまでに酷く怯えている。アドバンテージはこちらにあるはずなのに状況は最悪。そう判断した京極は強硬策に出た。油断し切っていた女の頸椎を素早く手刀で穿ち気絶させると、一気に嵐のそばに駆け寄り胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。しかし、反応が薄い。女がいつ意識を取り戻してもおかしくない。仕方なく京極は腹部にボディブローを入れ、膝から崩れ落ちた嵐を抱えてその場を急いで離れた。車を停めていたコインパーキングに戻ってきた京極は嵐を助手席に乗せ、すぐに発車し本部へ向かった。
下手を打った女は意識を取り戻し、立ち上がって全身の埃を払うと落としていた銃を拾い上げて柱に向け全力で投げつけた。
「クソッ!!あのデカくてチャラそうなナルシスト野朗…人が罪人を甚振ってたのに邪魔しやがって!!」
可愛らしい外見からは出てきそうにもない暴言を吐きながら女は投げた銃を再び拾って、そのままその場から姿をくらませた。




