Chapter.19 ーSACRIFICEー
バッドエンドの予感、、、
ヒロインが亡くなるエンドって本当に胸糞悪いですよね。←どの口が言うてる
時代祇園。葵の妹。目の前の死んだ恋人に瓜二つの女はそう答えた。全身から力が抜け落ち、立っていられなくなった。
「シオン…そっか。どうして忘れてたんだろな…昔、聞いたことがあったはずなのにな…双子の妹がいるって」
「あんたは私の姉さんの仇なの…もう、後には引けない。だから、死んで!!」
祇園は嵐に向けて銃を構えた。お互いもう言葉は出なかった。嵐は立ち上がり両手を広げた。覚悟は決めていた。たとえ、彼女が葵でも葵でなかろうとも。愛する女の望みなら、叶えてやるのが男の務め。
「シオン…ごめん。撃ってくれ」
嵐は銃を抜こうともしない。贖罪のつもりなのだろう。しかし、そんなことで罪が許される訳ではないこともわかっている。恋人だった人の妹に嫌な役を押し付けてしまうことを申し訳なくさえ思っている。ただ、今は葵ではなく、祇園という女を愛してしまった。嵐も後には引けなかった。
「俺が死んでお前の気が済むなら、何も気に病むことはない。撃て。撃つんだ!」
祇園の頬に一筋の涙が流れた。
「どうしてよ…どうして銃を構えないのよ!!撃て…ないよ……お姉ちゃん…」
祇園は銃を下ろして天を仰いだ。目から気持ちが溢れ出ないようにするためか、やり場のない想いを嘆いてかーーもはや、彼女は戦意を喪失していた。
「やれやれぇ…そんなことだろうと思ってたぜえ〜そのための俺だもんなあ。まあ〜そのまま奴さんの注意を引き付けておけよなあ〜」
無人の球体展望室ーーそこにジラフはいた。窓の外から二人の姿がよく見える。ほくそ笑むジラフはライフルに弾を込めながらずっと2人を見ていた。
「一発だ。一発で確実に仕留めてやんよおぉぉ〜ヒャハハハッ!!」
ライフルにスコープを取り付けて覗き込む。スコープ越しに見える十字マークの中央を嵐の背中越しの左胸元にゆっくりと合わせた。
「……ほな、さいなら」
ジレンマに苦しむ祇園の姿に嵐はどう接すればいいのか分からず立ち尽くしていた。殺されてもいい覚悟はしてきた。それで贖罪になるのならば。しかし、その贖罪の機会すらも失いそうになり、どうしていいか分からないのである。今の彼女に"撃ってくれ"というのは酷だろう。そしてこう思ったーー和解出来ないだろうか、と。手を差し伸べて祇園に近づこうとしたその時だった。差し伸べられた嵐の手に視線を落とした祇園の目に、その先の展望室が目に入った。スコープのレンズに展望室の外側を妖しく照らすイルミネーションが反射している。祇園は駆け出して嵐の背後に回り込んだ。急に動き出した祇園に嵐は戸惑いながらも振り返った。そこには祇園が胸を撃たれて崩れ落ちてゆく姿がスローモーションのようにゆっくりと見えた。
「し、祇園っっっ!!!」
「おやおやあ?役に立たないどころかジャマまでしちゃうのかよお〜しょーがねえなあ〜もお」
狙いを外されたことを気に留めることもなく、鼻歌まじりに次弾を装填し始める。そんなご機嫌なジラフであったが、背後に人の気配を感じ手を止めた。
(おっかしいねえ…エレベーターは二基とも破壊して使えないはずなんだけどなあ〜)
辺りを見回すが誰もいない。あまり時間が空くと嵐の姿が捉えられなくなる。ジラフはライフルを床に置き拳銃を取り出した。
「今ここは撮影中で立ち入り禁止ですよお〜エレベーターは故障中だから大人しくしててくださあ〜い」
反応がない。一般客か関係者かは不明だが、ジラフはひとまず気配を放置して嵐の狙撃へと戻ることにした。ライフルを拾い上げ再び窓の外に向けて構えたその時、ジラフの背後から時速160km/hほどの速さで飛来する何かを感じた。咄嗟に回避しようと動いたが右肩を日本刀が貫通した。
「がっ!?な、なんじゃこりゃあああっ!!」
「よお。拾った命、お前のために大事にしてここまで来てやったぞ」
展示されている撮影で使われたセットの裏から現れたのは京極だった。今夜20時、嵐と祇園が会うなら必ずジラフが横槍を入れてくると考えていた。そして、これまで直接的に手を下そうとしてこなかったジラフならば、狙撃による暗殺を目論んでいるだろうと。狙撃ポイントに絶好の場所といえば、この球体展望室しかないと先読みし、桂川を撃退した後、昼過ぎからずっと潜伏していたのだ。しかし、桂川との交戦での無理が祟り八坂に撃たれた傷口から血が滲み出ていた。
「そのわりにはよおお〜しっかり負傷してるぢゃあねえか〜そんなんで俺を殺れんのかよおおお〜」
右を負傷しても尚、まだ余裕があるのかジラフが煽ってくる。澄ました顔をしているが、実のところ京極は大量の出血で意識を保つことで精一杯だった。
「アホか。怪我しててもお前なんざ秒殺だ。心配するな」
「きょおごくぅぅぅっ!!俺をナメてんぢゃねぇぞ!!」
負傷した右に代わり、左手で拳銃を構えるジラフであったが、京極の速さには到底及ばなかった。瞬時に両脚を撃たれて転ぶと、ゆっくりと近寄ってきた京極に首を掴まれ窓のところまで引きずっていかれた。京極は先ほどの狙撃で穴が空いた窓にジラフの頭を押し付けた。息を切らしながらも最後の力を振り絞って全力で叩きつけると、ガラスを突き破ってジラフの頭を窓の外に押し出した。血塗れの顔でジラフは恨み言を喚いているが、もはや何を言っているかわからない。京極は無視して嵐に電話をかけた。
「……はぁはぁ…嵐、殺れ」
祇園を抱きかかえながら電話に出た嵐は力の入らない右手で祇園を支え、利き手ではない左手で銃を構えた。
「失せろ」
再び愛する者に守られた情けなさ、後悔、怒り、様々な感情がごちゃ混ぜになって、一言しか絞り出せなかった。涙で滲む先にゆっくりと狙いを定めてトリガーを引いた。放たれた弾丸は吹き荒ぶ風を斬り球体展望室へと真っ直ぐ飛んでいく。そして、ジラフの眉間に直撃した。白目を剥き眉間から血飛沫を上げてジラフは項垂れた。
「俺らに喧嘩売った報いだ…クソッタレ…」
限界を迎えた京極も続いてその場に倒れ込んだ。
嵐の撃った銃声で意識を取り戻した祇園は力無き様で流れ落ちる嵐の頬に触れた。
「あ…らし……私ね…あんた…のこと……」
「もういい!黙ってろって!今、救急車呼ぶから!!」
「だめ…きい…て?…私……あんたの…こと…好き…だよ…でも…もう……会えな…い…かな…」
「っざけんなよ!!死ぬな!死んだら殺すぞ!!なあ!なあって!!」
やがて雨が降り出した。まるで空も2人の運命を嘆き悲しむかのように。
徐々に強まる雨足の中、銃声を聞いたテレビ局員が通報したのか警察が駆け付け、その後救急隊も遅れてやって来た。テレビ局社屋一帯は一時騒然となり、この騒動は日付が変わる頃まで続いた。
翌朝ーー搬送先の病院で医師の尽力の甲斐なく、嵐に見守られるなか時代 祇園は静かに息を引き取った。