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MIRAGE SONG  作者: やさぐれた中年
Revenge of Diva
18/53

Chapter.18 ーSHIONー

京都のお祭りシリーズ最後の1人が出ました。祇園をちょい無理やりシオンと呼んでます。(漢字的には読めなくはないはず)

ハードな内容のはずなんですが、なんかペラいよね。物語に厚みがねえ。まあ、ヤサ中やし仕方ないか←自虐

 青龍との激闘を終え、駅に向かい始めた嵐であったが、その戦いの爪痕は存外、深刻なものだった。青龍のパンチをガードしていた両腕がアザだらけなだけでなく、痛みの影響か握る力が上手く働かなかった。たかだか1kgほどの拳銃を持つ手が震える。この状態では狙いを定めることなど到底無理だった。


(マズイな…両手で持てば辛うじて撃てるってとこか。銃を使わない状況で済むことを祈るしかない…か)


 電車を乗り継ぎ、7か所の監視カメラの中で時間が一番遅い時間ーーつまりレインメーカーが最後に訪れた場所、スカイツリーへとやって来た嵐は、爆破が起きたスカイツリー下にある東京ソラマチへ赴いた。そこは関係者以外は侵入禁止となっており、瓦礫の撤去作業を行なう工事業者と現場の検証を行なっている警官が数名のみがいた。


「あの、すみません。防衛省の者です。鴉警部補より捜査協力の依頼を受けたのですが、ここの爆破を起こした犯人の所在など何か情報をお聞かせ願えませんか?」


「ん?鴉警部補から?そうですか、ご協力感謝します。正確なことはまだ分からないのですが、さきほど分かったことは、近辺の監視カメラを辿っていくと最後に映り込んでいたのが始発くらいの時間帯に東京駅にいたようで、捜査員の多くは今、そちらに向かっています」


「東京駅…わかりました。向かってみます」


 あまり遠くに行かれると今夜のお台場に間に合わなくなるなどと思いつつ、ロッカーに預けたままの銃火器の回収もあるため東京駅に向かう事にした。腕の痛みに一抹の不安を抱えながらも、万が一レインメーカーと対峙した際のイメージトレーニングを移動するタクシーの車中で繰り返した。


(JACKAL入隊後の座学訓練で爆発物の処理に関してレインメーカーのことを聞いたが、爆発物の知識と扱いにかけては、今もなお彼に匹敵する者は現れていないと言われるほどの手練れ。そして、爆発物だけでなく白兵戦においても少林寺拳法を極めた格闘術で応戦できるという多才ぶり。いやいや、こんな奴にこんな痺れた手でどう立ち向かうっていうんだよ…無謀だよな。やっぱ他のエージェントに任せた方が……)


 しかし、そんな心配は杞憂に終わることを嵐は知る由もなかった。

 レインメーカーは右京と電話で話していた時点ですでにJACKAL本部に潜伏していた。右京が契約を反故にすると予想していたのだろう。右京が焦って全エージェントに指名手配の指令を出す頃には、準備は全て完了していたのである。


 右京のデスクにある電話が鳴った。早速エージェントの誰かが李を仕留めたのかと期待しながらすぐ受話器を取った。


"お前の牙城は完全に掌握した。ボタンひとつでお前ごと木っ端微塵だ。最終確認をする。報酬をよこすか?"


「っ!?リー!貴様か!バ、バカな!まだそんなに時間が経ってもいないのに、そんなこと出来る訳ないだろ!嘘を吐くな!!」


"お前が契約を守らないと予測していた。だから、早めに仕掛けておいた。嘘だと思うなら、1つ下の階のトイレのタンクを調べてみるといい"


 まさかのチェックメイト宣言に右京は青ざめた。もし嘘でなかった場合、確実に死ぬ。戦慄のあまり答えることが出来ない。レインメーカーに約束した報酬は5,000万ドルと爆破犯を別の人間に当てがって処理し、警察の追求を逃れさせること。計画のスムーズな成功のためとはいえ、簡単に決断できる内容ではなかったが、生命を握られている以上、もはや諦めるしかなかった。


「わ、わかった…要求を呑む。だから、仕掛けた爆弾は持って帰ってくれ」


"報酬を受け取ったら改めて回収に来る。一度断った分のペナルティとして2割増の6,000万ドルだ。3日以内だ。4日目の日付が変わった時点で報酬の確認が出来なければ爆破する"


 脅迫の電話が切れ、右京のストレスは限界を迎えたのか、思いきりデスクを殴った。


「どうなっているんだ、クソッ!!桂川も失敗、李は法外な要求で脅迫、どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!」


 そして思い出したかのように階下に降りてトイレのタンクを調べた。


(ある…本当にあるじゃないか。クソッ!警備は一体何をしていたんだ!!)


 右京は携帯電話を手に取り、警察に電話をかけた。本部内に爆弾が仕掛けられていることを伝え、至急処理班を寄越すよう要求した。


(爆弾さえ取り除けば、李に従う道理もない。余裕ぶって猶予を持たせるべきではなかったな。フフ…バカめ)


 1時間後ーー10名ほどの爆発物処理班が到着し、センサーを使って本部内を一斉調査し始めた。そして、右京に一番被害をもたらすと思われる本庁舎の執務室の階下にあるトイレにも隊員を呼び、確認させた。タンクの蓋を開けてティッシュケースほどの大きさの物体を取り出した。外箱を外すなどして隈なく調べて隊員は一言、渋そうな顔で答えた。


「これは…かなりマズイですね」


「な、何がマズイんだ!?」


「これを作った人間はプロ中のプロですね。構造が複雑すぎる上に、きっとかなりの威力があります。そして、もしこの爆弾を解除できたとしても、解除した途端に他の爆弾が連動して起爆するように作られています。いくつ仕掛けられているかはわかりませんが、おそらく仕掛けられている爆弾すべてが同じ構造だと思うので、同時に全ての爆弾を解除するか、制作者が持っていると思われる大元の解除装置で解除しなければ、止めることは出来ないでしょう…」


 説明を聞いて右京は呆然とした。血の雨を降らせる"レインメーカー"の名は伊達ではないということだった。


「で、では、無線で連携をとりつつ全員で同時に解除を…」


「すみません。コンマ1秒でも誤差があれば起爆する超精密爆弾です…我々の技術では…」


 右京は激昂して隊員を責めようかと思ったが、踏みとどまった。今ここで事を荒立てても自らの足を引っ張るだけだと。そして、解除が無理ならば、自分だけでも期日まで本部を離れれば助かると。


「わかりました。それでは仕掛けられている場所と数だけ報告ください。私は執務室におりますので」


 しおらしく隊員に礼を述べて右京は執務室に戻った。必要なものだけを鞄に詰めて避難の準備を進めていると、デスクの電話が鳴り響いた。


"自分だけ逃げる魂胆か。一つだけ忠告しておいてやる。お前が本部のゲートを抜けた瞬間、地上のゲートが爆発して生き埋めになるぞ。まあ好きにすればいい"


 ことごとく行動を読まれている。右京は受話器をデスクに投げつけた。


「クソッ!クソッ!!クソったれぇ!!」


 まるで駄々をこねる子供のように足をドタドタと床に叩きつけ、悔しがる右京。もはや逃げることも許されない。報酬の件は諦めて、せめて計画だけは絶対に成功させないと割に合わない。そう決断を下した右京は麒麟に連絡を取った。


 それぞれが己が目的のため準備を整えていく。そして、日が沈み夜の帳が下りた。





 お台場テレビ局社屋 屋上ーー19時48分

 四角形の建物二棟の間に走る格子状の通路と、その通路の間に組み込まれた怪しく照らされた球体の展望室。これらがまとまって1つの建築物として成り立っている他に類を見ないデザインの社屋ーーその屋上に彼女は立っていた。屋内では今も報道番組やバラエティー番組の撮影が行われている。この日は高気圧の影響により太平洋沖で発生した台風の接近で湿った風が吹き荒れていた。激しく靡く髪を手で押さえながら、精神統一しているのか目を閉じてじっと立っている彼女の前に嵐は現れた。


「よお。……無事でよかった」


 時代葵はゆっくりと目を開け冷たい視線を嵐に向けた。


「……来たのね」


 まるで来るのを望んでいなかったかのような悲しげな目をして彼女は一言答え、深く深呼吸をした。その様子を嵐は黙って見守った。無言の時間が流れる。

 覚悟が決まったのか彼女は火の灯った目で真っ直ぐ前を見た。


「あんたを…殺す!」


 やはり避けられないのかと嵐は視線を落とした。


「1つ教えてほしい。葵……なのか?」


 嵐はついに核心に触れた。その答えを聞いて再び絶望を受け入れる勇気がなかった。しかし、今ここで命を落とすかもしれない。最期にそれだけは知っておきたかった。


「私……私は…あんたに殺された時代葵よ!!」


「ならどうして生きてるんだよ!!誰なんだよ!!教えてくれよ……」


 嵐は苦悶の表情を浮かべながら涙を流している。愛する人を失った悲しみ。愛する人を撃ってしまった苦しみ。この4年間は苦悩の日々であった。手の届かなくなった恋人が4年の月日を経て現れた。それだけで嵐は救われていた。それを知ってしまったからこそ、彼女も迷いが生じていた。


「祇園……私は時代祇園(しおん)!!葵は私の姉さん!!あんたに殺された時代葵の妹よ!!」

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