Chapter.17 ーINVINCIBLEー
最近悟りました。人気がある作品はだいたい異世界ものか、恋愛もの。
やっぱ主人公以外を全員、美少女にしてハーレム化させたほうが読んでても楽しいですよね、たぶん。知らんけど
京極がもし美少女なら、だいぶヤバめのビッチになってしまうので、それはちょっと、、、アリかも?
京極が首都高で桂川に襲撃を受けていた頃ーー鴉たち捜査一課は都内の爆破事件について各所で聞き込みを行なっていた。しかし、深夜2時〜4時時という時間帯で目撃情報などある訳もなく、捜査は難航を極めていた。
「ああ、もう!監視カメラに映っていたっていうのに、目撃証言がなければこれ以上手掛かりなんて見つけようがないじゃない。やっぱり私たち警察の足止めが狙いなのかしら…」
「どうですかね…ランドマークばかり狙われていますし、リア充を恨んだ陰キャの犯行ってことも…」
部下の的外れな意見に深くため息を漏らして鴉は携帯電話を取り出した。
"もしもし…?"
「嵐君?鴉だけれど…今話せる?」
"真希さん?はい、大丈夫です"
鴉は昨夜未明に起きた同時多発爆破事件のことを話し、冤罪についての捜査が全く進められない状況であることを謝罪した。
"そんな事件が…わざわざありがとうございます。犯人が捕まるまでは次の爆破が起きないとも限らないですし、とりあえず俺のことは大丈夫なので、真希さんはその爆破犯の捜査に集中してもらって…"
「本当にごめんなさい。京とも連絡が取れていなくて…右京や麒麟の動向もわからないの。私はこれら全てが右京の妨害工作だと思っているのだけれど…放置は出来ないし、貴方が今夜20時に時代さんと会う時も何かしら右京からの横槍が入るかもしれない。くれぐれも気をつけて頂戴」
電話を切り、嵐はひとまず京極に連絡をとってみた。しかし、繋がらない。電波の届かない場所にいるか電源が入っていないーー例のアナウンスが流れるばかりだった。充電切れということもないだろう。何かあったのかもしれない。確認を取る術がない以上、助太刀に行くことも叶わない。今は京極を信じて任せる他、嵐にできることはなかった。
(真希さんは爆破犯の捜査、京極はジラフを追っている。あと残っている不安要素があるとすれば…京極の話ではビースツは5人。ジラフを除けば残り1人…青龍。ビースツが過去一度だけ出動した時に裏切者のエージェントを捕らえたのが青龍だという。ビースツの中でも屈指の実力者…)
今夜20時、時代葵と決着をつける場所に乱入でもされれば混戦は免れない。それならば逆にこちらから攻めて、邪魔者を先に片付けておいた方がいいかもしれない。外にいればあちらから見つけてくれるだろうーーそう結論を出した嵐は、荷物をまとめてホテルをチェックアウトした。
その頃ーー都内7ヶ所同時爆破事件のことを知った右京は執務室で1人、激昂していた。
(あの中国人、私をナメているのか!!多くのランドマークでの爆破を依頼したが、深夜4時にテロを起こす馬鹿がどこにいるんだよ!!負傷者ゼロ?意図が伝わっていないのか、頭が悪いのか!!おのれ!レインメーカー!!)
抑えきれない怒りをそのままにデスクの電話を取り、レインメーカーに連絡を取った。
"なんだ?仕事は済んだだろ。報酬のことならメールで…"
「おいおいおい、ふざけるなよ。報酬?出す訳がないだろう。深夜4時に負傷者ゼロのテロって誰得なんだ、ええっ?!言っただろ?警視庁の人員の大多数を引っ張るためのデコイが必要で、その為の爆破依頼だと」
"ああ、だから全く同じ時刻に同時に爆破して、尚且つ監視カメラに映り込むことでヒントを与えつつ警察の捜査を翻弄している。今現在、警視庁の刑事部30名ほどが捜査に駆り出されている。被害者が出ればいいってものでもないだろ。デコイとしての役目は十分に果たしたつもりだが?"
これは単に右京がイメージしていた作戦の遂行の仕方にすれ違いがあっただけで、レインメーカーの指摘通り右京の望む結果は出ている。あまりにも正論すぎて右京からはぐうの音も出なかった。
「そ、それでも…報酬は出せない。大量の被害者も出して、消防と救急がパンクするほどの混沌を起こしてほしかったのだからな」
"そうか。それならば、最初にそう伝えるべきだったな。では、契約不履行ということで…我会杀了你!"
暗殺者を引退してから無気力な中華飯店の店主といった雰囲気を醸し出していたレインメーカーであったが、最後の一言だけは現役時代の殺気と冷血さに満ちた母国語を発して、電話は切れた。
(待て待て…私を殺すだと?殺すと言ったよな…マズイ。アイツを敵に回したら、間違いなくここを爆破される!もう一度電話せねば!!)
右京は慌ててレインメーカーに電話を掛けるが繋がらない。報復されるーーそう確信した右京は至急、エージェント全員に指令を出した。
"上海の伝説的暗殺者、レインメーカーこと李 鷲烙の生存を確認。現在、都内に潜伏しており、昨夜未明に起きた7ヶ所同時爆破事件もレインメーカーの仕業によるものと断定。至急、捜索し発見次第、これを処断することを厳命する"
この通達と共に、情報局が入手した監視カメラのレインメーカーと思しき人物が映り込んでいる映像も添付され一斉送信された。当然のことながら、この通達は宿泊していたホテル付近のマックで朝食をとっていた嵐の元にも届いた。
(レインメーカー?それって9年前にJACKALのエージェントに消されたはずじゃ…右京からこの通達が来たってことは、右京は無関係なのか?真希さんの言っていた爆破事件ってこのことだよな…?さすがに放置はできないか…)
青龍のことも気になるが、ひとまず嵐は爆破が起きた7ヶ所を当たってみることにした。マフィンを口に放り込みカフェオレで流し込むとジャケットを掴んで店を出た。駅に向かって歩いていると、殺気のような視線を向けられていることに気付き周囲を見回す。
(気のせい…か?)
再び歩き出そうと前を向くと目の前にツーブロックのシチサンに眼鏡をかけたスリーピースのスーツを着た男が立っていた。
「嵐君だね?少しいいだろうか?」
(全く気配がしなかった…ビースツか?何故ここが…)
「あんた誰だよ。ここじゃ話せない内容なのか?」
男は眼鏡のブリッジを中指でくいっと正しい位置に戻し、鋭い眼光を覗かせて言葉を続けた。
「いや失礼。俺はJACKAL内部監査部BEAST'sの青龍という者だ。とある筋から情報を得て、君を生け捕りにしにここまで来たのだが、周囲の目もある。爆破事件を起こしたレインメーカーが都内を徘徊しているかもしれない現状。内輪揉めごときであまり騒ぎを大きくしたくない。人気のない場所までご同行願えないか?」
(やはり青龍か。しかし、これまでの奴らと違って冷静だな。ここでの戦闘は…たしかに一理あるか)
嵐は青龍の提案に従い、彼の後をついくことにした。無言のまましばらく歩いて細い路地に入って進んだ先にビルに囲まれた6坪ほどの更地があった。
「ここでいいだろう。ここまで来て何だが、大人しく捕らえられる気はないよな?」
「当たり前だろ。俺は無実だからな」
「了解だ。では、強引に連れていくとしよう」
青龍は腰に挿していた2丁の拳銃を抜き取って前に突き出し構えた。嵐も同じタイミングで銃を構えた。しばらくの膠着状態。先に仕掛けたのは青龍だった。右の銃から弾が放たれた。それを交わすように嵐は左に回避行動を取りながら発砲する。その弾道に合わせるかのように青龍は左の銃で発砲した。放たれた銃弾は嵐の弾の進行方向と寸分違わぬ位置で真正面から先端部にぶつかり、完全に相殺された互いの弾はひしゃげてその場に落ちた。
(こ、こいつ…あの状況で正確に弾の中心に当てたっていうのか…)
神業とも思われる精密射撃。スナイパーのようにライフルのスコープを覗いて照準を定めるでもなく、片手銃を己の感覚だけで狙い撃つことの出来る熟練度はおそらく世界でも五指に入るほどの腕前。たった数秒の戦闘で青龍の実力に嵐は早くも戦慄していた。
「俺の2丁の拳銃は攻撃と防御、それぞれを担うことができる。銃が1つしかない君では攻撃は永久に当たらないだろうな。降参するなら受け入れるが?」
「笑わせるなよ…永久に当たらない?じゃあ当ててやるよ。後悔すんなよ!!」
虚勢を張るものの、青龍の言った通り普通に撃ち合っていては嵐に勝ち目はない。銃弾を真っ向からぶつけてくる"相殺防御"を破る勝ち筋を頭の中で必死に巡らせるが青龍はそれを待つ気はなかった。次と次と放たれる弾丸に嵐は回避に専念することを余儀なくされ、考える時間を与えてくれない。幸い、嵐は身体能力が高いため直撃は避けられているが、このままの状況が続けばジリ貧に追い込まれるのは目に見えている。
「だぁー!クソッ!ちょっと待てよな!!」
ヤケになって苦し紛れに撃った嵐の弾は全くの的外れな明後日の方向に飛んでいく。追い込まれ無様を晒した嵐に青龍はため息を漏らして肩をすくめた。しかし、その青龍の眼鏡のフレームのすぐ下の頬を軽く弾が掠め、薄っすらと血が滲んだ。
「……なに…?」
青龍も一瞬、何が起きたのかわからなかった。嵐は的外れな1発しか撃っていない。その弾が青龍の頬へと方向転換したとでもいうのだろうか。答えは簡単だったーー嵐の撃った弾は偶然、ビルの壁に当たって跳弾した。その向かった先に運良く青龍がいたというだけのことだった。親指で傷口の血を拭い、青龍は少し考え答えに辿り着いた。
「なるほど。君は悪運が強いらしい。だが、二度目はない」
(いや、これなら当てられる…!)
嵐もカラクリに気付き、攻撃を交わしつつ抵抗を始めた。しかし、青龍の言った通り命中することはなかった。だが、それは弾道を計算して避けているからであって、先ほどのような相殺防御ではなかった。弾道を計算するという手間が1つ増えた分、青龍の行動には制約が1つ加わり、相殺する余裕がなくなったのだ。正面から迫る弾道ならば相殺できるとはいえ、誰にでも簡単に出来る芸当ではない。それなりの集中力が必要とされる以上、1つの手間が増えるということは、その分のロスが生じる。余裕がなくなるのも無理はない話であった。
「どうしたどうした!相殺しねぇのかよ!」
「くっ、面倒な。だが…っ!」
青龍は相殺に使っていた左の銃を攻撃に転用し、2丁で乱射してきた。しかし、嵐はその時を待っていたかのようにニヤリと口角を上げた。跳弾を上手く使いつつ飛び交う銃弾を避けながら一気に距離を詰めて青龍の懐に入り込んだ。
「なっ!クソッ!!」
後退りする青龍に目掛けて、嵐は渾身のアッパーカットを放ち、その拳は青龍の顎を見事に捉え穿った。眼鏡が弾け飛ぶのと同時に青龍の身体は宙を舞い、弧を描いて後方へと倒れた。
「っしゃあぁぁぁっ!!」
しかし、嵐も飛び交う銃弾を全て交わしきれた訳ではなかった。致命傷とは言わないが、腕や腿の身が抉られ血が滲んでいる。安堵してその場に座り込む。ポケットから煙草を取り出し、一服しようと口に咥えたが、目の前の光景にその煙草はすぐ口元からこぼれ落ちた。
「一服するには少し気が早いんじゃないか?」
座り込む嵐の目の前に、青龍が顎を摩りながら立っていた。
「お、おまっ!?」
言葉を発しようとした嵐の顔面に向けてもの凄い速さの蹴りが迫り来る。咄嗟に両腕を顔の前に構えてガードしたが、蹴りの威力に押され、のけ反って背中を強く打ち付けられた。
「さっきのは痛かったぞ。さあ、第二ラウンド開始だ。立てよ、嵐」
青龍はボクサーのように軽快なステップを踏みながら、両腕を前に構えている。嵐はすぐに立ち上がって体勢を立て直そうとするが、立ち上がってすぐに青龍の容赦ないジャブとストレートのラッシュが嵐を襲う。その一発一発が重い。ガードしている腕が赤紫色を帯びていく。防戦一方を強いられた嵐は、反撃できないまま徐々に壁際へと追い詰められていった。
「お、お前!眼鏡かけてインテリぶってたクセによぉ!実はハードパンチャーとかシャレになんねぇよ!!」
「視力が悪いだけだ。別にインテリぶっている訳ではない。実はも何も、武器でも素手でも超一流。それがJACKALのエージェントに求められる資質だ。君が三流すぎるんだよ」
青龍の言葉に嵐は引っかかる部分があった。喧嘩には並々ならぬ自信がある。それを三流呼ばわりされたことだった。殴られ続けるのもそろそろの我慢の限界にきていた嵐は、ある事に気がついた。座り込んでいた時に食らった蹴り以外は、全てパンチでの攻撃であることに。足の運び方からしても、青龍の基本的なファイトスタイルはボクシングなのだろう。ならば、下段の攻撃には慣れていないはず。打撃のラッシュに耐えながら、嵐は隙を見て青龍の脹脛にローキックを繰り出した。案の定、蹴りはクリーンヒットし青龍は少しバランスを崩して攻撃が一瞬止まった。そのチャンスを嵐は見逃さなかった。全力を込めた右ストレートを青龍の頬に叩き込む。まともに食らい吹き飛ぶように後方へと倒れ込んだ青龍に、すかさず跨って馬乗りになり、タコ殴りにし始めた。さきほどとは立場が完全に入れ替わり、青龍はガードして乱打に耐えているが、嵐はひたすら攻撃の手を止めなかった。しかし、青龍は膝を曲げて両脚を嵐の脇に入れ挟み込むと、一気に嵐を引き剥がし立ち上がらせた。嵐が離れたと同時に青龍はバク宙のように手を使わずに立ち上がり、再びファイティングポーズをとった。両者一歩も譲らない攻防に2人とも激しく息を切らしている。
「はあはあ…あんたやるじゃねぇか…」
「はあ…君もな。ここまでタフだとは思わなかった」
敵同士とはいえ、素晴らしい試合をしたスポーツマンのようにお互いに賞賛を送り合った。しかし、2人の体力は尽きかけてきていた。いい加減、決着をつけたいと考えていた嵐の目を見て、青龍は構えを解いた。
「男は"拳で語り合う"なんて青春バカみたいなことは言いたくないが…今、俺は君のような優秀な人材を裁き、消すのは組織にとっての損失だと感じている。それに、君のような単細胞が舞鶴氏を殺したとは思えなくなった。ここはドローということでどうだろうか?」
意外とも言える青龍の提案。しかし今夜、時代葵との決着を控えた嵐にとってもそれは願ってもない提案だった。
「い、いいのかよ…そりゃあ大変ありがたい申し出だけど…って、誰が単細胞だよコラ!」
「構わない。俺は自分の信じた決断に従う。君は悪事を企むような人間ではない…と思う。たとえ、ここで決着をつけたとしても、俺はもう君を本部に連行する気にはなれないからな」
安堵の息を漏らし、嵐は頷いて手を差し出した。青龍もその手を掴み、固い握手を交わした。
「ありがとな!楽しかったぜ。また機会があれば、今度はちゃんと決着つけようぜ!」
「決着か…あまり気乗りはしないが、考えておこう。嵐、最後にこれだけは伝えておく。右京さんと麒麟は狡猾だ。気をつけるといい」
狡猾ーーすでに身をもって痛感している嵐は苦笑いをしながら軽く手を挙げ、そのまま歩き去って行った。