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MIRAGE SONG  作者: やさぐれた中年
Revenge of Diva
16/52

Chapter.16 ーSHOWDOWNー

最近、車検に出して発煙筒がLEDに交換されていたことで、初めてその存在を知りました。

執筆した時は着火式の発煙筒で書いていたんですが、時代設定が2027年のちょい未来なのに、着火式て。って思い変更しました。

どうせなら未来なのでオリジナルを考えて、ホログラム式の発煙筒とかにすればよかった。←科学の無駄遣い

 深夜2時をまわった頃ーー玄関でピンヒールを乱雑に脱ぎ、廊下を抜けてリビングのソファに倒れ込むように腰を下ろしたのは、ようやく自宅に帰ってこれた鴉であった。冷蔵庫からストロングチューハイを取り出してグラスに注ぎながら、頭の中を整理していた。


(右京 仁…防衛省の防衛政策局に10年務め、JACKAL創設にも携わった官僚。舞鶴氏の死後、長官代理として赴任。長官の座を狙って今回の暗殺を命じたのは右京でほぼ間違いないでしょうね。JACKAL内部監査部を動かすことのできる権限は長官のみに与えられているらしいから、今嵐君を追っているBEAST'sと呼ばれるエージェント達も右京の差金に違いないはず。舞鶴氏の胸を撃った銃弾が嵐君の銃から発砲された物という物的証拠から、嵐君が容疑者認定された…。でも、それ以外の証拠が全くない…不自然なほどに。執務室には監視カメラがある。そのカメラは破壊されていたということで、証拠となる記録が残っておらず殺害した瞬間は誰も見ていない。もし証拠を隠し持っているとすれば、やはり右京か京を殺そうとしたジラフが濃厚よね…どうすれば……)


 メイク落としで顔を拭いながらチューハイを口に運ぶ。舞鶴暗殺の真犯人を探し出す証拠も得られず、ジラフを探すと言っていた京極からの連絡もない。有耶無耶なことばかりで、一向に真実が見えてこない状況が鴉の心労を重ねていた。八坂というキャバ嬢を使って殺そうとしていたジラフのことを調べていれば、京極に再びその魔手が迫ってくることは必至。万が一のことがあったのかもしれない。そんなネガティブな想像ばかりが鴉の思考を掻き乱す。グラスを空にして残りのチューハイを缶のまま一気に飲み干すと、立ち上がって浴室に向かった。


(明日も仕事が山積みなのだから、余計なことは考えずに疲れを洗い流してさっさと寝なきゃね…こんな時間だし、京には明日連絡をとってみようかしら)


 鴉が床に着く頃にはすでに3時を過ぎていた。ベットに入って目を閉じる。酒の力もあってか途端に意識が遠のいていき、瞬く間に眠りに落ちた。


 深夜4時半頃ーー鴉の携帯電話に着信音が鳴り響く。常にキレのある言動の鴉であるが、さすがに少ない睡眠時間を妨害されたからか、電話に出た声は常日頃のハスキーヴォイスを更に下回る低く無感情な声だった。電話の相手は捜査一課の課長からである。課長が相手といえども眠いものは眠い。ぼんやりと課長の話を聞いていたが、都内7ヶ所同時に爆破事件が起きたという内容が耳に入り、半開きだった鴉の眠気眼が一気に開いた。


「なんですって!?こんな時間に!?もう!!なんなのよ!わかりました。すぐに向かいます」


 ベッドから起き上がり、簡単に髪を整えて軽く化粧し、服を着替えてバッグを掴んで家を飛び出る。マンションの駐車場に停めてある真紅のCR-Xデルソルの助手席にバッグを放り投げて乗り込み、警視庁のある霞ヶ関へと向かった。

 会議室に到着すると、爆発現場から戻ってきた刑事たちの半数以上がすでに集合しており、北大路警視正が捜査指揮を取るためスクリーンの前で書類を確認している。


「警視正!こんな人のいない時間に…本当にテロなんですか、これは!?都内の7ヶ所で同時に爆破というのは、一体どこで起きたのです?!」


「ん?ああ、鴉か。すまんな、こんな時間に。爆破が起きたのはスカイツリー、東京タワー、明治神宮、六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、渋谷ヒカリエ、レインボーブリッジだ。どこかのミーハーな田舎者が思いつきそうな場所ばかり。だが、時間が時間なだけに不幸中の幸いとも言うべきか、爆発の規模もそこまで大きいものではなかったようで、負傷者は今のところ出ていない。何が目的なのか…」


 負傷者ゼロの同時多発テロ。いや、負傷者が出ていないことを考えればテロではない。とにかく都内の警察だけでは手が回りそうもない7ヶ所のランドマークで起きた不審な事件に、北大路も頭を抱えている。このタイミングで、そんな狙いもわからない事件が起きるものなのだろうかーー考えすぎなのかもしれないと思いつつも鴉は、このテロも右京とジラフの暗躍に関連があるような気がしてならなかった。


「みんな集まったな。そろそろ会議を始める。鴉、君も席に着きたまえ」


 30数名の刑事たちが全員席に着くと、爆発が起きた現場の鎮火後の様子を収めた写真が前面の巨大スクリーンに映し出された。爆破に使用された爆弾の破片のようなものが写っている。次に付近の監視カメラが捉えた静止画が映し出され、そこには黒のパーカーに黒のカーゴパンツを履き、パーカーのフードを目深にかぶった男がキャリーケースを引きずりながら去って行こうとする姿が時間差はあるものの、すべての場所で映っていた。


「使用された爆発物はいずれもプラスティック爆弾であると思われる。爆心地付近に飛散していた破片から見て、海外で出回っているような既製品ではなく、ハンドメイドの小型で簡易的なもののようだ。次に、この爆弾を仕掛けたと思われる人物。午前2時から3時半の間で爆発の起きた7ヶ所すべての監視カメラに人影が映り込んでおり、骨格、挙動の癖などをベースに認証AIに判定させたところ、同一人物であることが判明した。身長は165cm程度で広めの肩幅、体格はしっかりしており男性と思われる。そして、午前4時に同時に爆発が起きた。以上のことから犯人は遠隔操作による起爆を行なったものと推測され、プロ並みの爆発物の知識を持っている人物だろう」


 鴉は考え込んでいた。プロ並みの爆発物の知識がありながら、なぜ極めて人の少ない時間帯にこのような爆破を行なったのか。今手元にある情報だけでは目的が皆目見当もつかない。意味もなくランドマークとなる場所で同時に7ヶ所で爆破を行なったからには、何かしら警告などの意図があるはず。


「ひとまず、今はここにいる総員で爆破を行なった犯人の捜索!周辺での聞き込み捜査は明朝より開始とする。以上!」


 北大路警視正の言葉に鴉はハッとした。仮にこの爆破事件に右京が絡んでいるとしたら、警察はこの事件に人手を割かれる。長官暗殺の証拠も見つかっていない今、嵐を捕らえ京極を葬ろうとしている右京からすれば、警察の妨害を受けずにスムーズに事が進められるのではーーと。


(ただ、爆破犯と右京の関係性が全くわからないわね…映像を見る限り爆破犯はジラフではないでしょうし。爆破犯の男を捕まえて、目的を吐かせることができれば、その関係性も浮き彫りになるかもだけれど…)



 鴉を含めた警視庁の刑事たちが爆破犯の捜査を開始した数時間後、陽が昇り朝を迎えた。前日にJACKAL本部で右京とジラフに迫ったものの、挑発だけされて終わった京極は、そのまま自宅で仮眠をとった後に愛車で本部を出て東京に向かって首都高を走っていた。


(嵐が葵ちゃんと会うのは今夜20時…右京や麒麟は間違いなく何か手を打っているはず。残り12時間で何とか尻尾を掴まなければ…)


 考え事をしながら追越車線を時速180km/hで走行していると背後の登板車線から物凄い速さで加速してくる二輪車がルームミラー越しに見えた。


(GSX1100S…カタナか。しかも黒。いいバイク乗ってやがる)


 スピード狂の京極にとって、国産バイクの最高峰と名高いカタナを見て、テンションが上がらない訳がない。熱い眼差しを送りながら運転していると、登板車線から一気に横切って京極のS15の真後ろにやって来た。


「おいおい、煽ってるのか?悪目立ちする車ではあるが二輪から喧嘩を売られるのは初めてだ。楽しませてくれるじゃねーか!!」


 京極はアクセルを更に踏み込み、回転数を一気にレッドゾーンぎりぎりまで上げて加速させた。しかし、カタナは引き離されるどころか、全く変わらないポジションで背後にくっついてきている。ただの煽りにしては少し様子が変だと気付いた時には遅かった。ライダーは左手で銃を取り出していきなり発砲してきたのだ。幸い、外れはしたものの他にも大勢の車が走行しており、高速道路で万が一当たりでもしたら大惨事になる。


「近頃、人気者で困るぜ…美鈴の闇討ちデートの次は謎のライダーとランデブーか。だが俺は男には容赦しないからな」


 京極はエンブレを効かせてからブレーキを強く踏み込み急ブレーキを掛けた。猛スピードで走行していたのだ。"車は急には止まれない"ーーS15は白煙を巻き上げながら、滑走していく。しかし効果は抜群だった。S15の急な減速にライダーは僅かにブレーキが間に合わずテールに衝突してバランスを崩して横転した。


「煽り運転は道交法で禁止されてるんだぞ。気をつけることだな」


 ライダーは勢いで4〜5回ほど横転した後、地面に伏したまま動かなくなった。ようやく停止したS15から降り、他の車を巻き込まないためにLED発煙筒を点灯してS15のルーフに固定した。周囲を警戒しながら敵の正体を探ろうと京極は銃を構えながらライダーに近付くと、急に起き上がってフルフェイスのヘルメットを脱いだ。


「ふう〜。いや〜ビビったビビった。さすがに痛かったぜ」


 メットを取ったライダーは金髪の坊主頭の右側に3本ラインの筋彫りが入っており、左の額にはトライバルのタトゥーが刻まれている。眉毛はなく、眉尻あたりの部分と下唇の真下に玉のピアス。両耳にはリング状のピアスが計9つ。なかなか気合の入った容姿の男だった。


「やれやれ…世紀末に"ヒャッハーッ!"とか言って跋扈する野盗みたいな風体だな。そんなナリで出歩いてたら経絡秘孔を突かれて破裂するぞ。ていうか普通、全身打撲だろ、あの転び方。どうしてそんなにピンピンしてるんだよ…お前さん、何者だ?」


 京極は目を細めながら問いかけた。男はライダースーツの上半身を脱いだ。細マッチョな体型だが身体中に古傷のような痕がある。男は脱いだスーツを腰回りで袖を縛りながら答えた。


「誰がケンシロウにやられるモブだコラ!!俺みたいな有名人を知らねーとはお前、モグリだろ。俺ぁ元JACKALエージェント、コードネーム"桂川"だ!冥土の土産に覚えて死ね!!」


 桂川ーー京極はこの名前に聞き覚えがあった。頭の中のJACKALの記録を辿る。過去に唯一、一度だけJACKAL内部監査部が出動した事例ーーイスラム系強硬派テロ組織アルカイダと繋がっていたという国賊と呼ばれたエージェント。そう、それが確か桂川というコードネームだったはず。

 桂川は倒れたGSX110Sカタナに懸架させていた日本刀を抜き取り、迫って来た。それを見た京極は逃げるようにS15の元まで戻りトランクを開いた。


「逃げんのかぁ!?最近のエージェントはヘタレかよ!!」


 しかし、京極がトランクから取り出したのは同じく日本刀だった。鞘から抜刀し、迫り来る桂川の方を向き構えた。


「おいおい!マジかよ!!お前も刀使いか!!おもしれぇ!!チャンバラだぁ!!」


 桂川は嬉々として刀を振り上げ、袈裟斬りを放つ。それに対して京極は垂直に構えて受け流した。

そのまま背後から反撃に転じた京極であったが、今度は桂川が薙ぎ払いで迫る。寸でのところで刀を縦に構えて斬撃を防いだが、力負けして京極はそのまま押し飛ばされた。


「よお。やるじゃねーか!やっぱ日本男児は侍なんだからよ〜決闘に銃とかは邪道だよな!」


「何を訳のわからないことを…お前は国賊だろ。ブタ箱で35年過ごすはずでは?」


「国が俺を必要としてるんだよ!つーか国賊だあ?俺はJACKALの為を思ってやったんだぜ?あの時代は毎日任務もなくヒマでよぉ。身体が鈍っちまわないようにエージェントたちに刺激的な毎日を送ってもらいたくて、でっかいテロを起こすはずだったんだよ?お前もわかるだろ?」


 桂川の言い分に、京極はこの男とは話にならないと判断したのか、刀を構えて攻撃を仕掛けた。無数の斬撃を繰り出すが、桂川もまたそれを全て捌いていく。首都高のど真ん中で繰り広げられる"真剣"勝負に彼らの両サイドの車線からやって来た車は皆、唖然として目を奪われながら通過していった。


「お前!名前は!!」


「京極だ!」


 互いに斬撃の応酬を繰り返しながら一歩も譲らない攻防戦。どちらかの体力が尽きるまで続くかと思われたこの攻防戦であったが、突然桂川が刀を大きく振り払い、蹴りを京極の腹に見舞った。そして、すかさず後退して桂川は距離をとった。ただ距離を取りたかっただけの蹴りだったのか、腰が入っていなかった為京極にたいしたダメージはなかった。


「どうやらこのままやっても決着がつかなさそうだな。どうだ?次の一撃で決めようじゃねぇか?」


 体力に自信がなくなったのか、勝負を楽しんでいたはずの桂川は意外な提案をしてきた。


「……いいだろう」


 済ました顔で答える京極であったが、京極もまだ傷の癒えない負傷をしている身。この提案は願ってもないことだった。


「いくぞゴラァっっ!!」


 桂川が咆哮のように合図を出すと、2人は一気に距離を詰めようと駆け出した。しかし、これは桂川の謀略だった。身体に刀身を身体に引き寄せて抜刀のような構えで駆けていく京極に向けて、桂川は姿勢を低くして駆けながら腰の後ろ側に片手を回した。


(やはりな…そんなことだろうと思ったぜ)


 桂川の動作に京極は刀を振り抜くように前方へと投げて懐のホルスターから銃を抜き取りすぐに発砲した。投擲された刀を弾くのに振り上げた動作で桂川は一歩出遅れた。直後に発砲された銃弾をまともに胸元に受け、吐血しながら力無く倒れた。勝負は刹那のうちに一枚上手であった京極に軍配が上がった。仰向けに倒れている桂川の元に歩いて来た京極は凍てつくような目で見下ろした。


「貴様のような国を裏切った奴が正々堂々と勝負するはずがないと思っていた。戦闘狂のように振る舞っていたのはブラフだろ。どこかで仕掛けてくるだろうと思っていたが、分かりやすすぎてやや拍子抜けだ。まぁBEAST'sに捕縛されたぐらいだし、やはりエージェントとしての実力は大した事なかったんだな」


「グホッ…テメェ辛辣だな…ゴホッゴホッ!…それがOBに対して最期に……か…ける言葉…かよ…」


 そう言いながら桂川は息絶えた。彼の最期を看取った京極は携帯電話を取り出して後始末を警察に頼もうとしたが、携帯電話が半分に割れていた。おそらく桂川の蹴りを食らった時に破損したのだろう。ひとまず、このまま目的の出口で首都高を降りて、どこかで電話をしようと思い、車に戻ろうと踵を返した時だった。急に激しく咽せ喀血した。


(クソ…少し張り切りすぎたか。蹴りをもらったのもあるだろうが、傷口が開いたっぽいな。しかし、桂川のような国賊をムショから引っ張り出してくる

ということは、もはや右京もなりふり構わず…といったところか。だとすれば、病院などに戻っている場合ではない…急がねば…)

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