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MIRAGE SONG  作者: やさぐれた中年
Revenge of Diva
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Chapter.01 ーJACKALー

このたびは私の作品を覗きに来て頂き、ありがとうございます。初めての投稿、というか初めての作品なので、乱文や稚拙な語彙力でお目汚しになるかもしれません。とにかく初体験なので優しくお願いします。←言い方


注:人によっては少し過激な表現と感じられる部分があるかもしれません。

 2018年10月某日ーー

 

 "都庁前にて爆破事件発生。これにより首相が負傷した模様。至急、現場へ急行願います"


 警視庁内に衝撃が走る。交通課から警官達がパトカーに乗って出動し、爆破の危険性も考慮して特殊機動隊SATの隊員たちも次々に装備を手に取って装甲トラックへと乗り込んでいく。

 警察が現場に駆けつけた時には知事選挙前の演説会場から黒煙が立ち昇っており、逃げ惑う人々で周囲は混乱を極めていた。SPが負傷した首相を囲み警戒している姿も見受けられるが実行犯らしき姿は見当たらなかった。交通課が一斉に一帯を封鎖して機動隊が爆発物の捜索にあたる。そんな物々しい雰囲気の現場を近くの物陰から、ほくそ笑みながら眺めている中国人の男がいた。

 ようやく救急車が到着し、首相がSPに付き従われながら搬送されていくーーその様子を見届けた男はその場を立ち去ろうと踵を返した瞬間、額を撃ち抜かれ絶命して倒れ込んだ。


「こちらコードネーム"清滝"。目標の処理、完了しました。これより帰投します」


 サイレンが鳴り響く慌ただしい現場の片隅で人知れず消された中国人の男ーー彼が上海にいた頃はマフィアの抗争などで辣腕を振るってきた爆弾のスペシャリストであり、標的を爆散させることで血の雨を降らせる、通称"レインメーカー"と恐れられていた稀代の暗殺者であった。そう…首相を巻き込み、爆破テロを行なったのはこのレインメーカーの仕業であった。首相は病院に運ばれたが、2時間後に死亡。レインメーカーは日本政府のトップを殺害するという大罪を犯したものの、とある組織のエージェントによって、その悪名も呆気なく(つい)えることとなった。



 この世には古来より闇に潜んで国家に仇なす障害に対して諜報活動を行ない、時には武力で排除するなど、決して表舞台には出ないがダークヒーローたる者たちが多く存在してきた。世界戦争の裏側ではスパイが熾烈な情報戦を繰り広げ牽制し合い、日本においては室町時代から江戸中期にかけて幕府の為に暗躍してきた忍者や、将軍を陰ながら守護する隠密御庭番などが有名な話である。

 歴史上ではその活躍の断片しか記録されていないが、確かに彼らは存在していた。


 そして泰平の世となった現代社会においても、名を変え形を変えて彼らは存在している。

 防衛省直轄・特務部隊JACKALーー彼らは日本政府に敵対意思を持つテロリストなど様々な犯罪者を日夜、陰で葬り去っている。JACKALとはJapanese ACKnowledged Assassination Legionーの略称であり、その名が示すとおり日本で唯一無二の暗殺部隊である。





 そして9年の月日が流れた。


 2027年9月ーー

 

 シルバーウィークを利用して旅行に出かける国民を嘲笑うかのように事件は起きた。アメリカ合衆国アイオワ州スー・ゲートウェイ空港発、羽田空港へ向かうユナイテッド航空248便内にてハイジャック事件が発生した。7人の武装した集団がエコノミークラスの乗客を人質にとってパイロットに日本の首相官邸へ不時着するよう脅迫してきたのである。乗客たちの脳裏に2001年に起きた911グラウンドゼロの悪夢が過ぎる。スクランブルが発動し、日本の領空内に入った時点で航空自衛隊のF-35A戦闘機が旅客機の後方を追尾する形で配置についたが、依然として状況は変わらなかった。

 そんな中、1人の男性客がトイレに行きたいと申し出た。テロリストの1人が見張りにつき同行していく。トイレの扉を開けた瞬間、目にも留まらぬ速さで男は見張りの手首を捻って銃を奪い取りテロリストを撃ち殺した。異変に気付いた他のテロリストが2名トイレに向かうと、また1人の乗客が立ち上がりエコノミーの区画に残っていた3人のテロリストを瞬く間に射殺した。トイレ前で応援に駆け付けたテロリスト2名も片付けられ、残りは操縦席でパイロットを脅迫しているリーダー格のテロリストだけとなった。

 トイレから戻った乗客の男と、機内でテロリストを始末した男はアイコンタクトで合図しそのまま機首のほうへと向かった。未だ異変に気付いていないテロリストはパイロットに銃を突きつけ、自爆テロによってまもなく訪れる自身の死を覚悟しながら、思いを馳せていた。すると、操縦室の扉をノックする音が聞こえる。

 機内で何かあったのかと扉を開けた瞬間、目の前に立っていた男に額を撃ち抜かれ、目の前が真っ赤に染まっていく。決死の覚悟も虚しく、旅客機が不時着することなく命終えたテロリストはその場で倒れた。


「機長、お怪我はないですか?我々は防衛省の特務部隊の者です。今すぐ進路を羽田空港へと修正し、管制室にハイジャックは鎮圧された旨を報告して下さい。着陸の直前までは我々がここで警備しますので」


 そう告げると2人は操縦室を出て、扉の前のCAに別の席を移るよう指示し、男たちは操縦室前の席に着席した。


 15分後ーーユナイテッド航空248便は無事、羽田空港に降り立ち、乗客127名全員が無事に保護された。ターミナルで待機していた警察たちはハイジャックによる自爆テロを阻止した立役者たちに聴取しようと待ち構えていたが、この時すでに2人の姿は無かった。

 この件は後々、報道されることとなったが防衛省の情報操作により、たまたま搭乗していた休暇中の警察官の活躍によって阻止されたということになり、エコノミーの区画で目撃した乗客たちとユナイテッド航空の関係者には緘口令が申し渡された。



 羽田空港に到着してから30分後ーー首都高を時速150km/hで走り抜けていく真っ青な車があった。


「あれじゃ完全に顔バレしてるじゃねーか!」


「仕方ないだろ。あの人数を相手に誰にも見られず全員を撃ち殺すなんて不可能だったからな。どのみちマスコミには圧力が掛かって情報操作される。一部の人間の前でくらい、時には表舞台に立つのも悪くないだろ」


「やれやれだぜ…ったく。ハイジャック系の任務は俺、次からパスな〜」


 車内で反省会でも行なうかのように談笑しているこの2人こそ、先ほどのハイジャックを阻止した防衛省直轄・特務部隊JACKALのエージェントであった。

 2人はそのまま東京を出て千葉県に入り、幕張新都心から延びる海底トンネルを通って東京湾の底に建造されたJACKAL本部の居住エリアにある駐車スペースに駐車した。


「さて、嵐、お前はこの後どうするんだ?」


 嵐と呼ばれた男は亜麻色でミディアムレングスの無造作なヘアスタイル、身長は175cm程度、骨太でしっかりとした体型をしておりブラックスーツの下に白Tを着てスニーカーを履いたカジュアルライクな格好をしている。嵐というのはコードネームであり、JACKALのエージェントには皆それぞれコードネームが与えられている。


「俺はこの後はオフだから帰って寝るわ〜」


「そうか。俺は報告書を提出してから帰る。じゃあな。おつかれ」


 嵐と共にハイジャックを鎮圧したこの男は、コードネーム"京極"。身長186cmでモデルのような長い脚と、ゆるやかなパーマのあたった肩くらいまである長い黒髪、ネクタイも含めてオールブラックでまとめたスーツスタイル。嵐の2つ年上で1年上の先輩にあたる。

 嵐は京極と別れるとそのまま自室のあるアパートの方へと歩いていった。この海底にあるJACKAL本部は広大な敷地に3つの区画が存在している。

 1つはエージェントたちが生活している居住エリア。ここには巨大なアパート群が建ち並んでいる他、コンビニや飲食店、ドラッグストアなどもあり海底であることを忘れてしまうような1つの街を形成している。

 次に訓練エリア。ここには東京ドーム10個分ほどの敷地に巨大なドーム型の施設がある。ドーム内部には一般的なジムのほか射撃訓練場、最新鋭のARを利用した拡張現実での実践訓練、そしてVRを利用した仮想空間内でのイメージトレーニングなど、様々な状況を想定した訓練が行なえるようにマシンがいくつも揃えられている。そして、トレーニング後の汗を流すためのスーパー銭湯まである。

 残る1つは本部の核となる中枢エリア。ここには過去のあらゆる事件・テロを閲覧できるデジタル犯罪記録館や、JACKALのトップである長官室をはじめ、大規模テロ発生時の作戦室や、国内の監視カメラや軌道衛星カメラから取得して犯罪者の追跡などを行なう情報局、エージェントが使用する武装の全てを管理・製造する技術開発局などがある本庁舎が居を構えている。


 京極はそのまま本庁舎に向かい、自身のデスクでハイジャックの顛末を記した報告書を作成し始めた。手早く報告書を完成させたタイミングで、京極のデスクにある内線電話が鳴った。


「はい、こちら京極」


「任務お疲れ様。ちょっと話があるの。長官室まで来てもらえる?」


「了解しました。ちょうど今、報告書をお渡ししに伺おうと思っていたところです」


 電話を切り、京極は長官室へ向かった。JACKALの長官ーー元・防衛省官僚の舞鶴麗子、御年53歳。美魔女という言葉が相応しい美貌でタイトなパンツスーツの似合う"バリキャリ"である。京極は報告書をまとめたデータ端末を舞鶴長官に手渡すと、引き換えに手紙を渡された。


「……これは?」


「ちょっとイヤな噂を耳にしてね。悪いけれど、嵐ちゃんに渡しておいてほしいの」


「嫌な噂…わかりました。お預かりします」


「ごめんね。よろしく〜」


 長官室を出た京極はこのご時世にわざわざ紙で認められている手紙の内容が気になったが、本人に渡す前に見るのも野暮だと思い、居住エリアの嵐の部屋に向かうことにした。



ピンポーン


 部屋のチャイムが鳴り、寝ぼけた顔で嵐はインターホンのモニターを確認した。


「……なに?」


「"ナニ"じゃねーよ!」


「……は?下ネタなら間に合ってるから他所でやってくれ」


「悪い悪い、冗談だ。渡したいものがある」


 京極の突然の下ネタを軽くあしらおうとした嵐であったが、渡すものがあると言われては出ない訳にもいかず、部屋着のまま玄関の扉を開けた。


「寛いでいるところ悪いな。ボスからお前に直接渡せと頼まれてな。ほらよ」


 京極が差し出してきた手紙を受け取り中身を確認すると嵐は驚愕したように目を見開いた。


「……京極。これ、俺じゃなくアンタ宛だぞ」


「え?いやいや、そんな馬鹿な。俺は長官から"嵐ちゃんに渡して"って言われてそのまま持ってきたんだぞ。何て書いてあるんだよ?」


「……女に気をつけろ」


 手紙に書かれていたのはただ一文。2人の間に無言の空気が流れる。


「なるほど。フッ…女に…気をつけろ……ってお前…それ、俺宛てじゃねーか!!」


「だから言ってんだろうがよ。長官が渡す手紙を間違えたのか、俺と京極どっちがどっちか分からなくなって間違えたのか…どちらにせよ俺は無関係だ。じゃあな」


 用が済み扉を閉めようとする嵐に京極は扉を掴んで静止した。


「待て待て。お前は思い当たるフシないのか?あのボスがそんな間違いする訳ないだろ」


 明らかに面倒くさそうな顔をする嵐であったが扉を閉めるのを止め一考した。


「いや、ねーわ。京極と違って俺は硬派だからな」


「バカヤロウ!俺が軟派みたいに言うじゃねぇよ!そうか…でもまぁ、ボスは何かを掴んでいるはずだ…一応、頭の片隅にでも置いておけよ?邪魔したな」


 気が済んだのか京極は扉を放し、その場を立ち去っていった。部屋に戻りキッチンの換気扇の下で煙草に火をつけた嵐は何やら考え事をしていた。


(…女……いや、まさか、な…)

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