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「あなたは……」

「わたしは、わたし。おねえちゃん、迷子?」


 少女の声を聞いていると、徐々に意識がはっきりとしてきた。夢。これは夢だ。だって彼女はわたしにそっくりで、今のわたしは成長した後の姿なのだから。


「迷子、かもしれません。ここがどこか、分かりますか?」

「分かる? 分からない。ここ、かみさまいない。これは夢、過去」


 少女の話し方はたどたどしい。ここには神様がいなくて、夢であり過去。一体どういう意味だろう。わたしは夢を見ているけど、それはわたしの過去だということだろうか。わたしが過去を知りたいと思っていたから、このような夢を見ているのだろうか。


「おねえちゃん、わたしと一緒に来る?」

「……はい。行きます」


 わたしは頷いて、少女が差し伸べた手に自らの手を重ねた。彼女は目を瞬き、微かに微笑む。


 この少女は、幼い頃のわたしなのだろうか。不思議に思いながら彼女に手を引かれて歩いていると、突然目の前に見覚えのある教会が現れた。


「教会。かみさまいる。声、聞こえる」

「神様の声が聞こえるのですか?」

「聞こえる。ずっと、聞こえる。けど、わたしはかみさまになれない」


 彼女の言葉に首を傾げる。神様になれない……さっき頭の中で聞こえたセシリオ様の言葉を参考にすると、人間が神様に近づくことはできても、神様になることはできない、ということだろうか。それは当然のことのように思うが、さっきわたしは、どうして「人間が神になる」と考えたのだろう。


「かみさま、わたしを呼んでいる。行かないといけない」

「どこに行くのですか?」

「かみさまのところ」


 話をしながら教会の中を歩く。教会の中は変わりなく、人の気配は一切ない。そのせいか、とても空虚でどこか恐ろしい雰囲気だ。少女は気にせずにずんずんと進んでいく。廊下を歩いて、角を曲がって、階段を降りて。その動きに迷いはない。


「神様はあなたに何と話しかけているのですか?」

「わたしを呼んでいる。わたしは、行かないといけない」


 少女の言葉に、心が痛んだ。彼女は、それが正しいことだと疑ってもいない。神が呼んでいるということは、つまり——。


 少女は、神の生贄になるということではないのだろうか。


 ある部屋に入る。そこには厳重に保管されている水晶があり、神々しく光を発していた。


「これは……」

「かみさまの力。これを使うと、わたしはかみさまになる」


 そう言って、少女はわたしの手を放して水晶に触れようとした。わたしは思わず彼女の手を掴んで止める。少女はゆっくりと振り向き、空虚な瞳をわたしに向けた。あまりに透明なその瞳に、心臓が嫌な音を立てる。


「ま、前に、人間が神様の力を持つと身体がはじけ飛ぶか、もしくは激痛を感じるという話を聞きました。あなたに、そのような目にあってほしくない」

「……大丈夫。わたしは、わたしの器は、大丈夫」

「器……?」


 まるで自分の体をただの物のように言う彼女に、違和感と恐怖のような感情が生まれる。彼女の言葉の真意を尋ねようとしたが、突然水晶にひびが入り始めた。わたしは突然のことに一瞬思考が止まったが、水晶から少しずつ溢れ出てくる重い力に危機を感じて少女を水晶から離れさせようとした。彼女はじっと、水晶を見つめている。


 それと同時に、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。


「シェルミカ!」


 二人の少年、セシリオ様とユイナート様だ。彼らは肩で息をしながら、紅い瞳を少女に向ける。彼らにわたしの姿は見えていないのだろうか、わたしに対して反応はなかった。


「シェルミカ、そこから離れて!」


 わたしの名を呼んでいるのは、セシリオ様だろうか。彼らは一様に焦った表情をしているが、ユイナート様の方はちゃんと見ないと無表情に見える。


 少女は彼らが来ても、目を水晶から動かすことはない。そうしている間も水晶のひびは深くなり、鋭い風が吹き始める。


 そして、水晶が真っ二つに割れた。圧倒的な力の奔流は、少女目がけて向かっていく。


「……っ!」


 わたしが少女の手を取るよりも早く、セシリオ様が彼女の腕を掴んで水晶から遠ざけた。力の奔流は、彼女の代わりにセシリオ様に吸い込まれるようにして膨れ上がる。


「……うぐっ……ぃあ」


 彼は苦しそうに頭を抱え、顔を歪める。その間も力は強くなる一方で、その度に彼は苦しげな声を上げる。


「セシリオ!」

「……来ないで!」


 彼の傍に寄ろうとしていたユイナート様は、彼の鋭い声に足を止める。ユイナート様の顔には、戸惑いや逡巡、そして微かな恐怖のような感情が浮かんでいる。


「……痛い……痛いよ……シェル、ミカ。君は……幸せに、なって」


 セシリオ様はふらふらと立ち上がり、手を広げる。その仕草はまるで、力をすべて受け入れるかのようにも、すべてを諦めたようにも見えた。


「——お願い、ユイナート。僕を、殺して」


 そして彼は、涙を流しながら微笑んだ。







 

「お願いがあるの」



「わたしのせいで、彼らは傷つき、変わってしまった」



「お願い。セシリオさまを、ユイナートさまを、救い出して」



 ……強い思いが籠った声が聞こえて、夢は幻となり消えていった。

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