夢……?
わたしが不思議な世界に来てから、数日が経った。わたしも自分の過去やセシリオ様たちのことを調べようと試みたが、なかなか自由になる時間が取れない。というのも、わたしの一日は厳密に管理されていて、常に周りに人がいるような状態なのだ。子どもの時から、この世界に来る以前と同じような生活を送っていたとは、驚きだ。わたしに自由はないのだろうか。
教会に戻ってから、まして冷たい視線や言葉を浴びせられることが多くなった。しかし、時折ユイナート様やセシリオ様が教会を訪れ、そのたびに冷たい態度をとっていた人達は姿を消す。彼らが手を回してくださっているのだろうが、彼らと一緒に話をしていると、人々からの嫉妬が痛いほど伝わってくるのだ。特に、わたしと同年代か少し上くらいの少女たちからのいやがらせが怖い。
「あなたみたいな貧相な女が殿下たちからの寵愛を受けるなんて!」
と、何度か言われている。わたしはそんなに貧相な見た目なのだろうか。いくら教会の人たちが冷たいとはいえ食事は三食与えられ、服装も整えられている。貴族の令嬢方には劣るが、見苦しいほどではないと思う。
今日もまた、教会を歩いていると、お祈りのために訪れたであろう貴族令嬢から水をかけられた。わたしの周りに付いている人たちはそれを咎めようとはしない。
「目ざわりなのよ! あなたみたいな者がわたくしの視界に入らないでちょうだい。神様のお声が聞けるからといって、調子に乗るんじゃないわよ」
そう言われるたび、わたしは少し申し訳ない気持ちになる。今のわたしに神様の声は聞こえない。そのことはセシリオ様たちにしか言っていないが、もし皆に知られたらわたしは教会を追い出されるのだろう。そうしたら自由になれるのだろうか、と考えてもしまうが、できるだけ過去を忠実に遡っていきたい。
わたしは小さい頃、多くの悪意に晒されて生活していたみたいだ。今のわたしの精神年齢は子どもよりも上だから平気だけど、実際に子どもだった頃、わたしは平気だったのだろうか。……平気なわけ、ないか。
夜になり、ベッドで仰向けに寝転ぶ。高い天井をぼんやりと眺めながら、わたしは過去の自分に思いを馳せた。
——白い空間。一人の少女がわたしに手を差し伸べ、にこりと微笑む。恐る恐る手を重ねると、少女はわたしの手を引いて駆けだした。
真っ白な空間を抜けると、視界が開けて見覚えのある景色が広がった。少女に手を引かれながら走り続けると、遠くに少年たちの姿が見えてくる。彼らはわたしたちに気が付いて紅い瞳をこちらに向け、手を振った。
少女がわたしの顔を見上げる。彼女は微笑み、手を放して彼らの元は走っていく。わたしが思わず手を伸ばすが、彼女らはわたしに背を向けて歩いていった。楽しげに何かを話しているようだが、何も聞こえない。
一人になりたくない。
反射的に彼女らの背を追って、足を動かした。一歩、一歩。進んでも距離は近くならない、不思議な感覚。
そして、彼女らの姿が消えた。同時に、頭の中に声が響く。
『……を神の器とし……現させる……』
違う。声じゃない。記憶の中にある、誰かの言葉。
『……となった者……々が世界を……』
聞いたのはわたし。だけど、わたしは知らない。知らない記憶。子どもの頃の、わたし?
わたしは、誰かの話を聞いていて。悲しくて、辛くて。でも、最後にはなんと思ったのだろう。
『でも稀に、かみさまの力を持ってもそれに対応する器がある』『人間が、神に近づくんだ』
誰かの言葉が再び浮かんでくる。神の力に対応する器。人間が神になり、その力は人間のものとなり、世界を支配する。
……なにかが分かりそうな気がするのに、そのなにかが分からない。
頭が痛くて蹲っていると、誰かに肩を叩かれた。
「——おねえちゃん、大丈夫?」
顔を上げると、そこには少女が立っていた。薄い桃色の髪を揺らした少女は、さっきまでわたしの手を引いていたあの少女だった。




