介入
セシリオ様は震えるわたしを見て、にこりと微笑む。紅い瞳は変わらず暗く、不安定なようにも見えた。そんな彼の視線を遮るように、ユイナート様が立ち位置を変える。
「……シェルミカを圧迫しないでください」
「ここからが大事なところなのに。話したら、シェルミカがお前のこと嫌いになっちゃうかもね」
ユイナート様の背中でセシリオ様の顔は見えないが、肌がピリピリするのでまた二人は睨み合っているのであろう。どうにかして落ち着いてもらえないか慌てていると、甲高い耳鳴りが響いた。
『————』
何事かと思って周囲を見るが、何も変化はない。不思議に思って首を傾げていると、ユイナート様たちがわたしを見ていることに気が付いた。
「シェミ、どうしましたか? 何か気になることでも?」
「……なにか、声が聞こえた気がして」
わたしがそう言うと、ユイナート様は目を瞬き、セシリオ様は眉をひそめた。彼らの反応が気になり、詳しく尋ねようとしたその時。
鋭い痛みが頭を走った。
「……っ!」
『————』
頭を押さえて蹲ると、ユイナート様とセシリオ様が慌てて駆け寄ってくる。温かな手が体に触れて少し落ち着くが、それよりも痛みと混乱の方が大きい。
誰かが、わたしに話しかけている。でもその声が頭の中で響き渡り、痛みを呼ぶ。声は聞きとれないし、痛みがひどくて意識が飛んでしまいそうだ。痛みのせいで過呼吸になり、涙も出てくる。
「シェルミカ、頭が痛いのですか? ゆっくり息を吸ってください。……これは、何だと思いますか?」
「……変な力が介入している。かみさまみたいだけど、違う……?」
彼らの会話が断片的にだけ聞こえるが、考えることもできない。痛みの合間に聞こえてくる声を聞きとろうとするが、わたしの意識はそこでぷつりと途絶えた。
◇ ◇
「シェルミカ!?」
セシリオは彼女の体を抱きとめる。糸が切れた人形のように彼女は体から力を抜き、彼に寄りかかった。意識がない。
「ミハイルに診てもらいましょう」
ユイナートが立ち上がり、セシリオに言う。彼は動揺しながらも、シェルミカをしっかりと抱き締めて立ち上がった。先導しようとするユイナートについて行こうとした、その時。
二人は体に魔力を纏わせ、同時に背後を睨みつけた。
「……何者ですか」
ユイナートは氷で剣を生成し、背後の木々に向けて剣先を突き付ける。セシリオもまた、シェルミカを守るように強く抱きしめ、いつでも魔法を放てるように備えた。
「姿を見せなさい。拒否するようなら、王城敷地内への侵入者として問答無用で捕らえます」
ユイナートが警告するが、彼らが睨みつける空間に人は現れない。セシリオは怪しく思って目を細め、周囲の魔力を探知する。シェルミカが苦しんでいた時から感じている、変な力。彼らを覆うように存在しており、気を抜いたら意識を持っていかれそうになるのだ。
「……違う」
セシリオは小さく呟いて、辺りを見回した。彼の様子を見て、ユイナートは訝しげに眉をひそめる。
「どうしたのです?」
「違う。この空間、さっきまでと違う」
彼が詳しく説明しようと口を開きかけると、腕の中に抱いているシェルミカが苦しそうにうめき声を上げた。目を瞑った彼女の額には汗が滲んでいる。
「シェルミカ! どうしよう、この子が苦しんでいる」
「この空間が先程までとは違う、ということに何か関係しているのかもしれません。僕達に耐性があって、シェルミカにないものといえば……」
ユイナートの言葉をすべて聞く前に彼が言いたいことを把握し、セシリオは片手でシェルミカの髪を撫でた。
「僕の力を注ぐから。邪魔するなよ」
そう言って、彼は迷いなくシェルミカに口づけた。口移しをするように、彼の魔力を注ぎ込む。しばらく唇を重ねていると、シェルミカの体の震えが収まって落ち着いたようだ。彼は安心し、顔を離す。
「……良かった」
「ええ、本当に。貴方が幼いシェルミカ相手に深いキスをしでもしたら、貴方の舌を切り落とすところでした」
「僕はお前と違って、欲にまみれていないからね」
彼女の頬を優しく撫でながら、セシリオは紅い瞳をユイナートに向ける。
「シェルミカは、かみさまに愛された子じゃないの? どうして、この力で拒否反応が?」
「神に愛されているからといって、神の力に耐えられるとは限りませんよ。ただ、シェルミカはまた別みたいで。特別な存在だ、と教会の者達は言っているようですね」
彼の説明を聞きながらセシリオは首を傾げ、じっとシェルミカの顔を見つめた。彼女の魔力の流れを感じ取るが、変わったところはない。




