気になること(2)
セシリオ様の反応を見て驚いたのは、わたしだけではない。感情変化をあまり見せないユイナート様も微かに目を丸くした。彼はそのまま口を開く。
「貴方、利用されていますよ」
「知ってる。ボスが僕を利用しようとしていることくらい、気づいているよ」
セシリオ様はなんてことのないように話しているが、わたしの頭の中は混乱している。彼のボス、つまり教皇様は、彼を利用しようとしている。教皇様はとてもお優しそうに見えたのに。何のために、そして彼がそれを何故許容しているのか。疑問が膨れ上がってくる。
「ボスにはたくさん借りがあるし、ボスが成し遂げようとしていることに共感もできる。それに、僕だってボスを利用しているようなものだから」
彼はわたしを見ながらにこりと微笑んだ。ユイナート様に話しているのかと思ったが、わたしに向けて話してくれていたようだ。この調子に乗って、彼に質問してみてもいいかもしれない。
「……セシリオ様は、悲しくないのですか?」
意気込んだは良いものの踏み入ったことを聞くことはできず、曖昧なことを尋ねてしまった。わたしの問いに、彼は目を丸くする。そしてすぐ、目を和らげた。
「悲しくないよ。だって、僕には悲しいという感情もほとんどないから。あるのは、シェルミカに対する愛と、こいつに対する憎しみが基本。他にもちょっとずつだけ残っている」
これも、彼の実態を掴むことができない原因だ。セシリオ様は感情がないと言うが、それにしては表情の変化が現れている。
……よく思い出すと、ユイナート様と会う前までは、ずっと笑みを浮かべていらっしゃったかもしれない。それを踏まえても、ユイナート様とセシリオ様が並ぶと、表情の変化は多く見える。
「……セシリオ様は、どうしてユイト様を憎んでおられるのですか?」
ぼんやりと考えていたら、とんでもないことを口走ってしまった気がした。自分でも何を言ったのかよく分からなかったが、二人の表情が一瞬固まったので、かなり大変なことを聞いてしまったということが痛いほど伝わってくる。わたしは慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません! 差し出がましいことをお尋ねしてしまいました。どうか、忘れてください」
必死に頭を下げていると、頭の上にぽんと手が置かれた。目だけを上げると、それはセシリオ様の手だった。
「当然、気になることだよね。だから、そんなに怖がらないで」
彼は微笑んで、わたしの頬に手を添えてそっと持ち上げる。その瞳が美しくて、思わず見惚れてしまう。すると、彼は笑みを深めてわたしの頬を撫でた。
「シェルミカには、知っていてほしい」
そう言う彼の目は、悲しい色を帯びているように見えた。その瞳が美しく、思わず見惚れてしまう。すると、彼は笑みを深めてわたしの頬を撫でた。ユイナート様の笑みが怖いが、彼は全く気にしていない。
「話す前に、君に聞いておきたいことがある。シェルミカは、かみさまのことをどのくらい知っている?」
セシリオ様の問いかけにわたしは首を傾げる。どういう意図の質問なのかが掴みきれないが、何か関係してくるのだろう。
「神様は、この世界とわたしたち人間を創造した偉大な御方で、教会で祀られている、ということしか知りません」
「その通り。そして、僕達が持っている魔力と、かみさまの力は根本的に異なるんだ」
わたしたち人間が神様につくられた存在なのであれば、持つ力が異なるのは当然だろう。人間が神様と同じ力を持つことなんて、できないのではないのだろうか。
「そんな弱い人間が、かみさまと同じ力を持つとどうなると思う? 身体がはじけ飛んでしまうんだ。器が耐え切れなくて、消滅する」
セシリオ様は身振りを使いながら説明する。身体がはじけ飛ぶだなんて、恐ろしい。わたしが彼の話を聞いている間、ユイナート様は何も言わず、静かに彼を見ていた。
「でも稀に、かみさまの力を持ってもそれに対応する器がある。その場合、強大な力を取り込んだら、魂が切り裂かれるような痛みに襲われる。人間が、神に近づくんだ。それ相応の代価が必要になる」
段々と、彼の瞳が暗くなっていく。心なしか空気が冷え、わたしの手は小さく震え始めた。彼から漏れ出る力が重く、同時に、胸が締まるように苦しい。まるで、彼の苦しみの一部を感じているかのように。




