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気になること(1)


「わ、わたし、気になることがあるのです! ……その、わたしはずっと、教会にいたのでしょうか」


 必死に別の話を出すと、彼の笑みから不穏さが消えた。ひとまず、安心できる。

 別の話ではあるが、これもかなり気になっていたことである。あの白い部屋にいた以前のことを思い出すことができないけど、もしかしたらずっと教会にいたという可能性も考えられたのだ。


「いえ。この男が貴女を連れ去る前まで、貴女はこの王城にいました」

「こいつは君のことを監禁していたんだよ」

「王城に来る前は、下町で過ごしていたようですね。一度下町に下りた時に貴女を発見し、舞踏会を利用して貴女を保護したのです」

「保護って言葉の意味、知っている?」

「さっきから外野が煩いですね」

「危ないこいつから君を助け出したのが、僕だよ。君を、危険な男から保護したんだ」


 彼らが互いを睨みつけている間に、話を頭の中で整理する。わたしはずっと教会にいたわけではなくて、一度下町に行き、そしてユイナート様に保護(?)され、その後にセシリオ様に連れられて白い部屋に移った、ということらしい。


 記憶がないせいで、実感がない。そういえば、わたしの記憶はセシリオ様が封じたというのなら、彼がそれを解くことはできないのだろうか。


「セシリオ様」

「どうしたの?」


 セシリオ様に声をかけると、彼は微笑んでわたしを見た。ユイナート様の前では笑みを浮かべないと思っていたけど、違うみたいだ。二人の笑みは似ているようで、よく見ると異なることが分かる。ユイナート様の微笑みは優雅で紳士的、全ての感情を覆う仮面のようなもので、セシリオ様の微笑みは端麗でどこか恐ろしさも感じる、感情が一切込められていない空っぽなもの。


「わたし、セシリオ様以外のことをよく覚えていないのです」

「そうだろうね。僕がそうしたから」

「今すぐに戻せますか?」


 にこにこと微笑むセシリオ様に、わたしの記憶を戻してほしいと言えずに固まっていたら、ユイナート様が単刀直入に言ってくださった。


「嫌だよ。せっかく、シェルミカを僕のものにできそうだったのに」

「シェルミカは僕のものです。……聞きたいのは、戻せるのかどうか、ですよ」


 再び、彼らの間に火花が散った。セシリオ様は顔から笑みを消してユイナート様を睨んでいたが、やがて大きくため息をついた。


「今の魔力じゃ、難しい。僕以外の魔力を注いだら多少は戻るかもしれないけど」

「やはり抱かないといけませんか」


 ちらり、とユイナート様の視線がわたしに向けられ、ぞっとした。首をぶんぶんと振っていると、彼は柔らかく目を細める。


「流石に、少女姿の貴女は抱きませんから。元の身体に戻ってから、たっぷりと魔力を注ぐことにします」


 良かった、と思ったが、よく考えたら良くはない。どうしてわたしは当然のように彼に抱かれることになっているのか。恐ろしく思っていると、セシリオ様が不満げに彼を見た。


「戻ったら、お前は火刑にされる」

「その点、どうなのでしょうね。ここに飛んだ直前の世界に戻るのでしょうか。その場合、すぐに面倒な貴方達の対処をしないといけないのですね。まあ、戻った時のことを考えている時ではありません。帰る方法を探さないといけないのですよ」


 わたしもユイナート様と同じような疑問は抱いていた。この世界が現実ではない世界だとして、どうにかして現実に戻った時、どのようになるのだろう。もしもこっちの世界で死んでしまったら、現実に戻ることもないのだろうか。


「……そういえば、貴方のボスだという方のことですが」


 考えを巡らせていると、ユイナート様がそうセシリオ様に尋ねた。セシリオ様のボスというのは、教皇様のことだろう。セシリオ様がどう反応するのか気になって彼をじっと見ていると、思っていたような反応ではなかった。


「……ボス?」


 彼はまるで初めて聞いた言葉のように復唱し、首を傾げる。そしてすぐ、忘れていたことを思い出したように頷いた。


「ああ、ボスね。ボスがどうかした?」


 彼の反応を見て、ユイナート様は何かを考える素振りを見せた後、静かに口を開いた。


「……貴方も、精神作用を受けていませんか?」


 わたしは驚いて、ユイナート様とセシリオ様の顔を交互に見る。ユイナート様の言葉を聞いても、セシリオ様は特に動じた様子を見せなかった。


「うん。受けているだろうね」


 それどころか、当然のことのように頷いた。

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