詳しい話(2)
「こっちのほうに、外に出られそうな場所が……あ、あった」
セシリオ様に手を引かれながら階段を降り、外に出る。そこに広がっているのは、庭園ではなく、騎士の訓練場のように見えた。
「あれ……? さっきの庭園は、違う方向だったかな」
そう言いながらも、彼は訓練場の方に進んでいく。騎士の人たちの邪魔にならないかと不安に思ったが、セシリオ様が王子様だったら邪険に扱われることはないのかもしれない。わたしのことは、邪魔に思われるかもしれないけど。
「おや、これは……セシリオ殿下ではありませんか。それに、シェルミカ様も。何か御用ですか?」
その時、背の高い強面の男の人に声をかけられた。セシリオ様は彼を一瞥して、淡々と答える。
「特に用はないけど、シェルミカが気になっていそうだったから」
「そうでしたか。どうぞ、お好きなだけ見ていってください」
この人が誰なのか気になるけど、この頃のわたしは会ったことがある人物であるようだ。セシリオ様は今笑みを浮かべており、この人はそこから彼がセシリオ様であると考えたのだろうか。
わたしは、セシリオ様はユイナート様の前では笑みを浮かべないようにしているようにしているのだと予想している。今までの話から、彼らがこのくらいの年だった時はユイナート様が無表情でセシリオ様が笑みを浮かべていたと把握しているが、あまり想像できないことである。
「セシリオ様。わたし、気になっているわけでは……」
「そう? 君がじっと見ていたから、気になっているんだと思った。でもせっかくだし、見て行こうよ。僕は剣術は得意じゃないけど、剣を振るのは嫌いじゃないんだ」
迷いなく彼は進んでいく。騎士の人たちが興味深そうにわたしたちを見ていることに気が付いて、少し恥ずかしくなる。わたしみたいに何の力も持たないような者がいては迷惑なのではないだろうか。
訓練場の奥で、やけに賑わっている所があった。セシリオ様も気になったのか、わたしの手を引いてそちらに向かう。
「やっぱり殿下の強さは、異次元ですね……」
「前よりもお強くなられましたか?」
話し声が聞こえる。殿下、という言葉が聞こえて、この賑わいの中心にいるのが誰なのか、大まかに予想がついた。それはセシリオ様も同じだったのだろう。笑みが消えている。
「私も、殿下のようにお強くなりたいです。どのように鍛えたらよいのでしょう」
「そうだな。例えば……」
わたしがちらちらと中心を覗こうとしていると、複数の騎士に囲まれていた彼の紅い瞳がわたしに向けられた。そして、その目が大きく見開かれる。
「シェルミカ……!」
彼がわたしの名を呼ぶと、次の瞬間には抱きしめられていた。包み込まれるような感覚がして、この不思議な世界に来る前のことを思い出す。その時も、遠くにいた彼が突然目の前に来ていたのだった。いつの間にかセシリオ様と手は離れていて、代わりにユイナート様と手が繋がっている。
「どうしてここにいるのですか? もしかして、僕に会いたくて来てくれたのですか?」
「あり得ない」
ユイナート様の言葉を遮るように、セシリオ様の冷たい声が耳に入る。目の前のユイナート様はわたしの体を包み込んだまま、不満げに目を細めた。
「貴方もいたのですか。何の用です? 貴方も実力を確かめに来たのですか」
「実力を? ……ふぅん。確かにそれをしておく必要はある、かも」
二人の会話を静かに聞いていると、周りの騎士たちがやけに驚いた表情をしていることに気が付いた。
「で、殿下が、笑っていらっしゃる……」
「さっきまでいらっしゃったユイナート殿下が、こちらの方で……セシリオ殿下が、ん? あれ?」
特に動揺したように声を漏らしていたのは、火のように真っ赤な髪を持つ少年と色を吸い込むような黒い髪の少年だ。彼らのそばにはもう一人、深い青い瞳と海の色を映したような青い髪を持つ少年もいる。彼らは、ユイナート様たちよりも少し年上か同年代くらいに見える。
「……このままだと騒ぎになります。離れましょう」
「お前の言うことに従うのは癪だけど、仕方ないね」
ユイナート様とセシリオ様は同時にため息を吐いた。




