詳しい話(1)
ユイナート様と別れて部屋に戻ってから、私は数人の女の人に引き連れられて服装や髪の毛を整えられた。
「勝手に外に出ないように何度も言っているでしょう」
「……申し訳ありません」
「いくら殿下たちがあなた様のことを気に入っているからといって、あなた様と彼らの身分は違うのですよ」
私の髪をといでいる女性がそう言う。冷たい雰囲気が漂ってきて、わたしは嫌に思うより不思議に感じた。わたしは自分の素性やわたしがどういった立場の者なのかすら知らない状態だが、ユイナート様たちのように王族といった高い身分ではないことは確実だろう。
わたしはこの人たちにあまり好かれていなかったのだろうか。あからさまに嫌な目で見られてはいないが、どことなく不安になる。白様は表情変化が少なく感情が全く読めなかったけど、わたしのことを常に気にかけてくれていた。わたしの頭はぼんやりとしていて、その時にそれを深く実感することはできなかったのだけど。
わたしの恰好が整えられたら、連れられるままに部屋を出て廊下を歩く。先程までわたしの髪を整えていた女性に手を引かれながら歩いていると、廊下の途中に銀髪の少年の姿が見えた。遠目から見ると……セシリオ様、だろうか?
彼は紅い瞳をこちらに向けて、わたしに気がついたのか近づいてくる。
「シェルミカ。これからどこに行くの?」
「殿下。姫様はこれからお祈りの時間ですので……」
「祈り? へぇ……確か君は、この頃から教会で大切にされていたらしいね」
彼は周りの人たちの制止を振り切ってわたしの隣に立ち、女性から奪い取るようにわたしの手をとった。
「な、何をなさるのですか、ユイナート殿下……?」
「ユイナートじゃない」
視線を鋭くして彼は女性たちを睨みつける。彼の反応に彼女らは戸惑いを隠せないようだ。
「ユイナート殿下でないのなら、セシリオ殿下、ですか?」
「……どうでもいいじゃん。とりあえず、シェルミカは借りていくよ。どうせ、祈りなんて必要ないでしょ」
彼女らが彼を止めようとしたが、セシリオ様はわたしの手を引いてずんずんと歩いていく。彼の機嫌は随分と悪そうに見える。
「あの、セシリオ様……」
「ごめんね、シェルミカ。強引につれてきちゃって。でも、君が傍にいてくれないとおかしくなりそうで……」
しばらく歩いて角を曲がると、セシリオ様はわたしを抱き締めた。
「シェルミカ……僕の、シェルミカ」
彼はわたしの首筋に頭を埋めながら、何度か同じ言葉を呟く。恐る恐る彼の背に手を回すと、一瞬だけ彼の体がびくりと震えた。
「……もういっそ、遠くに離れて僕と君だけで過ごしたいよ。どうしてこの世界には、僕達以外の人間がいるんだろう」
セシリオ様は小さく呟く。わたしは何も言えずにされるがままになっていると、彼はゆっくりとわたしから離れた。彼の顔には、以前のように空虚な笑みが浮かんでいる。
「驚かせてごめんね。この体になって、なんだか色々わからなくなって……。でも、君の存在だけは確かだ。君がいてくれるだけで、僕は落ち着ける。ねえ、シェルミカ。僕と一緒に外に出てみない? 広そうな庭園が見えたんだ。気分転換にもなるかもしれないよ」
セシリオ様の笑みは空っぽで、何も込められていないように見えたけど、彼が今にも泣きだしてしまいそうな、悲しい感情が隠されているような気がした。
「はい。わたし、外に出てみたいです」
そう言って頷くと、彼は目を細めてわたしの頭を一度撫でた。




