昔の彼ら(3)
シェルミカを部屋に送り届け、ユイナートは騎士団訓練場を訪れた。訓練場の場所は今と変わりない。彼は中に入る前に少し足を止めて何かを考える素振りを見せ、再び足を動かす。彼女の前では微笑を保っていた彼は、冷たい無表情に戻っていた。
彼を見た騎士達は皆頭を下げる。彼らに気を取られることなく、迷わずに足を進める。普段の彼であれば声をかけていくであろうが、この頃の彼であれば何も言わなかったと想定されるためである。
訓練場に入るとすぐ、奥の方で少年らが素振りをしているのが見えた。ユイナートが近づいていくと、彼に気が付いた彼らは素振りを止めて深々と頭を下げる。
「おはようございます、殿下」
ユイナートは軽く顎を引いてそれに応える。その間に、彼らの姿をじっと眺めた。
燃えるような赤髪のアルビー、海の色を映した青髪のトア、夜闇をそのまま閉じ込めた黒髪のカイト。なじみ深い面々だが、その姿はまだ幼い。彼らはこの頃からユイナートに忠誠を誓っており、騎士として才覚を見せていた。
「……調子はどうだ?」
彼は言葉を選びながら声を出す。普段の彼のような言葉遣いで話したら、先程のミハイルのように彼らも驚くだろうと思ってのことだが、彼らは一様に驚いたように目を丸くした。
「最高の状態です!」
「殿下がお声をかけてくださった……珍しい」
「おい、失礼だぞカイト。申し訳ありません、殿下」
始めから、アルビー、カイト、トアが話した。アルビーは顔を輝かせており、そのまっすぐとした眼差しに彼は思わず目を細める。カイトとトアの関係は、今とあまり変わっていないようだ。トアがカイトの頭に手を乗せ、頭を下げさせている。
彼らと話したいことは多々あるが、急に多くを話してはまた驚かれるだろう。そう思った彼は、とりあえず試したいことを行うことにした。現在の彼の姿で、どの程度思うように体を動かせるかを確認しておきたかったのである。
「余りの剣はあるか?」
「は、はい! すぐにお持ちします!」
彼の言葉に真っ先にアルビーが反応し、走って訓練用の剣を取りに行った。すぐにアルビーは戻ってきて、彼に剣を差し出す。彼はそれを受け取って、手に握った感触を軽く確かめた。
握力が元の体よりも弱い。筋力も足りていないのか、剣が重く感じる。
「……不便な体だ」
ユイナートは小さく呟き、両手で剣を構える。今の状態を把握しておかなくては、非常事態が起こった時に動きが鈍くなってしまう。魔力量も現在とは異なり少ないので、この体にあった動きをする必要がある。
彼が剣を構えた姿を見て周囲の騎士達は手を止め、彼に集中している。アルビー達は目を輝かせた。彼らはユイナートの剣技を深く尊敬しており、訓練に熱心である。そういえばこの頃、人目のある場所で剣を振ることはあまりなかったと思い出しながら、彼は長く息を吐いた。
いつものように、剣を振るう。動いていると剣の重みは気にならなくなるが、気を抜くと手の力が足りなくて引っ張られてしまうため、手と体の動きがいつもよりも雑になってしまう。彼は内心で腹立たしく思いながら剣を振り下ろした。
一通りの型を終えて構えを解くと、周りの騎士達から拍手が起こった。
「殿下、素晴らしい!」「流石です、殿下!」「やはり我々の剣技では殿下に敵いません!」
口々に賞賛され、彼は戸惑う。今の彼が剣を振っていても、騎士達にここまで称賛されることはない。もう見慣れてしまったということが大きな原因だろうが、それにしてもここまで盛り上がるとは。
「皆も、励め」
当たり障りのないことを言ったつもりだったが、騎士達は全員驚いた表情を見せた。そしてすぐに、感激したように顔を明るくする。
「ありがたいお言葉です……!」「殿下、もしよろしければ、自分の剣技を見ていただけませんか!?」「おいお前、失礼だぞ!」「私も相手をしていただきたいです!」
彼らの反応を見ながら、彼は過去の自分を思い出す。少年と呼ばれる年齢の時から剣の腕が特出しており、騎士らから『剣の申し子』だと持ち上げられていたのだ。この時には既に、単純な剣術試合であれば、師リゾール以外の騎士に勝っていた。
ちなみに魔法の方では、シェンドの方が抜き出ている。二人が互いに得意なことを教え合った結果、今のように剣技と魔法を両方合わせた戦闘を行えるようになったのだ。
騒がしくなった騎士らを無表情のまま見つめ、ユイナートは小さく息をついた。
「アルビー、トア、カイトの三人であれば、相手をしよう」
「「「よろしいのですか!?」」」
軽く提案したつもりだったが、三人はこの提案に飛びついてきた。その勢いに驚きながら、彼は微かに目元を和らげる。
そして、元の世界に戻った後、シェルミカを連れて国に帰ってから、彼らと手合わせをしようと考えた。




