昔の彼ら(2)
「色々懐かしいな。子どもの頃の思い出がよみがえってくるよ。ミハイルに会えたし、どうせならアルビーらにも会ってみたらどうだ?」
「アルビー、トア、カイトには会いたいですね。他には、若い父上と母上、リゾール、……まだまだ沢山浮かんできます」
「俺は……そうだ、そうじゃないか。俺も母上にお会いできる! ちょっと待てよ、今は何年の何日だ?」
ユイナート様とシェンド様が懐かしそうに話しながら歩いている途中、シェンド様が急に焦ったように大きな声を出した。
「確かに。貴方、早くリゼッテルに戻らないと」
「ああ、すまないが一旦リゼッテルに帰るよ。なるべく早く戻ってくる」
そして、シェンド様は走ってどこかに行った。わたしが首を傾げて彼の後ろ姿を見ていたからか、ユイナート様が説明してくれる。
「シェンドの母君は、彼が幼い頃に亡くなってしまったのです。しかも、喧嘩別れだったそうで。彼はずっと、そのことを気に病んでいるのですよ」
そんなことがあったのか。この世界が現実ではないにしても、シェンド様の気持ちが少しでも楽になることを願う。夢ならば夢で、叶えられることは叶えてほしい。神様が『汝が望む世界は』と問いかけているくらいだし、ここは皆が望んでいることが起きる世界なのかもしれないのだから。
ユイナート様に手を引かれ、廊下を歩く。セシリオ様もわたしの隣に立って、周りの様子を観察するように視線を動かしている。そして、呟くように言った。
「……僕、一通りここを一周してみる。何か、覚えているかもしれないから」
「お好きになさってください。ただ面倒な者がいるかもしれないので、注意してくださいね」
にこり、とユイナート様が微笑むと、セシリオ様は嫌そうな顔をして彼から目を離す。わたしの前で、セシリオ様は常に空っぽな笑みを見せていたので、このように色々な表情をする彼が目新しく思える。彼は感情が淡泊だと言っていたが、ユイナート様よりも表情が豊かなように見える。
「シェルミカ。こいつに嫌なことをされたら、僕のことを呼んでね。転移はできないけど、すぐに君の元に駆けつけるから」
セシリオ様にそう言われ、わたしは頷いた。ユイナート様がじっと見ていることは分かったが、頷かないわけにはいかない。わたしが頷いたのを確認して、セシリオ様は来た道を戻るように離れていった。
「さあ。貴女も元の場所に戻らないと」
「……あの、ユイト様」
「なんでしょう? 何でも聞いてくださいね」
ユイナート様を見上げて問いかけると、彼は嬉しそうに微笑んでわたしの目をまっすぐと見た。ユイト様、と呼んだことは正解だったようだ。
「わたしと、貴方様の関係は、どういったものなのですか?」
わたしは気になっていたことを聞いてみた。さっき彼の名を聞いたときに、彼は現実味のないことを言っていた気がするが、実際のところはどうなのだろうと考えていたのだ。ユイナート様は少し目を瞬いて、柔らかく微笑む。
「僕と貴女の関係? とても深く甘い仲でしたよ。これが貴女が望む答えでないならば……そうですね、僕が主人で、貴女は僕の可愛い可愛いお人形と言ったところでしょうか」
「……お人形……」
「冗談ですよ」
全く冗談に聞こえなかった。絶対本気だった。思わず彼の顔を凝視すると、彼はにこりと笑みを深めてわたしを見返す。紅い瞳の光に耐え切れず、わたしはすぐに目を逸らした。少年姿の彼であっても、勝てる気がしない。
「僕にとって、貴女は大切な人です。……不思議ですね、一度も貴女に言ったことがないようなことも、今なら何でも話せてしまいそうだ。子ども姿になったからか、精神も多少は幼くなっているのかもしれません」
「……大切な、人」
声に出さずに口の中で呟く。どうしてだろう。彼にそう言われて、とても心が温かくなった。
「他にも聞きたいことがあれば、気軽に聞いてください」
「……ありがとうございます」
聞きたいことは山ほどある。ユイナート様とセシリオ様、シェンド様の関係性や、わたしの過去、そして教会について。その全てを聞くのは忍びないし、何よりも彼に何もかもを尋ねるのは少し怖い。対価を要求されそうな気がする。聞くのであればシェンド様に聞きたかったが彼は行ってしまった。
自分でも色々と調べてみよう。ただ、この頃わたしが知っているはずの人に出会っても今のわたしには分からないので、気を付けないといけない。




