過去、或いは現実(4)
わたしが教会で軟禁されていたとしても、簡単に外に出ることができたように思える。それはどうしてだろう。
「貴女は時々、賓客として王城に泊まっていたのですよ。偶然か必然かは分かりませんが、今日がその日でした。シドもアルテアラにいたのですから、ただの偶然というにはできすぎていますよね」
ちょうど、わたしが考えていたことをユイナート様が話してくれた。
……待って。この場所は、王城? ということは、ユイナート様とセシリオ様、シェンド様は、貴族、それも王族ということになるのだろうか。確かに彼らの振る舞いは洗練されていて風格が漂うが、まさかそんなに高い身分の方達だったとは。
「僕とシェルミカは、昔から知り合いだった、ってこと? でも僕達は二人とも昔を覚えていないから、初めて会ったことになったんだ」
「この頃シェルミカと一番仲が良かったのは、誰かというとセオだったな」
「そうなの? じゃあ、僕達は始めから親しくて繋がるべき関係だったってことだね」
シェンド様の言葉にセシリオ様はにこりと笑みを浮かべ、わたしの顔を見た。わたしも紅い瞳をじっと見返していると、目元が手で覆われた。
「あれを見ないでください、シェミ。他の男を視界にいれないで」
耳元で囁くように言われ、全身がぞわりと逆立った。彼の姿は少年なのに、どうしてこんなにも低く官能的な声を出せるのか。
「ふふ、可愛らしい。早く元の姿に戻って、貴女を抱いて慈しみたいです。貴女の声が聞きたい」
わたしとユイナート様の関係はよく分かっていないけど、彼の発言から、わたしは彼に抱かれたことがあるということが分かる。恐ろしい。なんとかして、避けられないだろうか。
「そんなこと、僕が許さない。戻ったらまずは、お前を殺すから」
「そうですか。貴方に僕が殺せるとは思えませんけどね」
「……それはどういう意味?」
「そのままの意味ですよ」
ユイナート様とセシリオ様の関係は、見ていても全く分からない。見た目からして双子であるだろうに、どうしてこんなにも仲が悪いのだろう。殺すといった物騒な単語も聞こえてくる。セシリオ様が時々仰っていた冒涜者に対する愚痴や悪態は、小さい時の確執から来ていたということなのかもしれない。
わたしの視界は解放されたが、代わりにユイナート様の腕がわたしの身体を引き寄せた。幼いわたしの身体がぴったりと彼の身体に包まれる。セシリオ様の視線はどんどんと鋭くなり、ずっとわたしの背後を睨みつけている。
「だからお前ら、いい加減にしろ。兄弟喧嘩に挟まれる俺とシェミの気持ちも考えてみろ。なんでそんなに仲が悪いのか、知ってはいるが疑問に思えてくる」
「「そんなの……」」
シェンド様の言葉に、セシリオ様とユイナート様は同時に口を開いた。そして、同時に話すのを止める。息がぴったりなようだ。しばらく沈黙が続いたが、仕方がなさそうにセシリオ様が話し始めた。
「そんなの、こいつが僕を見捨てたからに決まってるじゃん。僕はそのせいで、ずっとずっと苦しめられてきたのだから」
「……ええ。それが原因です」
わたしは、その言葉に驚いて思わず後ろを向いた。至近距離に美麗な顔があってすぐに前向きに戻したが、心臓の鼓動が微かに早くなっているのが分かる。
ユイナート様とセシリオ様の秘密が少し解き明かされたような気がする。ユイナート様についての記憶はなくても、どうしてか彼のことを知りたいと望んでいるのだ。
「僕はこいつを殺したいほど憎んでいる。最初は憎しみしか残っていなくてずっと恨んでいたけど、それも嫌になって。だって、こいつのことこんなに嫌いなのに、どうしてこいつのことをずっと憎まないといけないの? だから今は、こいつのことを殺すより、シェルミカを僕のものにする方が優先」
「残念ですが、貴方の望みはどちらも叶いませんね」
「そうかな? お前を殺せなくても、シェルミカは僕のものにできると思うよ」
二人の様子を見てシェンド様はやれやれといった風に首を振っているが、わたしは落ち着かない。彼らが話している内容が、わたしについて、それもわたしが誰のものであるかという話である。わたしは誰のものでもないと言いたいが……それこそ、叶わない願いであるかもしれない。




