過去、或いは現実(3)
場所を移動し、わたし達はどこかの部屋に入った。勝手に入っていいのか分からないが、彼らがためらいもなく入っていくのでそれについていく。部屋に入ると、わたしはユイナート様に手を引かれ、彼の膝の上に座る形となった。とても恥ずかしい。
「シェルミカ。ここに来る前に、変な声が聞こえましたか?」
すぐ後ろから囁くように尋ねられ、落ち着かない。彼は少年姿であるのに、どうしてこんなにも色気が漂っているのだろうか。
「距離が近い」
セシリオ様が不満そうに呟いているが、後ろのユイナート様は少し笑うだけでちっとも離れようとはしなかった。
「……聞こえました。『汝は望む世界は』、と」
「貴女は何か望みましたか?」
「いいえ。何が起きているかも分からなくて、気が付いたら目の前が真っ白になって、子どもの姿になっていました」
問いかけに答えていると、わたしの答えを聞いたシェンド様は腕を組んで首を傾げた。ちなみに彼はわたしの対面のソファーに座っている。セシリオ様は、彼の隣だ。
「シェミでもないとすると、この世界は何だ?」
「かみさまの気まぐれじゃないの。かみさま、そういうことしそうだもん」
セシリオ様は紅い瞳を窓の外に向けながら、小さく呟いた。
「こんなことができるのも、かみさましかいない」
彼の言葉にユイナート様とシェンド様は何も言わず、しばらく沈黙が流れる。わたしは話についていくことができず、自分なりに状況を整理してみることにした。
わたしと同じように、彼ら三人もおかしな状況になっていることは間違いない。自分だけではないことは、少し安心できる。わたし一人だったら訳も分からないままだっただろう。今も分からないことは沢山あるが、彼らが考えていることに比べたら些細なことだと思う。
彼らの話から察するに、あの不思議な声が問いかけてきたように、この世界は誰かが望んでいた世界ということになるのだろうか。ただここにいる四人の望む世界とは違う、といったところだろうか。わたしは特に何も願っていない。何かを願う前に、こうなっていた。
「僕達と同じ状況になっている者が僕達だけとは限りませんが、仮に僕達だけだったとして。どうやったら、元の世界に戻ることができるのでしょうか」
「予想もつかん。過去を変えてみたら、現実に影響はするんだろうか」
「これはただ単に時が戻ったわけじゃなさそうだよ。上手くは表現できないけど、この世界は作られたものだってことは分かる。空間が不安定で、でも高次元で……」
「神がこの空間を作り出して僕達を閉じ込めたということですか? ありえないと言い切ることはできませんね。僕達に共通することとしては、神の声を聞くことができる、といったところでしょう」
「わざわざ遠くにいた俺もここに飛ばされたってことは、神さんが俺達に何かをするよう求めているのか?」
「シドもかみさまの声を聞くことができるの?」
「昔はな。今は聞こえなくなった。が、さっきは何故か聞こえた。ユイトだって、今はもう神の声は聞こえなかったはずだぞ」
ますます、彼らが話している内容が理解できなくなってきた。彼らは当然のように神の話をしているが、わたしは聞いたこともないような話だ。神様の声を聞くことができる人は教会の宝とされ、大切に扱われるというのは常識で知っている。彼らは皆、神様の声を聞くことができる凄い人ということなのだろうか。
「そうですよ。久しぶりにあの声を聞きました。不愉快極まりないです」
「僕もかみさまの声を直接聞くことはほとんどなかった。……ちょっと待って。シェルミカも、かみさまの声を聞くことができるの?」
セシリオ様が視線をわたしに向ける。わたしは首を傾げ、口を開いた。
「わたしは、初めてです」
「実は初めてでもないのですよ。シェミは、過去に何度も、神の声を聞いていました」
「え?」
すぐ後ろから聞こえてきた声に、わたしは驚いて声を漏らす。驚いたのはセシリオ様も同じなようで、目を丸くしていた。
「貴女には昔の記憶がないようですが、僕とシドはよく覚えています」
「ああ。神の声を聞くことができるのは基本男だとされていた。だがシェミも神の声を聞けることが分かってな」
「教会が貴女を保護という名で軟禁するようになり、私利私欲のために利用しようとしたのですよ」
わたしも知らない過去をユイナート様とシェンド様が知っていることには驚いたが、わたしが教会でそのような扱いをされていたということにはもっと驚いた。




