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訓練(2)

 

 昼食を終えた直ぐ、外から大きな歓声が聞こえてきた。わたしは様子が気になり、窓の近くへ寄る。外を覗くと、騎士達がある二人を取り囲んでいた。


「……ユイト様?」


 その内の一人は太陽の光を反射して美しく輝く銀髪の青年だ。遠目でもはっきりとわかる。彼はユイナート様だ。


「試合でもされるのでしょうか」


 ユイナート様と相手のおじ様は共に木刀を構えている。明日の大会に向けて模擬試合でも行うのだろうか。わたしが格子の隙間から何とか様子を見ようとすると、直ぐ後ろから腕が伸びてきて格子に触れた。すると格子が消え、外の景色がよく見えるようになった。


「あ、ありがとうございます」


 カイト様はにこりと微笑み、わたしの隣に立って視線を外に向けた。


「殿下と隊長の一騎打ちですね。これは見物ですよ」

「お相手は隊長様なのですか?」

「ええ。殿下の相手をするのは、近衛騎士団隊長、リゾール殿です。殿下の師でもあるお方なのですよ」


 わたしはユイナート様の相手の方を観察する。彼よりもはるかに大柄な男性だ。彼にも師と呼べる人がいるのだと思うと、不思議な気分だ。


「始まります」


 カイト様が呟くと同時に、二人の姿が消えた。わたしの目には消えたように映った。二人が高速で移動しているのだろう。わたしには時々剣が交錯しているのが分かる程度しか理解できない。

 何も言えずにただ試合を見ていると、だんだんと目が二人の速さに追いついてきた。それでも目が回りそうなスピード感だ。リゾール様が剣を振り下ろすとユイナート様がそれを軽くはじいて一歩前に出て反撃する。状況を整理していたらいつのまにか二人の位置が変わっている。

 ユイナート様の剣捌きは、まるで剣舞を行っているように優雅に見えた。


「……カイト様には全て見えるのですか?」

「ええ、素晴らしい試合ですよ。殿下の方が力量を上回っているのにも関わらず、隊長は殿下を上手く躱している。この試合の中には技術と実力がふんだんに詰められています」


 いつもより気分が高揚しているのか、カイト様は饒舌に語る。彼の瞳には憧れの色が見えた。

 ……それにしても、近衛騎士団隊長よりも力が上回るとは。ユイナート様は最強の剣士なのだろうか。新聞にはシェンド様と戦うというようなことが書いてあったから、ユイナート様とシェンド様の実力は同じくらいなのだろうか。

 そのまま様子を見ていると、ユイナート様の剣がリゾール様の剣を弾き飛ばした。試合が終わったようだ。騎士達が一斉に湧いて、二人の勇士を称えている。


「すごい」


 わたしは思わず呟いてしまう。本当にユイナート様が勝つなんて。実際に目にすると圧巻だ。


「流石殿下」


 カイト様は手を叩いている。わたしはこれ以上何も言葉が出てこず、ユイナート様の姿を目で追った。アルビー様が彼にタオルを渡し、彼はそれを受け取り汗を拭いている。リゾール様が彼の元へ歩み、親し気に談笑を始めた。

 ユイナート様の普段の姿を見る機会は今までなかったので、かなり新鮮だ。


「ユイト様とシェンド様が戦う姿は、想像もつきません」

「シェンド王子も殿下と同じく剣の腕前がかなり高いですからね。今の試合よりも持久戦となり、動きも大きくなるでしょう」


 カイト様の説明を受けながら、わたしはユイナート様とリゾール様が話している様子を見ていた。二人の近くでアルビー様とトア様が話している様子も見える。なかなか見ない組み合わせの様に思え、わたしはカイト様の顔を見る。


「わたし、カイト様とトア様が一緒に話している姿を見たことがありません。お二人は仲がよろしいのですか?」

「私とトアは腐れ縁ですから。幼い頃から共に剣を習い、殿下のお傍でお仕えしていました。アルビーも同様です」

「そうなのですか。知らなかったです」


 ……改めて思うとわたしは知らないことが多すぎる。ユイナート様のこともそうだし、カイト様達のこともそうだ。

 そのままユイナート様達の姿を見ていたが、彼らが後方に目を向けた。わたしもそちらに視線をやると、金色の長髪を伸ばした美女が奥の渡り廊下に立っていることに気が付いた。ユイナート様は軽く片手を上げる。


「サラ嬢が何故こちらへ……。シェルミカ様、少し離れてください」


 カイト様がそう呟き、わたしが窓から離れたことを確認して窓に手をかざした。消えていた格子が再び現れる。ユイナート様がサラ様の元へ歩んでいくのは見えたが、詳しくは見えなくなってしまった。

 騎士達が各々の訓練に戻る。わたしも窓から離れて椅子に座り直した。机の上の本を取り、ページをめくりながら、先程のユイナート様の姿を思い出す。

 ……あんな人から、逃げることなんて不可能なのかもしれない。そんな弱気な考えが一瞬頭によぎり、すぐにそんな考えを消した。

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