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過去、或いは現実(2)


「お前、速いぞユイト!」

「ああ、やっと来たのですか。貴方達が遅いだけでしょう」

「よーく思い出したぞ。お前この頃、バケモンみたいに運動能力が高かったよな。今もそうだが」


 新しい声が聞こえてきて、目をそちらに向ける。日の光を反射して輝く金髪で目の前の彼と同じ色の瞳を持つその少年は、肩で息をしている。急いで階段を上がってきたのだろうか。


「シェルミカ……なんか、久しぶりだな」


 金髪の彼はそう言ってこちらに歩いてくる。わたしは首を傾げて、彼の顔をじっと見つめた。その視線を遮るように、銀髪の彼は立ち位置を変える。


「シド、残念でしたね。シェルミカはあいつのせいで記憶を閉じられているのですよ。ですから貴方のことも、シェルミカは覚えていません」

「なんだと……? シェルミカにもセオにも覚えられていない俺はそんなにも存在感がないのか……?」

「僕のことも覚えていないのです。貴方のことも覚えていなくて当然でしょう」


 彼らは色々話している。話の内容から、彼らはわたしのことを知っていて、わたしも彼らのことを知っているはずだが、何らかの理由で彼らを忘れている、ということだろうか。少し、申し訳ない気持ちになる。


「……申し訳ありません」

「貴女が謝る必要はありませんよ。悪いのは全てあいつです」


 銀髪の彼はにこりと微笑み、わたしの頬に手を添えた。あいつとは誰のことかと聞きたかったが、それよりも先に気になることは沢山ある。


「僕はユイナート。貴女からは、ユイトと呼ばれていました。ですので、ユイトと呼んでください。僕と貴女の関係はそれはそれは深く甘いもので、お互いを愛し合っていたのです」


 彼はわたしから離れ、一礼する。流れるような動作で様になっていて、王子様のように輝いて見える。


「記憶がないのを良いことに変な情報を与えようとするんじゃない。……俺はシェンド。気軽にシドと呼んでくれ」


 金髪の彼は朗らかな笑みを浮かべ、同じように一礼した。後光が差していると思えるほどに笑顔が眩しい。


「わ、わたしはシェルミカです」

「よく知っています。ふふ、今の貴女はまるで人形のように可愛らしいですね」


 銀髪の彼——ユイナート様は、にこにこと微笑んでわたしの手を握る。それを金髪の彼——シェンド様はジト目で見た。


「お前、流石に……」

「何ですか。流石にこの姿のシェルミカを見て抱きたいと思うことはありませんよ。ただとても可愛いのでずっと傍に置いて愛でたいです」

「お前が言うと冗談に聞こえないな」


 彼らがよく分からない会話をしている途中で、再び足音が聞こえてきたのでそちらに目を向けた。


「何でそんなに、早く着くんだよ……」


 大きく肩で息をしながら、その人は顔を上げた。凍てついた雪のような銀色の髪で、その瞳は血のように赤い。ユイナート様とそっくりで、彼が分裂したのかと本気で思った。後から来た彼の視線がわたしに向けられて、その目が見開かれる。


「ちっちゃい、シェルミカ……可愛い」


 彼は紅い目を細めた。その言葉を聞いて、ユイナート様は一瞬眉を動かす。


「僕のシェルミカが可愛いのは当然です。お前は離れて見ていなさい」

「はぁ? 何で?」


 ユイナート様そっくりな彼は不満げな声を上げ、再びわたしに目を向ける。


「ねえ、シェルミカ。僕のこと、分かる? 僕は、セシリオだよ」


 彼の言葉を聞いて、わたしは驚いてじっと彼の顔を見つめた。セシリオ様の瞳の色と彼の瞳の色は同じだが、それはユイナート様とシェンド様も同じである。セシリオ様の髪の色は白色で、彼の髪の色は銀色。そこは異なるが、確かに彼の言動や表情の変化などがセシリオ様と似ている気がする。


「……セシリオ様?」

「そう! 君の大切なセシリオだよ!」


 彼は顔をぱぁっと輝かせて両手を広げた。ユイナート様はにこりと笑みを浮かべ、彼を一瞥する。


「誰が誰の何ですって?」

「僕が、シェルミカの、大切な人」

「ははは……ご冗談を。強引にシェルミカを抱いて卑怯な手を使って彼女の精神を操っているのはどなたでしたっけ。そんな奴が、大切な人になれるわけがないでしょう」

「ふん。お前だって、強引にシェルミカを抱いてたんじゃないの?」


 そっくりな二人は睨み合い、その間に割るようにシェンド様が立った。


「口を開いたら喧嘩するのは止めろ。ごめんな、シェミ。こいつらには色々事情があって、とにかく仲が良くないんだよ」


 この二人の仲が良くないということは、見ていても分かった。

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