邂逅(2)
「話を戻すぞ。俺はさっきまで、アルテアラの王城にいた。ユイトの仕事も片付けながら色々していたら、突然ここに飛ばされてしかも小さくなった」
シェンドとユイナートは椅子に座って対面し、拘束されたままのセシリオはベッドに腰かけてむすっとしている。彼はしばらく騒いでいたが、轡を付けて床に転がっているか口を閉じて座っているかを選びなさいと凄みのある笑みでユイナートに選択を迫られ、今の状態を選んだ。
今、ユイナートは笑みを浮かべてはいない。無表情にしていたらますます見極めがつかないな、と思いながら、シェンドは口を開いた。
「飛ぶ前に、変な声が聞こえたんだ。『汝が望む世界は』、って問いかけられた」
「シドもそうなのですか? 僕も聞こえました。ただ、僕の場合はノースリッジの教会にいたから聞こえたのだと思いましたが、どうしてシドにも聞こえたのでしょう」
シェンドは腕を組んで首を傾げ、ユイナートは顎に指を添えて考え込む。
「視界が白くなる寸前、僕とこいつの魔力が共鳴して神像が光ったように見えました。恐らく一定量以上の魔力を検知して神像が反応したのでしょうが、仮に神からの問いかけがあったとして、ここは誰かが望む世界ということになるのでしょうか」
「俺は特に何も望んだ気はしないな……。直前に酒が飲みたいと思ったから、もし俺が望む世界になっているのであれば、今頃ワイングラスを傾けながらゆったりと休んで楽にしているだろう」
酒が飲みてー、と少年姿のシェンドが言う。彼の言葉を聞いていたユイナートは、微かに首を傾げた。
「僕が望む世界でもありませんよ。僕が望む世界であれば、シェルミカを抱いているでしょうし」
「俺とユイトでもないとするなら……」
シェンドの視線がセシリオに向けられる。彼はむすっとしたまま、不機嫌そうな瞳をシェンドに向けた。
「僕のでもない。僕が望む世界なら、絶対にこいつに会うはずないもん」
「俺とユイトとセオでもないとするなら……誰のだ? まず、俺達以外に同じ状況になっている者はいるのだろうか」
「……いるよ。シェルミカが、いる」
ぼそりと呟くようにセシリオが言い、シェンドとユイナートの紅い瞳は同時に大きく見開かれた。
「シェルミカが……?」
ユイナートは呆然と声を漏らし、シェンドは腕を組みなおして首を傾げる。
「何故セオには分かるんだ?」
「魔力を、感じるから。魔力を感知することはできるのに、魔力が全く使えない。これは、僕だけ?」
「俺も、通常の時と同じようには使えない。ただこの頃に持っていたのと同じ量の魔力なら使える」
「……この頃の僕、こんなに魔力が少なかったの?」
目を丸くするセシリオを一瞥し、シェンドはユイナートに視線を移す。
「なあ、ユイト」
「僕には感じられません。どうして僕に感じ取れないのに、お前には感じられるのです?」
「そんなの決まってるじゃん。あの子が僕のものだから」
「シェルミカは僕のものです。お前のものではありません」
「はいはいお前らその辺にしておけ。色々話したいことがあるのは分かるが、まずはこっちが優先だ」
手を叩いて二人の意識を引き付け、シェンドは大きくため息を吐いた。
「なんで俺が兄弟喧嘩の仲介をしないといけないんだ」
「何か言いました?」
「いや、何も。……ここが誰かの望む世界で、ここにいる俺達のものではない。ならば、シェルミカが望むものという可能性が高いということか?」
「あの子、今は僕のこと以外考えられる状態じゃなかったと思うんだけど」
セシリオの言葉に、ユイナートは体から魔力を滲ませて彼を強く睨みつける。彼はふんと鼻を鳴らし、勝ち誇ったように口角を上げた。
「だから喧嘩するな。お前らがギスギスしていて、セオがユイトを殺したいほど憎んでいることも理解はしているが、一旦その問題は放置しろ」
「承知しています。とりあえず、シェルミカに会いに行きましょう。この時はまだアルテアラの教会もあるでしょうし、彼女がいるとしたらそこでしょう。……そういえばシドは、どうしてすぐにここに来られたのです?」
「丁度、アルテアラに遊びに来ていた時みたいでな。ここがアルテアラの王城だと気づいて、すぐお前と会ってみようと思った。俺と同じようになっているので可能性が一番高いのはお前だったからな」
「流石、正確な判断ですね。では早速、行きましょうか」
ユイナートは立ち上がり、壁にかけられていた上着を手に取ってから扉に向かう。それを目で追いながら、シェンドは椅子にもたれかかった。
「セオ。お前はどうする? ここにいるか? もし邪魔をするなら、俺もユイトの味方をしなくてはならない」
「……ついて行く。ここでずっと拘束されているのは嫌だし、僕も色々知りたいことはあるから」
シェンドは頷き、彼の拘束を解いて立ち上がった。
「じゃあ、行こう。セオ」
「……うん。シド、であってる?」
「ああ。俺はシェンドだが、シドでいいよ。お前からも、そう呼ばれていた」
「そうなんだ。僕、本当に何も覚えていないんだな……」
セシリオは陰りを含む紅い瞳を床に床に向け、シェンドが部屋を出ていこうとするのを見て慌てて彼について行った。




