邂逅(1)
重い頭を上げる。めまいがしてしばらく頭を手で支え、警戒しながら視線を動かす。
「……ここは?」
彼は小さく呟き、自分の声がいつもとは違うことに気が付いて目を丸くした。彼は自分の手に目を落とし、その瞳を瞬く。
「ちいさ、い?」
直後、彼の背後から殺気に近しい魔力が溢れ出た。彼は鋭い視線を向けたが、彼の動きよりも先に、魔力を出している人物は、彼を強く床に抑えつける。
「お前……お前が変なことをしたんだろう!」
「……貴方は」
憎悪で顔を歪める人物を見て、彼は目を丸くした。首に指が食い込んでいるが、彼にとってはその人物を見た衝撃の方が大きかったのだ。
銀髪で紅い瞳を持つ、自分の幼い頃と、そっくりな少年。
「殺してやる……」
しかし、その言葉と表情は彼とは全く異なって見えた。今の彼も昔の彼も、浮かべたことのないような表情を浮かべている、と言った方が適切だろうか。手に力を込められて首が絞まり、眉を顰めた彼は相手の腕を掴んだ。相手が反応するよりも先に、彼は体を器用に反転させて相手の体を倒す。そして逆転して、彼が相手の腕を掴んで羽交い絞めにし、床に拘束した。
「な……は、放せ!」
「懐かしいですね。貴方はこの頃貧弱で、僕に敵いもしなかった」
「ふざけたことを言うな! 早く放せ!」
「事実を言っているだけですよ。それに放したら貴方は僕を殺そうとするのでしょう?」
暴れる相手を抑える力を強めながら、彼は思考を巡らせる。優先すべきは現状の把握と、暴れ小僧をどうやって大人しくさせるか。子犬のように吠えている声を無視して彼は自らの体を確認し、部屋の内装に視線を向ける。
その時、部屋の扉が音を立てて開かれた。
「ユイト、いるか!?」
金髪を揺らして肩で息を吐きながら立つその人物を見て、ユイナートは目を大きく開いた。
「……シド?」
「お前も、俺と同じ状況か?」
少年の姿のシェンドは、大股で部屋の中に入って彼の前に立つ。そして、その視線が下に動いた。
「……なんだ、この状況は」
「この暴れっ子をどうしたらいいと思います?」
「こいつ、セオだよな。こいつも一緒に?」
話が通じているのか通じていないのか分からない。だが、シェンドも彼と同じように何故か子どもの姿になっており、そのことを疑問に思っているのだろう。
「詳しい話は後でします。とりあえずこいつを何とかしないと、僕は殺されるみたいで」
「おお、任せろ」
シェンドは鷹揚に頷き、指を一度鳴らした。その音と同時にユイナートは手を放して立ち上がり、黄金の魔力の紐が代わりに、殺気を滲ませる彼に絡みついた。
「何これ! 解けないし、そもそもどうして魔法が使えないの」
「これで一旦、息がつけますね。これは一体、どういう状況なのでしょう」
「分からん。俺も気が付いたら、こんな姿になっていた」
首を傾げたユイナートを一瞥し、シェンドは拘束された彼に目を向ける。そしてその目は再びユイナートに移った。
「お前らほんとにそっくりだな。顔だけじゃ区別がつかない」
その言葉に、ユイナートは不満そうに目を逸らす。拘束された彼も眉を顰めながら、シェンドを睨みつけた。
「……ていうか、お前は誰?」
シェンドは紅い瞳を瞬いて、わざとらしく胸を抑える。
「流石の俺でも傷ついた。お前、俺のことを忘れたんだな。ユイトのことは覚えているみたいだが……好きだから?」
「「違う」」
二人の声が重なる。瓜二つの彼らは嫌そうに顔をしかめ、互いに睨みつけた。
「こいつが勝手に僕のことを一方的に覚えているのですよ」
「こいつが最低の屑で大嫌いだったから覚えているんだよ」
再び声が重なって、二人の間には火花が散る。その様子を見て、シェンドは大きく頷いた。
「お前らはやっぱ、仲良しな双子だな」
「「仲良しじゃない」」
二人はシェンドを鋭く睨み、睨まれた彼は肩をすくめ、やれやれと首を振った。




