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異端審問(3)


「来る」


 セシリオ様が聞き取れるか聞き取れないか分からないくらいの声で呟いた直後、扉が重々しい音を立てて開かれた。セシリオ様は、それと同時にフードを被る。


 中に入ってきた人物を見て、わたしの意識は彼に引き込まれた。


 両腕を分厚い枷で繋がれたその人は、恐ろしいほど整った顔立ちで、神様から祝福を受けたように美しい銀髪と血のように紅い瞳を持つ。服は擦り切れて汚れているようだが、それすらも彼の美しさを引き立てているように見える。


 それよりも……わたしは、彼の瞳に目を奪われた。紅い瞳。セシリオ様と同じ色で、夢で何度も見た気がする。


 彼の顔をじっと見ていると、彼と目が合った気がした。にこり、と笑みを深められ、懐かしさや恐怖といったよくわからない感情が生まれる。恐怖を抱くのは分かるが、何故懐かしさを感じるのだろう。セシリオ様と、似ているからだろうか。


「座れ、冒涜者」


 彼は中心に置かれていた椅子へと連れていかれ、そこに座る。周囲には、彼を取り囲むように四人の白いローブを着た人達が立った。


「この場所は眩しいですね。あなた達は目が潰れそうだと思わないのですか?」


 微笑みを浮かべながら、彼はそう言う。どこか挑発が込められているような言葉だ。


「沈黙せよ、冒涜者。貴様が口を開くのは、問われた時のみ」


 教皇様の隣にいた人が、低く重い声で答えた。彼は軽く首を傾け、紅い瞳をわたしに向ける。その瞳が氷のように冷たく見えて、勝手にわたしの身体はびくりと震えた。


「冒涜者。貴様に対する罪状は、以下の通りである。第一、アルテアラ王国王都教会への放火および破壊行為。第二、我々の至宝であり神聖なる血を引く『神の愛子』たる姫君の強姦、および誘拐の罪」


 空間全体に響き渡る声で、進行役の人が審問を開始した。


「貴様は、これらの罪を全て認めるか?」


 紅い瞳を持つ彼は、笑みを深める。嘲笑のような笑みだ。


「ええ、認めますよ。ですが、後者については……異論があります。『神の愛子』とか、何ふざけたことを仰るのです? あなた達が勝手に騒いで、勝手に利用しているだけでしょう」


 彼の言葉に、会場がざわめく。見ていた人達が口々に彼を非難するような声を発した。それらの声に耳を傾ける素振りも見せず、彼は言葉を続ける。


「僕は確かに彼女の純潔を奪いました。あなた方が仰る冒涜者に汚された姫君など、通常であれば価値はなくなるのではありませんか? 結局、彼女を道具として利用して、いらなくなったら捨てるのではないのですか?」


 彼が言う”彼女”とは、わたしのことなのだろうか。道具として利用され、いらなくなったら捨てられる。その言葉を聞いたとき、わたしの心臓は嫌というほど音を立てた。


「黙れ! お前のその薄汚い醜悪な言葉で、シェルミカを穢すな!」


 セシリオ様が立ち上がって、今まで聞いたことのないくらい鋭い声を出した。銀髪の彼は、冷たい瞳をセシリオ様に向ける。


「獣の情欲でシェルミカを穢し、お前は彼女に永遠に癒えない傷を与えた!」

「そうですか。それは光栄ですね。永遠に僕の存在が、彼女に刻まれたということでしょう」

「その煩い口を閉じろ。お前のことなど、シェルミカは既に忘れている」

「あなたが先程言っていたことと矛盾しているではありませんか。彼女が僕のことを忘れているのであれば、彼女に心の傷など残っていないはずでは?」


 彼は余裕げだ。余裕そうに微笑みを浮かべているが、その紅い瞳は常に冷たい光を発している。セシリオ様の表情はフードで隠されていて分からないが、彼の瞳もまた鋭い光を発しているのだろう。


「ボス。こいつの処遇なんて、決まっているよね。じゃあ、もう火刑にしていい?」


 セシリオ様は周囲に白い炎を浮かべ、指を彼に向けた。セシリオ様から強い風が吹いてきて、頭の上から抑えつけられるような圧を感じる。セシリオ様から殺気を向けられている今も、彼は表情を変えない。


「枢機卿様、冒涜者を火刑にしてください!」「冒涜者に裁きを!」「やってください、枢機卿様!」「冒涜者を許してはおけない!」


 周囲の人達から、セシリオ様を支援するような声が飛び交う。その声は広間全体に広がっていった。その熱の波に呑まれ、セシリオ様は腕を動かそうとし——。


「待ちなさい、セシリオ」


 教皇様の厳かな声が、それを止めた。様々な声も、一瞬で静まり返る。セシリオ様は、顔だけを教皇様に向けた。


「止めないでよ、ボス。どうせ火刑にするなら、今やっても後でやっても変わらないでしょ?」

「愛姫の前です。執行は、彼女の前で行うべきではありません」


 教皇様の言葉に、セシリオ様は何も答えない。しかし、彼から漏れ出ていた禍々しい力が消えて、感じていた圧もなくなった。そして、彼は無言のまま椅子に座り直す。冒涜者と呼ばれる人は、ずっと微笑んだままだ。


「貴様は、最後まで悔い改めを拒否し、神の慈悲を蹴った。教皇陛下の御心、そして神の御名において、判決を宣告する!」



 進行役の人が、厳粛に腕を振り上げた。その声は、神聖な空間を切り裂くように響き渡る。


「汝を全ての罪状により、極刑、火刑に処す!」


 宣告が下された瞬間、広間は喜びの声に包まれた。神像は変わらぬ慈愛の表情で、空間を見つめている。火刑を言い渡された彼は、わずかに肩をすくめただけで、やはりその表情は変わらなかった。

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