表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/123

異端審問(2)


「おはよう、シェルミカ」


 名前が呼ばれた気がして目を開けると、目の前に紅い双眸があった。宝石のように綺麗で、吸い込まれてしまいそうな紅い瞳。


「ご飯を食べて、眠たくなっちゃったの?」


 わたしは目を擦りながら、身体を起こす。いつのまにベッドで寝転んでいたのかもわからないくらい、ご飯を食べてからの記憶はない。そもそも、ご飯を食べた気はするのだがそれより先の記憶も曖昧だ。昨晩、どこか違う場所にいた気がする。ぼんやりとしか覚えていないので、夢と混ざっているのかもしれない。


「今日は、いいことがあるんだ。シェルミカも、部屋を出て一緒に行こうね」

「……いいこと、ですか?」


 いつもよりセシリオ様の機嫌がよさそう。彼の優しい笑みを見ていたら、わたしも嬉しくなる。


「君に酷いことをしていた男の処分が、やっと決まるんだ。待ちに待った時がきた」


 彼はにこにこと微笑みながらわたしの手を取り、そのままわたしの身体は軽々と横抱きにされた。


「綺麗な服に着替えよう。僕も今日は正装を着るから、夫婦みたいに見えるかもしれないね」

「ふうふ……」

「僕、いつかシェルミカと結婚したい。結婚しなくても僕と君の関係は途絶えないけど、結婚した方がもっと結びつきは深くなるだろうし、何より君が僕のものだっていう証明になる」


 結婚。思ってもいなかった言葉が彼の口から出てきて、わたしは目を瞬いた。彼はわたしを見て目を和らげ、わたしの髪を撫でる。


「さ。遅れたら、ボスに怒られる。あの子が着替えを手伝ってくれるだろうし、君は何もしなくて大丈夫だよ」


 何事もなかったかのように、セシリオ様はわたしを横抱きにしたまま部屋を出た。





 白様に手伝ってもらって、わたしは純白のドレスに着替えた。肌ざわりの良い生地で、シンプルなデザインではあるが純粋な美しさが際立っている。わたしに似合うのか心配に思ったが、セシリオ様が褒めてくれたので、安心する。


 セシリオ様の装いも、いつもより豪華になっている。白が基調なのには変わりがなく、細かな刺繍が施されていて、綺麗だ。彼の紅い瞳が際立って見える。


「では、行きましょう、姫様。お手をどうぞ」


 彼は恭しく頭を下げ、わたしに手を差し伸べた。王子様のような彼の振る舞いにくすりと笑みが零れる。ちらりと紅い瞳がわたしを見たので、慌てて彼の手に自らの手を重ねた。


「僕達の仲を、あいつに見せつけてやろう」


 小さな声で彼は何かを言ったが、聞き取れなかった。

 セシリオ様に手を引かれながら、ひんやりとした廊下を歩く。昨晩にここを通った気がするが、時間帯が違うからか別の場所のように思える。窓から明るい光が差し込んでいて、幻想的に廊下が照らされている。


 ある扉の前で止まった。彼が扉に手を触れると、扉はひとりでに動き出す。魔法なのだろうかと見ていると、扉の隙間から眩い光が漏れ出てきた。完全に開いた時に思わず目を閉じて、薄目で部屋を見る。


 部屋全体が白い。壁面には精巧な彫刻が彫られ、天井は高く中央の天窓から光が降り注いでいる。その光が床で反射しているから、こんなにも眩しいのだろうか。


 その光の中心、一段高くなった祭壇の上に、神像が鎮座している。純白の神像は慈愛に満ちた表情で、わたしを見下ろしていた。


「シェルミカ。移動するよ」


 セシリオ様に声をかけられ、神像から意識が離れる。彼に手を引かれて部屋の中を歩いていると、この部屋が普通の部屋ではないことに気が付いた。裁判所のような構造である。今気が付いたが、白いローブを着た人達が沢山座っている。


 何もわからなくてただ周りを見ていると、昨晩に出会った男の人を見つけた。ここが裁判所であるならば、裁判官が座っている場所に彼はいる。


「ボス。シェルミカ、連れてきたよ。僕ら、そこに座ってもいい?」

「ええ、勿論。……愛姫、こんにちは。貴女に神のご加護がありますように」


 目を瞑った男性は、セシリオ様のボスだったのか。ということは、教皇様ということになるのだろうか。頭を下げて挨拶しようとしたが、セシリオ様に手を引かれてできなかった。わたしは彼に連れられて、教皇様の近くの椅子に座る。わたしがこんなところに座ってもいいのか不安になったが、セシリオ様が優しくわたしの手を握ってくれた。


「シェルミカは、ここに座っているだけで大丈夫だよ。ほら、見て。みんな、君の姿を見ることができて喜んでいる」


 彼の言葉を聞いて白いローブを着た人たちに目を向けると、彼らは頭を下げたり両手を合わせたりした。不思議に思って彼らをじっと見ている間も、彼は言葉を続ける。


「もしかしたら、あいつ……冒涜者が変なことを言ってくるかもしれないけど、気にしないで。全部でたらめで、聞く価値もないものだから」


 冒涜者という言葉は、何度か耳にしている。セシリオ様が話していたからだ。その人は悪いことをしていて、その人が今から裁判を受けるのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ