異端審問(1)
「異端審問?」
「ええ。私は見に行くけど、あなたも見に行く?」
姫の食事の後片付けをしていた時、手伝っていた目を布で覆う彼女が白にそう尋ねた。異端審問。ついにあの冒涜者の罪が暴かれ、刑が処されるのだ。冒涜者の罪というのは明らかで、姫を手籠めにしてことと、以前彼から直接聞いた、アルテアラの教会を燃やしたというものだろう。
「姫様がここにいらっしゃるのであれば、私は姫様のお傍にいます。ですが、彼女も行かれるのでしたら、私も見に行こうと思います」
「枢機卿様は参加されるから、姫様もお連れになるのじゃないかしら」
当然、枢機卿である上司は異端審問に参加する。彼女の言う通り、彼のことだから姫も連れていきそうだ。彼と冒涜者には並みならぬ因縁があることは確実である。あの愛しようから上司が姫を復讐の道具にしているようには見えないが、可能性としては考えられる。
「そういえば、私、枢機卿様に冒涜者との関係を尋ねてみたの」
「え? 彼は何と仰ったのですか?」
白は驚いて、普段は固まっている表情を僅かに動かした。彼女がそんなにも勇気がある人だとは思っていなかった。上司の機嫌を悪くして彼に嫌われたら確実に、絶対零度の視線で見られるようになる。彼の魔力にあてられるだけで、悪夢を見てしまいそうになるというのに。
「冒涜者に直接尋ねてみたらいい、と仰ったわ。これでは、誰に聞けばいいのか分かりません」
……上司らしい答えであると同時に、冒涜者と全く同じ答えでもある。白は顔を強張らせ、動揺を表に出さないように食器を運んだ。落とした。足を動かそうとしたが他のことに気を取られていたため反応が遅く、間に合いそうにない。
「危ないよ」
ふわり、と風が舞い上がり、落としたと思った食器が宙で静止した。まさかと思って後ろを見ると、白髪の青年が笑みを浮かべながら立っている。
「シェルミカは君のことを気に入っているみたいだからね。君が怪我をしたら、あの子が悲しんでしまう」
彼は指揮を振るように指を動かし、その動きに従って食器がひとりでに動く。そして、白の手の中に戻ってきた。
「お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「大丈夫」
白が頭を下げると、彼は微笑んだまま手を軽く振った。いつもよりも、彼の機嫌がいい。彼の機嫌が悪い時であったら、確実に落とした食器を拾おうとはしてくれないだろうし、落とした後に冷たい紅い瞳を向けられるだけで終わっただろう。
彼はそのまま、姫の部屋へと向かう。しかし途中で彼は白達の方を振り向いた。
「シェルミカは連れていくよ。だから君達も、見に来るといい。今回こそは、面白いものが見られるはずだから」
きっと彼に、先程の会話を聞かれていたのだろう。上司の姿が見えなくなってから、白は肩から力を抜いて息を吐く。
「枢機卿様、今日はご機嫌がよろしそう」
「そうですね……」
異端審問が滞りなく進行し、滞りなく終わることを強く願う。万が一にでも何かが起こったら、上司の機嫌は一気に地を這うことになりそうだ。




