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訓練(1)


 ——ぼんやりと光が目に入ってくる。わたしは目をこすって体を起こした。

 ベッドから降りるときに、錠の下で手首がタオルで覆われていることに気が付く。タオルを外すと、痣ができている。ユイナート様に強く掴まれた時にできたものだろうか。

 今日はなんだかいつもより体がましな気がする。昨晩のユイナート様は穏やかだったように思える。昼に失言をしてしまったのに、やはり彼は気まぐれだ。それに、今日は彼の夜伽がない日だ。気分が軽い。

 寝室を出て椅子に座る。しばらくぼーっとしていると、部屋の扉が叩かれた。


「失礼します、シェルミカ様」


 食事が運ばれてきて、最後に今日の監視のカイト様が入って来た。わたしは食事をし、食べ終えるといつものように侍女の方々に身なりを整えられる。


「何か欲しいものはありますか?」

「今日の新聞をお願いします」


 新聞を手渡され、わたしは一通りそれに目を通す。大きな見出した明日の魔導騎士大会についてだ。ユイナート様が参加すると書かれている。


「ユイト様が参加なさるのですか?」


 わたしは驚いて思わず声を出してしまう。ユイナート様は細身だが筋肉がすごくあり、確かにとても強そうだとは思っていた。闘っているところは見たことがないので、彼が騎士に及ぶほどの強さだということに驚いた。


「トアの代わりという形で殿下が参加されます」


 カイト様がそう言った。自分が参加することを選ぶ程、わたしの監視をなくしたくないのだろうか。


「カイト様は参加なさるのですか?」

「はい。殿下が御参加なさるので、騎士達は盛り上がっています」


 明日はユイナート様が城にいらっしゃらない……もしかしたら、夜伽もなくなる可能性があるかもしれない。それに、外の騎士訓練場に人がいない。なんとかトア様の目を盗むことができたら——。


「シェルミカ様?」

「あっ。申し訳ありません」


 思わずカイト様の姿を見つめてしまった。彼から隙を見つけることができたら、トア様相手でもなんとかできる可能性があるかも。そう考えたが、一つも隙を見つけることができない。それに、一瞬の隙を突くだけでは、直ぐに捕まるから意味がない。お仕置きが辛くなるだけだ。


「何か気になることでも?」

「だ、大丈夫です。何でもありません」


 ……変に思われたかもしれない。カイト様がわたしを見ている。思わず彼から目を逸らしてしまった。

 その後は彼から話しかけられることはなかった。わたしは本を読むふりをしつつトア様の目を盗む方法を考えたが、全く思いつくことはなかった。



 ユイナートは騎士訓練場を訪れていた。彼の姿を認めた騎士達は訓練を中断して一斉に頭を下げる。彼は片手を上げて訓練を続けるように指示を出す。


「お疲れ様です、殿下」

「ええ。皆気張っているようですね」

「何しろ殿下が御参加なさるので、皆いいところを見せようとしているのです」


 ユイナートに話しかけた強面の男に彼は微笑みかける。強面の男は近衛騎士隊長であるリゾールで、ユイナートの師でもある。


「僕の一番の目的は、シェンドでもありますよ。彼と剣を交わすことを楽しみにしています」


 ユイナートは訓練用の剣を持つ。そして笑みを深めながらリゾールを見た。


「お相手願えますか、我が師?」


 彼らの会話が聞こえたのか、周りの騎士達が二人の様子を見ている。それに気が付いたリゾールは、苦笑いを浮かべて頬をかいた。


「手加減してほしいものです、我が弟子殿」


 騎士達は盛り上がり、二人を取り囲んだ。ユイナートは確認するように木刀に触れる。そして軽く二度足先で地面を叩いた。

 しかし彼は突然視線を上に向ける。周りの騎士達も彼につられて上を向いた。彼の目線の先にはシェルミカの部屋がある。

 騎士達はユイナートに愛人がいることを知っており、彼女を守ることを指示されているのだ。そのため、一度彼女が窓からの脱出を試みた時には、騎士達に拘束された。


「……シェルミカ?」


 ユイナートは誰にも見られない角度で眉を上げる。シェルミカが窓から騎士訓練場を見ていたのだ。窓の格子が外れているのはカイトの仕業だろう。彼女の隣にカイトが立っている姿が見える。

 シェルミカはユイナートが彼女を見ていることに気が付いていないようだ。ただぼんやりとした瞳でユイナートの姿を見ている。


「歓声が聞こえたか」


 誰にも聞こえない声量で彼は呟き、集中が途切れたことに気が付いて再び試合に意識を向ける。しかし彼はどうしても自分を見ているであろう彼女の事が気になった。


「殿下。少し後に始めますか?」


 リゾールはシェルミカを見てユイナートの気が散ったことに気が付き、そう提案する。彼は思案して、首を横に振った。


「いいえ。僕の雄姿を見せる良い機会です」


 ユイナートは微笑んで木刀を低めの位置で構えた。リゾールも目の前の位置で木刀を構え、姿勢を低くする。騎士達は一気に張り詰めた雰囲気に息を飲んだ。

 開始の合図はなかったが、二人は同時に地面を蹴った。


 

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