冒涜者(4)
「それはこっちの台詞だよ。お前を捕らえていることで、常にお前の魔力を感じないといけないのだから」
白が思い浮かべた人物が姿を現わして、彼女は驚いて慌てて頭を下げた。目を布で覆う少女は彼の声で気が付いたのか、白と並んで頭を下げる。
「そうですか。なら、拘束を解いたらいいのでは?」
「そうしたらお前が逃げるだろう。良い気分はしないけど、悪い気分でもない。だって、お前が無様にこんなところに囚われているのだもの。最高の景色だよ」
「そうですか。良かったですね」
フードを被っている彼の表情は見えないが、どんな表情なのか大体予想はつく。不機嫌そうに紅い瞳が鋭い光を放っているのだろう。囚われている冒涜者は、常に余裕げに微笑んでいるが、その笑みからはどことなく闇を感じられる。
「いつまでそんな余裕を保っていられるか、見ものだね」
「生憎僕は貴方と違って我慢強いので、貴方が望むものは見せられないかもしれませんね」
「……お前は僕を苛立たせるのが上手いなぁ」
フードを被った彼は、鉄格子を掴んでそれを強く握った。彼の周囲の魔力が揺れていて、壁と同化して立つ白達はその魔力にあてられて冷や汗を出す。体が震えださないよう、必死に恐怖を抑えつけた。
「お返しに僕もお前を苛立たせてあげる。シェルミカだけど、あの子はもうお前のこと忘れたよ? お前はあの子に会うために来たのだろうけど、それは徒労に終わるんだ。シェルミカは僕のものだからね」
冒涜者は紅い瞳をゆっくりと細め、フードを被る彼を微笑みながら睨みつけた。その眼差しはかなり剣呑で、彼の思惑通り冒涜者の精神を逆なですることに成功したことが分かる。
「シェルミカは貴方のものではない。僕のものだ」
「負け惜しみにしか聞こえないな。僕がシェルミカを愛しているように、シェルミカも僕を愛してくれているんだ」
「お前のその感情は偽物でしょう? お前はとっくに憎しみに支配されていて、僕だけを恨んでいるのでは?」
「あー煩い煩い。確かに僕はお前を恨んでいるけど、僕が持っているのは憎しみだけじゃない。あの子が僕に、別の感情を教えてくれたんだ。そもそも、お前のことを考えることすら腹立たしいのに、お前だけを恨むなんて、虫唾が走るよ」
「そうですね、お前は世界を恨んでいるのでしょうから。神にその身を売るなんて、哀れな男ですよ」
似た声の二人が口論を始めた。声だけを聞いていると、どちらがどう話しているのか分からなくなってくる。言葉遣いが丁寧な方が冒涜者だということは分かるが、二人とも一人称が「僕」だし、相手の呼び方が「お前」である。冒涜者の方は、素が出たのか途中から変わっている。
話を聞いている限り、二人は古い時からの知り合いなのだろうか。互いが互いを嫌悪しているようだが、ただ単に憎しみ合う関係ではなく、もっと別の、深い関係が隠されているようにも思える。それは、この二人の容姿が似ていることと繋がりがあるのかもしれない。これ以上深入りすると、面倒なことに巻き込まれそうなのでやめておこう。




