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冒涜者(3)


 姫が眠ったのを確認して、白は彼女が冷えないように毛布を被せた。そして、白は部屋を出ようと姫から離れる。

 その瞬間、白の背後に強大な魔力が現れた。この魔力には慣れているので、白は後ろを向いて頭を下げた。


「シェルミカ、もう寝ちゃったんだ。今日は悪夢を見ないといいのだけど」


 フードを被ったその人は、姫の頭を撫でる。そして、フード越しでも分かるように頭を動かして、白を見た。


「今日もご苦労様」


 彼の言葉に白は深々と頭を下げる。彼がこのように労う言葉をかけるのは珍しい。


「冒涜者を捕まえたよ。地下牢に行ったら、面白いものが見られるかもしれないね。僕は後で見てくるけど、君も見てみたらいいよ」


 そう言って、彼は話は終わったと言わんばかりに姫が眠る寝台に腰掛けた。いつもであれば彼はフードを外すのだが、今は被ったままだ。何かあったのかもしれないが、深入りする必要はない。

 白はこちらを見ていない上司に再度頭を下げて、音を立てずに部屋を出た。

 廊下を歩くと数名の同志とすれ違う。その内の一人が彼女に声をかけてきた。


「枢機卿様は、愛姫様のお部屋にいらっしゃるの?」


 白と同年代の彼女は、目を白い布で覆っている。彼女の瞳は、貴族の遊戯によって失ってしまったという話を聞いている。枢機卿の彼から指導を受けて、彼女は魔力を探知することによって周囲の状況を把握しているのだ。


「ええ。彼は、地下牢を見に行くと良いと仰いました」

「冒涜者が囚われているから、それを見に行くの? 私は見に行っていないけど、他の者達は見に行っているようね」

「一緒に見に行ってみますか?」

「……そうね、興味はあるわ。枢機卿様以外では相手にできないその冒涜者の魔力がどの位なものか、気になるもの」


 白と彼女は共に並んで、地下牢に向かうために足を動かす。すれ違う同志達と時折声をかわしながら歩くうちに、地下牢に通じる扉の前に辿り着いた。


 扉の前で警備をする同志に声をかけて、中に入る許可を得る。そして、重い扉が開けられ、二人は暗く冷たい階段を下りた。無機質な足音だけが響き、薄気味悪さで白の歩みは意識せずとも速くなる。

 階段を下りてしばらく歩くと、牢が見えてきた。誰もいないいくつかの牢の前を歩くと、全身が震えあがりそうなほどの魔力を感じ取った。最も奥の牢に、冒涜者が囚われていることが分かる。


「……枢機卿様の魔力を感じる。それも、かなり強大な魔力」


 目を布で覆う彼女は、魔力に敏感な分これ以上進むのを躊躇っているようだ。確かに、この魔力の中を歩くことはかなり精神に悪い。自分より遥かに強い魔物に睨まれている気分になるのだ。


 白は、一歩ずつ恐る恐る進み、牢の中を覗く。


 神の祝福を授かったような美しい白銀の髪を持つ青年が、壁に背を預けて目を瞑っていた。微かに肩が上下しているので、生きていることは分かる。不可視の魔力に体が拘束されているのか、その端麗な顔に汗を浮かべている。


「……見世物にでもなった気分ですよ」


 青年はよく通る低い声で言葉を発しながらゆっくりと顔を上げ、瞼を開けた。白はその血のように紅い瞳を見て、思わず息を飲んだ。


「冒涜者が無様に囚われている姿を見て、面白いですか?」


 彼は微笑みを浮かべて白に目を向けた。その微笑みからは、囚われているとは思えないほどの余裕と優美さを感じ取れる。身じろぎ一つできないほど強く拘束されているだろうに、その顔に苦痛の色は一切見えない。汗を浮かべていることから、体に堪えていることは分かるのだが。

 白は突然話しかけられて、言葉を発することができなかった。青年の瞳から目が離せない。


「忌々しい魔力に囲まれて、最悪の気分ですよ」


 青年は興味を失ったように白から目を離して大きく息を吐く。

 その瞳、その動作が、別の誰かと重なる。彼の顔をよく見ると、どことなくあの人と似ているような気が——。

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