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姫様(1)


「姫様。食事がお口に合いませんでした?」


 顔を隠した、純白のローブに身を包んだ女は、ぼんやりとした瞳で机に並んだ食事の手を止めた主の姿を見て声をかけた。敬愛する姫が不快に思うものは、全て排除しないといけない。女は内心で、料理長を変えるべきかと考える。


「……いいえ」


 消えてしまいそうな声量だが、神からの祝福を受けたように可憐な声である。その声を聞けたことに感謝しながら、名を持たない女——姫からは白と呼ばれる者——は、小さく首を傾げる。首を傾げたかどうかは、姫からは見えないだろうが。


「枢機卿様は、今は冒涜者への対応にお忙しいようです」


 常に感情の籠らない笑みを浮かべた上司の姿を思い浮かべ、白は小さくため息を吐く。美しい上司は、彼女が敬愛する姫を強引に手籠めにしているため、白はあまりいい気分を抱いていない。彼が姫を抱くたびに、姫はどんどん壊れていく。


「……セシリオ様?」


 眠たそうな瞳をした姫は、白の言葉に反応した。最近では話に反応しなくなっていた姫が上司の名前にだけ反応するということを彼が知ったらとても喜びそうだ。絶対に報告しないことを決めながら、白は姫にも見えるように大きく頷いた。


「枢機卿様は大変お強いので、心配はいりません」

「セシリオさま、会いたい……」


 姫がぼそりと呟いた言葉に、白は思わず眉間に皺を寄せた。フードで顔が隠れているとはいっても、こんな表情をするのはよくない。白はすぐに表情を繕い、聞かなかったふりをする。上司がこれを聞いたら、彼女を抱き潰してしまう可能性がある。

 姫は、どこか遠くを眺めているようにも見える。思い浮かべている顔は、上司なのか、はたまた別の誰かなのか。別の誰かであった場合、上司が恐ろしいほど嫉妬して、逆に抱き潰す危険性が高くなる。


「姫様、残念ですが——」

「僕に会いたいと言ってくれるなんて、とても嬉しいよ。生きていて良かったって思える」


 白の言葉を遮る声があった。白は頭を深く下げ、壁と同化するために一歩後ろに下がる。彼女の上司はいつものように神出鬼没で、登場を予測することができない。転移魔法で直接部屋の中に来るなど、本来であれば考えられないような方法だ。

 彼は流れるようにフードを脱いで、後ろから姫を抱き締めた。そのままゆっくりと彼女の頭を撫でる。


「愛しているよ、シェルミカ」

「セシリオさま」


 姫は心地よさそうに目を瞑って、上司の腕に頬を寄せる。こうやって見ると、仲睦まじい二人だが、上司の瞳から滲み出る感情は、明らかに正気ではない。昏さを帯びた瞳は、どうやったら姫の心を満たせるかを考えているのだろう。


「やるべきことは終わっていないのだけど、君に会いたくて来ちゃった」


 上司は目を和らげて、姫の頭を撫でた。まるで宝物に触れるように、優しく撫でているようだ。しかし、その瞳はとにかく異常だ。姫を飲み込むように昏い。

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