計画
「大した用じゃなかったら許さない」
白髪の青年は苛立ちを隠さないまま、壁際で影のように立つ白いローブに身を包む者を睨みつける。その者は深々と頭を下げた。
「大変申し訳ありません。ですが、枢機卿様にしかお願いできないことです。アルテアラの王太子がこちらに攻め入ろうとしていると、同士から連絡がありました」
また若いと予想できるその男の言葉に、セシリオは紅い瞳を瞬く。そして、白髪を揺らしながら首を傾げた。
「ふぅん……やっと動き出したんだ。それで、僕が止めたらいいの? ボスからの命令?」
「はい。我々では、あの冒涜者を倒すことができません」
「僕としては、もうちょっと後にしたいんだけどなぁ。まだシェルミカを僕のものにできていないのだもの。完全に僕のものにできてから、あいつに見せつけてやりたいんだ」
怪しい笑みを浮かべたセシリオは、まだ明るい空を見上げながら窓際に立つ。
「僕達の大切な『姫様』は、絶対に奪わせないから、安心してね。……で、他には何が?」
「タンダ王国の国王が、枢機卿様に会わせろと喚いているそうです」
「戦争で魔力を沢山集められたし、もう用済みなんだけどな。上手いこと始末しておくべきかな……。タンダの国王がいなくなったらそこの領地はアルテアラのものになるだろうし、それは癪だけど、仕方ないか」
普段の調子に戻ったセシリオは、感情のない笑みを浮かべて男を見た。男は恭しく頭を下げ、それを見たセシリオは、興味を失ったように目を逸らした。
「一回、ボスと直接話をしておいた方がいいかもね。君は君のやるべきことをやっておいで」
「かしこまりました」
セシリオは男の返事を聞く前に、転移魔法を発動させた。座標が移動してすぐ、彼は迷わず目の前の扉を開ける。中にいた彼の上司は、驚くことなく彼に顔を向ける。目を閉じているが、扉を開けた音で気が付いたのだろう。
「貴方、最近『愛姫』の相手をしすぎているのではありませんか?」
「必要なことだよ。僕の魔力を直接注げたおかげで、順調に『愛姫』の精神調節が完了しそう。『月華の王子』のことも忘れて、完全な僕のものになろうとしているよ」
「彼女は貴方のものではなく、神のものだと何度も言っているのですが……まあいいでしょう。計画は滞りなく進んでいますから」
セシリオは上司の隣に並んで、神像を見上げた。水晶には、以前見た時よりも魔力が込められている。順調に魔力が集まっているようで、上司は満足そうだ。そんな上司を横目で見ながら、セシリオは口を開く。
「僕、シェルミカのこと好きになっちゃった」
「それはいいではないですか。『愛姫』と貴方の子は、きっと神も気に入ってくださるでしょう」
予想していなかった返答に、セシリオは微かに目を丸くして、すぐに感情の籠らない笑みを浮かべた。
「ボスがそう言ってくれるなら、大丈夫か。その前に、僕からシェルミカを奪おうとする冒涜者を倒さないと。彼がいたら、ボスの計画が狂っちゃうかもしれないしね」
「アルテアラの王太子への対処は、貴方に任せます。彼と対面するのは、貴方の望みでしょう?」
閉じられたままの目を向けられ、セシリオはしばらく黙り込む。そして、自嘲するように口元を笑みの形に歪ませると、彼は瞳に憎悪の色を浮かべた。
「そう。あいつの顔を、歪ませてやりたい」




