白い部屋(1)
——なんだか、懐かしい夢を見た気がした。
心が温かくなるような、同時に心が苦しくなるような、そんな夢だった。
「——様。姫様、お目覚めですか」
誰かの声が聞こえてきて、わたしは目を擦りながら体を起こした。ぼんやりとした視界のまま、ゆっくりと周囲を見渡す。
全く見覚えのない部屋にいる。色が抜け落ちたような、真っ白な部屋だ。わたしの傍には、純白のローブを羽織った、顔を隠した人が立っていた。
「……ここは?」
「姫様のお部屋です」
端的な答えが返ってくる。声からして女性だろうが、彼女からは生気を感じることができず、何だか気味が悪い。
肌寒く感じ、自分の格好に目を向けると、肌着のような薄い真っ白な服を着せられていた。レースのリボンだけが装飾されている。
わたしは何か情報を得るために、恐る恐る彼女に話しかけた。
「あの、貴女は……?」
「私は姫様のお世話をさせていただきます。どうぞ、『白』とお呼びください」
「白……?」
これがこの人の名前なのだろうか。それより、気になることが沢山ある。
わたしはさっきまで、王城にいたはず……。そこで何か大切なものを見た気がするけど、それを思い出そうとすると、頭が酷く痛む。
「その、姫様と言うのは、わたしのことですか?」
「はい」
「……わたし、王城にいたはずなのですが」
「枢機卿様が、姫様を救い出してくださいました」
「枢機卿様?」
「僕のことだよ」
わたしが首を傾げると、白様の隣の空間が歪んで、白髪の青年が姿を現した。白様は彼を見て、深く頭を下げ、どこかに去っていった。
いつもと同じ、感情のない笑みを浮かべている彼の姿を見ると、少し気持ちが落ち着いた。セシリオ様は微笑みながら、わたしの頭に手を乗せる。そのまま優しく頭を撫でられた。
「あの子は真面目で話がしにくいと思うから、僕が君の疑問に答えるよ」
「……セシリオ様。あの……」
聞きたいことは沢山あるのに、言葉が出てこない。セシリオ様は紅い瞳を細め、細い指でわたしの髪を梳いた。
「ゆっくりで大丈夫だよ、シェルミカ。落ち着いて」
「……ありがとうございます。あの、ここはどこなのですか?」
「ここは、教会だよ。この部屋は、君の部屋。もっとおしゃれにして君を迎えたかったけど、急ぎだったからこんな殺風景になっちゃった。ごめんね」
セシリオ様につられ、わたしは部屋を見渡す。扉は一か所だけあり、窓は一つもない。最低限の物しか置かれておらず、誰かが暮らすために用意された部屋のようには見えなかった。寧ろ、誰かを閉じ込めるための部屋のようにも思える。天井は高く、無機質な光が部屋を照らしている。
「枢機卿様というのは?」
「教会での僕の立場と言えばいいかな。ボスの次に偉い人だよ」
セシリオ様は教会の人なのだと初めて知った。それならば、彼のボスというのは、教皇様のことなのだろうか。そんなに偉い立場のセシリオ様が、どうしてわたしに構うのだろう。
ぼーっと彼の美しい顔を眺めていると、何故だか彼とユイナート様の面影が重なった気がした。瞳の色が同じだからだろうか? 彼はわたしが見ていることに気が付いたのか、わたしを見て笑みを深めた。
「どうしたの、シェルミカ」
「……いいえ、何でもありません。それより、わたしは先程まで王城にいたはずなのですが」
「僕が君を連れて来たんだ。勝手なことをしてごめんね。でも、僕の仕事だったし、これが君にとっても一番いいことだと思うよ」
落ち着いた単調な声を聞いていると、わたしがどうしてここにいるのか、何故記憶が曖昧なのかということも、どうでもよくなってくる。考えれば考えるほど、頭がぼんやりとする。




