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怪しい人物(1)


「なあ、マラト。まだ進むのか?」

「隊長に言われたからには、任務を遂行しなくてはならない。バルド、お前はまだまだ体力をつける必要があるな」


 バルドは、隣で悠々とした顔をしている茶髪で黄色い目の青年、マラトをジト目で見た。彼はバルドと同じタイミングで騎士見習いとなった、同僚の関係である。

 今は隊長リゾールに命じられて、武装しながら森の中を二人で歩いていた。どうやらこの森で怪しい人物を見かけたらしく、手を離せない師匠達の代わりに様子を見に来ている。その人物が危険人物で、とても強かった場合、手も足も出ずに殺されるだろうに、とバルドは内心で思う。


 戦況をよく理解しているであろうリゾールやトア達がバルド達を送り出すことを指示したので、それほど危険性はないと判断されているのかもしれない。もしくは、マラトの実力がバルドよりも遥かに高いため、平気だと思われたのか。

 戦争中で、二人だけがこんな森の中を歩いていたら、大勢の敵に見つかってしまったら捕虜にでもされてしまいそうだ。


「特に怪しい者は見当たらないな」

「一旦戻ってそう報告しないか? このまま進んで、俺達が消息不明になるよりも戻る方がいいだろう?」


 マラトから返事がなく、バルドは彼の顔を見た。マラトは目を鋭くさせて、手に持った剣に魔力を込めている。


「マラト?」

「集中しろ。誰かいる」


 彼の小さな声に、バラドは慌てて周囲の魔力を探りながら背負っていた槍を構えた。マラトに言われなければ気が付かなった程、若干の魔力の揺れを捉える。


「……かなりの手練れだ」


 マラトは剣を低めに構えながらそう言い、バルドは息を飲んで戦いの姿勢をとる。常に放出されている魔力を抑えて他人が探知できないようにすることは簡単には行えない。少なくとも、まだバルドには上手く扱えない。更に、探知できる魔力の量が少なければ少ないほど、魔力の扱いに手慣れており、比例して強者であるといえる。

 簡潔に言うと、この隠れている人物は、強者だということだ。


「隊長に連絡することは可能か?」


 マラトの言葉に、槍を構えながらバルドは懐の魔道具を取り出す。緊急事態にのみ使えと言われている、連絡用の魔道具だ。魔力を込めると、対応している魔道具に連絡が行き届くシステムになっている。

 周囲への警戒心を解かないまま、バルドは片手で魔道具に魔力を込めようとした。しかし、その瞬間二人の頭上から水が降ってきた。


「……っこれは!」


 反応できないバルドに対し、マラトは瞬時に判断して二人の頭上に防御魔法を展開させた。水が防御壁によって跳ね返る。金属のようなその音からただの水ではないことがよく分かる。

 頭上に気を取られている内に、背後から何かが近づいてくる気配がした。バルドは振り返ってそのまま対応——しようとして、動きを止めた。

 首元に、刃物が添えられている。


「それ以上動いたら殺します」


 冷や汗を流すバルドの背後から、低い声が聞こえてくる。マラトに視線を向けるも、自分が人質にとられているせいで彼は動けないようだった。


「無駄な殺生はしたくないのです。貴方達の上司の元に連れて行っていただけますか?」

「……何が目的だ?」


 されるがままではおられず、バルドは何とか声を出す。返答はないと予想していたが、背後の人物は感情を読ませない声色で述べた。


「彼らと話がしたいのです」


 冷たい汗が額に浮かぶ中、バルドは再びマラトに視線を送った。彼は小さく首を振って、鋭い目でバルドの後方にいる人物を睨みつける。バルドは手元で槍を持ち直して、反撃できる機会を窺う。しかし、背後の人物からは隙が感じられない。下手に動いたら、瞬時に首がかき切られるだろう。


「……分かった、お前を連れて行こう」


 マラトは長い間考え込み、そう言った。首元に添えられたままの刃物のせいで、彼も自由に動くことができないのだろう。この人物に逆らうと、バルドはおろかマラトも殺されてしまう可能性がある。そう判断したのか、マラトは相手を警戒させないように剣を下ろした。

 背後の人物は、刃物を持つ手を緩めた。その瞬間を狙って、バルドとマラトは同時に動く。周囲の魔力の様子を常に窺っていたバルドは、増援が来たことに気が付いていた。そのため、刃物が首から離れたことを確認してからすぐに抜け出して離れた場所に移動する。


 青髪の騎士が、全身真っ白なローブに覆われた人物と相対している。途中で黒髪の騎士も合流し、二対一の争いになっていた。バルドはこの白いローブに見覚えがあった。苦い記憶が蘇ってくる。

 前回トアが相手した『神の使徒』は、下っ端だったのか簡単に戦闘不能にされていたが、顔を隠しているこの者は強者であることが伝わってくる。トアとカイトが二人で相手をしているが、全く焦る気配を見せていない。それどころか、二人の方が押されているようにも見える。相手が恐ろしいほどの実力者であることが分かって、バルドは手伝おうにも足手まといになるだけだとその場から動けなかった。


 『神の使徒』は主に魔法で二人に対応している。このような淀みなく正確な魔法の発動は、一般人には不可能だ。トアとカイトの連携は凄まじいが、『神の使徒』は余裕で躱し、反撃している。

 その瞬間、カイトの体がバルドの横を吹き飛んでいった。彼は空中で一回転し、バルドの隣に立った。口を切ったのだろうか、カイトは口元の血を拭いながらまっすぐと『神の使徒』を見据え、マラトに声をかける。


「マラト。少しだけ変われる?」

「はい、お任せください!」


 マラトはカイトと入れ替わる形で戦闘に参加した。バルドの仕事は、足手まといにならないように少し離れた場所から魔法で援助するくらいである。


「カイト様。俺は何をすれば……」

「そのまま魔法でかく乱しておいて。遠慮なく打ち込んでいいから。私は殿下に連絡をする」


 カイトは懐から連絡用の魔道具を取り出して、魔力を込めた。トア達の戦闘に巻き込まれないように警戒しながら、彼は話し始める。


「殿下、カイトです。『神の使徒』と遭遇しました。幹部相当の実力者であると思われます」


 『神の使徒』が時折こちらに魔法で攻撃してくるので、バルドは何とか防御魔法で防ぐ。一瞬、『神の使徒』が顔を隠しているのにも関わらず、バルド達の方を見た気がして、バルドは鳥肌が立つ思いをした。


「——座標、把握」


 『神の使徒』が端的に述べて、バルドの視界は白く染まった。

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