始まる戦争
起きて体を動かすのが気怠いのは、久しぶりな気がした。
もぞもぞと布団の中で体を動かして顔を出して、水を手に取って口に含む。乾いた喉に水が染みわたり、生き返る心地がした。目を擦って、ベッドから降りる。ぼんやりとはっきりしない頭を手で支えながら、寝室を出る。
窓の外を見ると、太陽の光が差し込んでいた。ミハイル様から貰った薬が効いたのか、はたまたユイナート様との行為で意識を失うように眠ったからか、あの夢を見ることはなかった。
時計に目を向ける。いつもなら、とっくに朝食を食べている時間なのに、誰も部屋を訪れていない。不思議に思いながらも、部屋の扉が叩かれるのを待った。
何も考えずに窓の外を見て、素振りをしている騎士達を眺めていると、部屋の扉が叩かれた。そちらに目を向けると、ニーナ様達侍女が入って来た。しかし、カイト様の姿は見えない。
「……カイト様は、どうなさったのですか?」
気になって尋ねると、ニーナ様は困ったように眉を下げた。彼に何かあったのだろうか。そんなわたしの不安を読み取ったのか、ニーナ様は優しく微笑む。
「カイト様ご本人に何かあったわけではありません。その点はご安心ください」
そして、彼女は憂いの滲む瞳を窓の外に向けた。
「——戦争が、始まりました」
その言葉を聞いて動きを止めたわたしには、朝食が並べられる音と、青い空を気持ちよさそうに飛ぶ鳥達の声が、やけに大きく聞こえた。
「トア様とカイト様も、前線で戦われるのでしょうか」
「私は詳しい情報を聞いておりませんが、お二人はとても強い騎士なので、その可能性は十分に考えられます」
ニーナ様の言葉にわたしは目を伏せて、スープを一口飲んだ。ついに戦争が始まったということに、ショックを受けている。戦争が始まるということは、下町の人達の生活も大きく変わってしまい、人が大勢死んでしまう。いくら強いトア様とカイト様であっても、無事でいられるという保証はない。
気分が落ち込んでしまい、わたしは無心で食事を進めた。戦争が近づいていることは知っていたけど、いざ戦争が始まると、胸の奥が締め付けられるように苦しい気分になる。またユイナート様も無理し続けてしまうのではないだろうか。
食事を終え、部屋の中はわたし一人になった。このように、部屋の中で一人になるのと、監視が置かれるようになった以前の時のことを思い出す。あの頃は、何故自分がユイナート様に囚われているのかが分からず、ずっと不安に苛まれていた。今でも彼に囚われている理由は完全には分かってないけど。
監視がいないからと、ここから逃げ出そうという気持ちにはならない。部屋を出ても、ユイナート様からは逃れることはできないと分かっている。酷いお仕置きをされるだけだ。それに、彼がわたしの相手をできないほど忙しい時に逃げるのは、戦争を利用しているみたいで嫌だった。
わたしは、最新の新聞を読みながら、これからどうしようとぼんやりと考えた。




