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満月の夜(4)


「ユイナート殿下。その続きは私達の目がないところで行ってください」


 からかうような声色で、わたし達を見ていたミハイル様にそう言われ、恥ずかしすぎて穴があったら入りたかった。ユイナート様は一切動揺せず、彼を一瞥する。


「ええ、そうですね。続きは部屋に戻ってからするとしましょう。一日くらい睡眠をとらなくても——」

「駄目です、ユイト様。ちゃんと寝てください」


 ユイナート様の言葉に思わず口を出してしまった。言ってからわたしははっと我に返り、目をさ迷わせながら小さい声で言葉を付け足す。


「……ユイト様のこと、沢山の人が心配していらっしゃいます。どうか、貴方様一人のお体だと思わず、ちゃんと休息もとってください」

「そうそう、シェルミカ様の仰る通りです。ユイナート殿下は最近働きづめですから、休まないとそのうちばたりと倒れますよ」


 わたしの後に続いてミハイル様が言葉を重ねた。戦争の対応で王族のユイナート様が忙しいことは分かっているが、そのせいで彼が倒れてしまったら元も子もない。決してユイナート様に抱かれたくないから言っているわけではなく、本気で彼の体のことを心配しているのである。

 ユイナート様はわたしの顔をしばらく見つめ、息を吐いた。


「シェミに言われてしまっては、休むしかないじゃないですか。でも、僕だけでなく、貴女も眠れていないのでしょう?」


 またわたしの話に戻ってしまった。折角話を逸らせたと思っていたのに。

 ユイナート様に詳しい説明を求められ、わたしは言葉を選びながらぽつぽつと話し始めた。


「……最近、同じ夢を何度も見るのです。その夢が恐ろしくて、眠ることが怖いと感じるようになりました。そのせいで、夜も目が覚めてしまって」


 ミハイル様に説明したのと同じようなものになった。間違ったことは一つも言っていない。


「悪夢を何度も見ているのですか? 可哀想に。僕がその夢を全て忘れさせてあげたいです」


 ユイナート様がそう仰ったが、彼の紅い瞳を見るたびに夢を思い出すことになるだろう。目を伏せたわたしを見て、彼はそっとわたしの頬に手を触れた。


「その悪夢の内容は?」


 一番聞かれたくないことを聞かれ、わたしは体を震わせて視線を地面に向けた。何度目だろうか、彼に顎を上げられて紅い瞳と目を合わせられる。その瞳が、夢の中の冷たい瞳と重なって見えた。

 何か言おうとしても、喉の奥が締め付けられて言葉が出てこない。そんな時、ミハイル様が救いの手を差し伸べてくれた。


「ユイナート殿下。無理に聞き出そうとするのは得策ではありませんよ。逆に、より悪夢を恐ろしいと感じるようになってしまう危険があります」

「……そうですね。ごめんなさい、シェミ。怖いことを思い出させてしまいましたね」


 ユイナート様はミハイル様の言葉を受け入れ、引き下がった。わたしが隠そうとすることを何が何でも暴こうとする彼が、すんなりと引き下がったことに驚きつつ、心の中で感謝した。

 ユイナート様本人に、この夢のことを伝えることは、絶対にできない。


「シェルミカも眠った方がいいですよね。部屋に戻りましょうか。……貴方達はどうします?」


 ユイナート様はミハイル様達に目を向けて問いかけた。三人は顔を合わせ、同時に前を向く。


「私はここで少し体を動かしていきます」

「私もトアと同じです。本来その予定でここに来ましたが、シェルミカ様のお姿が見えたものですから」

「私は元より王城での泊まりなので、客室に戻って寝ますよ」


 三人の言葉に頷いて、ユイナート様は微笑んでわたしを見た。


「シェミは部屋に戻りましょう。これ以上外にいたら、体が冷えてしまいます」

「あ、そうだユイナート殿下。少しだけならいいですけど、夢中になりすぎて睡眠時間をなくすことはしないように」


 ミハイル様からの忠告に、ユイナート様はにこりと笑みを深めた。嫌な予感がする、不穏な笑みだった。



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